松岡正剛(まつおか・せいごう)編集工学研究所所長。  雑誌『遊』編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授をへて、現在、編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。日本文化、芸術、生命哲学、システム工学など多方面およぶ施策を情報文化技術に応用する「編集工学」を確立。執筆・講演・企画・構成・プロデュース・監修・演出などを数多く手掛ける。また、日本文化研究の第一人者として、「日本という方法」を提示し、独自の日本論を展開している。2000年2月から連載中のブックナビゲーション「松岡正剛の千夜千冊」は、月間100万ページビューを超える。現在、平城遷都1300年祭「日本と東アジアの未来を考える委員会」幹事長ほか、モデレーターとしての仕事も手がけている。

写真拡大

「読んでいるときに見えていることと、それを文章で表すときに出てくるものは違うんですよ」。編集工学者・松岡正剛氏は言う。それは、道に咲いている松葉牡丹に感動したときと同様だと。
その感動をどう伝えたらいいかわからないから、松葉牡丹の色や形などの属性を挙げていく。それが統計であり、データだ。だがそれだけでは、思いがけず松葉牡丹を目にしたときのあの感動も、こんなところに咲いていたのかという「こんなところ」も、統計処理の中には出てこない。
では、次の時代に求めるべきデータとは、そしてあるべきデータのとり方とはどのようなものだろうか?前回からひきつづき、“知の巨人”との対談をお送りする。

「日本人なんだから、日本人のことはわかっていて当たり前」
という思い込み

松岡 『ソーシャルメディア進化論』には、エイベック流のコミュニティのつくり方がいろいろ明かされていますよね。「ここまでオープンにしちゃっていいの?」とこちらが心配になるような技術も。あれ、ほんとに大丈夫なんですか?

武田 はい(笑)。マーケティング開発の責任者と相談して、決断しました。こちらもすごいスピードで成長しているので、生意気なようですが、公開してすぐに追いつかれることはないだろうと……。むしろオープンにすることで、私たちが得ることのほうが大きいはずだと考えました。怖かったですが、現にオープンにしたことで、こうして松岡さんともお会いすることができました。

松岡 なるほど(笑)。

 なかでも、オンライン・グループインタビューで、親密な空間を形成できる限界の人数が7、8人というのは、おもしろいですよね。あんまり多くても、少なくてもダメ。これって、僕が考えている臨界値の生物学とよく似ているんですよ。

武田 ありがとうございます。オンライン・コミュニティの研究を始めて10年以上が経ちますが、全部、試行錯誤の中から見つけた法則です。実験はいまだに続いています。

松岡 それから、企業のコミュニティづくりも、このグループインタビューで得た顧客情報から構築しはじめるというのも、見事な知見だと思いますよ。思い込みを排除できるわけでしょう? 企業はみんな、グループインタビューをやったほうがいいのにね。

武田 そうですね。どの会社にもアイデンティティがあるので(本連載第29回、小田嶋孝司氏との対談参照)、顧客とのつながり方にしても、じつは千差万別、どれひとつとして同じコミュニティにはならない、というのがこの仕事のおもしろいところなんです。だから定性調査(※)から始めるというのにも理由があります。

 定性調査の限界にまつわる問題は、以前から市場にありました。そこで、オンラインのグループインタビューで定性調査をかけてみたら、今までの問題をいくつか解決できることがわかりました(本連載第13回、国際調査報告参照)。

 オンライン上で信頼を築き、交流することで、テーマによっては、オフライン以上に本音を出し合うことができるとわかったんです。施策をご一緒した企業の担当者の方々が、その本音を聞いて涙を流された姿も幾度となく見てきました。

松岡 泣くほどなんですね……。顧客との距離ですね、わかるな。定性調査にはたしかに感情が入ってきますからね。定性というのは、もともと喜怒哀楽に毛が生えたものだから。

武田 日本の企業をまわって気づいたのですが、調査について初(うぶ)な企業が意外と多いんです。ほとんどアンケート調査ばかりで、しっかりした定性調査はしたことがない。最初はなんでだろうと不思議に思ったんですが、その理由が、「日本人なんだから、日本人のことはわかっていて当たり前だ」という思い込みに根づいていると気づいたんです。

松岡 なるほど。それは大きな間違いだ。

武田 はい。ソーシャルメディアに現出するさまざまな生活者の実体を知れば、「日本人のことがわかる」というのが明らかな誤認だとわかります。これほど多様な生活の実態を容易に把握できるはずがないんです。

 さらに問題なのは、日本人はみな一緒だという同質性の幻想に惑わされて、調査を怠っている企業にとっては、クレーマーの声だけが経営陣に届く「唯一の定性情報」になるんです。

 企業だけでなく、新聞社、テレビ局、政党、自治体、多くの組織において、関係者の不納得を生み出すアンバランスな意思決定がこの問題によって成されています。

 組織の行動を決定する責任者の耳に、クレーマーからの声だけでなく、ファンからの声も入れなければならない。クレーマーの声だけしか聞こえない極端な現状を中和するための定性情報が、今、強く求められていると思います。

 この危機からの脱却が、ソーシャル施策を導入する最初の目的であってもよいと思います。

松岡 本当にそうですね。ビッグデータだってそうだ。そんな情報ばかりたまっているから、今のままだと編集にかけようがないんですよね。場合分けや動機づけだけでとったグローバルデータを、日本に集めてもダメですよ。データのとり方からつくり直さないと。

※ 定量調査は決定されたものの全体を計るもの。これに対し、定性調査はその決定までの過程を内容的に探るもの。

続きはこちら(ダイヤモンド・オンラインへの会員登録が必要な場合があります)