アベノミクス「第3の矢」の柱として掲げられた政策が、「医薬品のネット販売解禁」である。全医薬品の99%のインターネット販売を認め、消費者の利便性は向上する──という主旨であるが、国民の「健康」「安全」に直結する医薬品を「利便性」だけで語ることに危険はないのだろうか。

 ネット解禁を巡る議論は、最後まで噛み合わないまま“見切り発車”となった。

 賛成派である政府の産業競争力会議や規制改革会議が「利便性が高まり、経済が活性化する」と唱えたのに対して、反対派である薬害被害者団体、日本薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会などは「利用者の健康被害リスクが高まる」と主張した。

当然、「利便性VS安全性」の論争に結論が出るはずもない。だが、安倍首相は6月5日に発表した「成長戦略第3弾」の中で、「インターネットによる一般医薬品の販売を解禁する」と宣言した。“日本の成長に不可欠な政策”であると位置づけたのだ。日本薬剤師会の藤原英憲・常務理事(医学博士)が語る。

「我々はネット販売による利便性向上を否定しているわけではありません。しかし、薬が流通しやすくなれば、副作用や誤使用による健康被害の危険も比例して広がることになる。

“医薬品が適切に使われることによって国民の健康を確保する”という任務を負う薬剤師の立場として、到底賛成できない。だが、そうした意見は“利便性”や“規制緩和”という言葉で完全に無視されてしまった」

 今や「ネットで買えないものはない」時代である。15歳以上のネットショッピング利用率は40%弱に達した。しかし、その利便性が医薬品にまで及ぶことについて、藤原氏は警鐘を鳴らす。

「解禁派は電化製品や雑貨を買うのと同列に医薬品を扱いますが、不良品であれば返品できる商品と違って、医薬品は体に取り込んで初めて異常に気づくのですから、その時には取り返しがつきません。また、その薬が体質や病状に合っているかどうかを事前に利用者が判別するのは極めて難しい」

 つい忘れがちだが、医薬品は人体にとって“異物”であり、病状を改善させる効能と引き替えに、多かれ少なかれ副作用という“弊害”を伴う。

 2007〜2011年までの5年間で、一般医薬品による副作用報告は1220例(うち死亡は24例)あり、その中には副作用リスクが低いとされる第2類の総合感冒薬(いわゆる風邪薬)の事例が404例もある。また、2010年に劇薬指定を解除されたロキソプロフェン(「ロキソニン」などで知られる消炎鎮痛剤)では年間約200例の副作用報告がある。

 それを未然に防ぐ、あるいは最小限に止めるのが、まさに薬剤師ら医療従事者の責務であるのだが、「ネット販売ではその機能が十分に働かない。ネット販売でも安全性を担保できる仕組みを作るのが優先なのに、“まずは売ってみて、その後に対策を整える”というのは無責任の極みで、壮大な人体実験とさえいえます」(藤原氏)という。

 また、ネット販売には「偽造品」を掴まされるリスクが指摘されている。本誌6月7日号では米ファイザー社の「バイアグラ」をはじめとするED(勃起不全)治療薬のニセ物が中国などの闇工場で製造されている問題を報じた。

 製薬会社の調査では、驚くことにネット販売で扱われるED薬の55%がニセ物であり、まさに偽造品流通の温床となっている実態がある。

※週刊ポスト2013年7月5日号