44歳にしてツアー初優勝を果たしたケン・デューク(Photo by Jared WickerhamGetty Images)

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 全米オープン翌週の大会は盛り上がりに欠けることがきわめて多い。メジャーに照準を合わせるスター選手たちは、翌週は欠場するのがお決まりのパターン。それゆえ優勝争いを繰り広げる選手たちの顔ぶれは地味になりがちで、誰が勝とうが負けようが人々からは気にも留めてもらえないというのが、メジャー翌週に開催される大会の悲しい現実だ。
【全米オープンコラム】見えないスコア
 今週のトラベラーズ選手権は10年大会を制したババ・ワトソンが米ツアー通算5勝目を挙げるかどうかに注目が集まりつつはあったももの、他の上位選手たちの顔ぶれを見ても、メジャーのような白熱と興奮の優勝争いを期待するのは難しそうだった。
 しかし……最終日の終盤は正反対になった。予期せぬ出来事が次々に起こり、手に汗握る展開となり、最後の最後はほろっとさせられるような、そんな素敵な締めくくりになった。ゴルフの戦いは72ホール。最後の最後まで何が起こるかわからない。そんなゴルフの本質を見せつけられるような、そんなサンデーアフタヌーンになった。
 最初に起こった予期せぬ出来事は2位に1打差で単独首位を走っていたワトソンがパー3の16番でトリプルボギーを叩いたことだった。この大会で初優勝を挙げ、号泣した彼は、以後、徐々に強くなり、昨年はマスターズチャンピオンに輝いた。そんなワトソンが首位を快走していたら誰もが彼の勝利を予想する。だが、ワトソンは一気に3打を落とし、代わって単独首位に躍り出たのはケン・デュークだった。
 44歳のデュークが優勝すれば、米ツアー史上最年長の初優勝者の誕生となる。その記録がすでに達成されたかのように周囲が色めき立ったそのとき、デュークを1打差で追っていたクリス・ストラウドが18番でグリーン奥からチップイン・バーディーを決め、デュークに並んだ。タイガー・ウッズの雄叫びのような激しいアクションでガッツポーズ。
 あれよあれよという間に、ワトソンの勝利の可能性は消え去り、デュークの最年長優勝はしばしお預けとなり、デュークとストラウドのサドンデス・プレーオフへ。事態はめまぐるしく変化していった。
 痛快だったのは、同じ最終組で回り、目前だった勝利を逃したばかりのワトソンが目の前で見せられたストラウドのミラクル・チップインを笑顔とハイタッチで讃えた姿。そして、プレーオフに備えて練習グリーンに向かったデュークも、アテストエリアに上がってきたストラウドとすれ違いざまにハイタッチ。そんな戦士たちの爽やかさが妙に新鮮だった。
 プレーオフを戦い始めた2人は実に対照的だった。どちらも初優勝をかけて戦っていたのだが、31歳のストラウドはギャラリーに向かってポーズを取ったり反応を求めたりと興奮気味でハイな様子。
 一方のデュークが44歳という年齢以上に老けて見えたのは、これまで乗り越えてきた苦労のせいだろう。スポットライトが当たらない選手生活に慣れてしまっているのか、疲れてしまっているのか。ガッツポーズなんてものを取ったこともなく、取り方も知らないのではないか。そう思えるほど彼は黙々とプレーしていた。
 プレーオフ1ホール目をパーで分けた後の2ホール目。デュークのドライバーショットは一回り以上も若いストラウドから20ヤード以上も置いていかれた。だが、落下エリアのフェアウエイはカート道を挟んで上って下る形状だった。あまり飛ばなかったデュークの足場は微妙なアップヒル。かっ飛ばしたストラウドの足場はきわどいダウンヒル。その差が勝敗を分けることになった。
 左足上がりの傾斜を上手く利用したデュークの第2打は、まるでブレーキをかけるかのようにピンそば70センチで見事に止まった。大観衆の割れるような拍手は「すごいぜ、デューク!」と言っていた。デュークは自らバイザーを取り、「いやいや、どういたしまして」と軽く会釈。
 表情を硬化させながら打ったストラウドの第2打はピン5メートルに付いたけれど、次なるバーディーパットがカップの右に止まったとき、彼は自らの敗北を認め、キャップを取ってHat Off。
 ウイニングパットとなった70センチのバーディパットを沈めたデュークは、根が生えたかのように両足をグリーン上に固定したまま、そして腰を低く落としたまま、何度も何度も拳を握りしめ、初めて激しい感情の高揚を体で示した。
 ガッツポーズの取り方を知らなかったわけじゃない。忘れていたわけじゃない。オレだってオレなりの勝利のポーズを持っている。オレだって、やれるんだ、やれたんだ、勝ったんだ――拳を握りしめるたびに、彼のそんな叫び声が聞こえてきたような気がした。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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