2005年に上映された映画『県庁の星』や、『容疑者Xの献身』『アマルフィ 女神の報酬』など、多くのヒット作を世に送り出し、今年6月29日にはガリレオシリーズの最新作『真夏の方程式』が公開される映画監督の西谷弘さん。そんな西谷さんは、人間味のある男性主人公が登場する小説に強く惹かれるといいます。

20代で働き始めてからは伊集院静さんをよく読みました。どこか自分が作る映画もそうなんですが、男が主人公というところがあって。オリジナルを作るときも原作から作るときも、どうしても"自分ではないけど本来ならこう生きたい"とか、登場人物に自分の理想を求めるところがありまして。伊集院さんの作品に登場する人物の無頼的な生き方には強く惹かれてしまうところがありますね。特に短編集『乳房』の中のクレープという作品が好きでしたね。映画化もされましたが。

――「これはぜひ映像化したい!」という小説はありますか? 
映画にしたいなと思っていまだにできていないのは、遠藤周作さんの『父親』です。嫁入り前の娘が不倫の恋に落ちてしまう話で、父親は当然娘のそんな振る舞いが許せない。最終的には、古臭い昭和の父親が取り巻く問題にケジメをつけるという、娘と父、それぞれの生きざまを描いた作品なんですが...。自分の身の回りには起きないけれど、決して無いとも言い切れない。そんな物語のなかに存在するリアリティに身を任せて、本のなかで夢をみるということが、ぼくは結構多いんです。

――原作を映画として作り変える際は、どのようなところに重点を置いているんですか?
もちろん、映画的ならではのスケール感、映像だからこそ表現できる描写など、考えることは沢山あります。でも、いちばん大切なのは原作に忠実なこと。原作の旨味を失わずに時代性をどれだけ持たせられるか、だと思います。

――このたび、東野圭吾さんのガリレオシリーズから『真夏の方程式』を映画化された西谷さん。大人気シリーズが原作のこの映画ですが、映像化するにあたって特にこだわったところを聞いてみました。

今作はガリレオこと湯川(役:福山雅治)が、"人生初の嫌いな子供との交流"を体験するというのが新鮮で見どころだと思います。"実は湯川先生は子供に優しい"とは思われたくなかった。正直、そこには苦労しましたね。

――あくまで理論派で子供嫌いな湯川教授のキャラクターは守りたかった?
そうです。少年が湯川と最初のコミュニケーションで"理科は嫌いなんだ"と言うやりとりがあるんですが、それに対して湯川は無視する。なぜなら、好き嫌いは主観だからですね。ただ、その次に少年と会ったとき、湯川は"理科なんか何の役に立つんだよ"と言われてしまうわけです。湯川は科学者としての人生を否定されたことになる。「少年に科学の素晴らしさを教えます」と大義名分を立てますが、実は科学を否定されて腹を立てていたわけです(笑)。最終的には事件に関わらざる得なくなった少年を湯川は救うことになるんですけど。

――それでも少年を救った湯川教授は、やっぱり魅力的な大人ですよね。
子ども好きな人間ではないし、子どもに優しい大人になりたいわけじゃない。ただ、子供の力になる大人だったということ。でも湯川は常に科学者として自然や人類と向き合っていて、子供は地球の未来という紛れもない事実が存在する。そこに、科学者の使命として湯川が携わっているというのが狙いだったりします。原作とセットで楽しんでいただければ嬉しいです。


原作を映画化する際は、登場人物をいかに魅力的に見せられるかに力を注ぐという西谷さん。これから西谷さんが原作をどのように映画にしていくのか、本当に楽しみです。




《プロフィール》
西谷弘(にしたに・ひろし)
1962年生まれ。東京都出身の映画監督。『白い巨塔』をはじめとする人気ドラマの演出を手掛ける傍ら、2005年に映画『県庁の星』で映画監督デビュー。『容疑者Xの献身』『アマルフィ 女神の報酬』など、多くのヒット映画を監督として世に送り出しており、今年6月29日には東野圭吾のガリレオシリーズ最新作『真夏の方程式』が公開される。



『若き日に薔薇を摘め』
 著者:瀬戸内 寂聴,藤原 新也
 出版社:河出書房新社
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