人々の心理が好転したことが、アベノミクス最大の成果と言えよう。(写真=AP/アフロ)

写真拡大

安倍晋三首相の内閣は、「ロケット・スタート」を切ったようだ。「アベノミクス」とも呼ばれる経済政策が功を奏して、人々の心理が好転している。内閣支持率も高く、停滞していた日本が、ようやく動き出した感がある。

もちろん、批判や議論もある。金融政策だけでは、その効果に限界がある。成長戦略の「第三の矢」がどのように具体化されるか、その点に注目が集まる。

ところで、アベノミクスの最大の成果は、やはり、人々の心理を動かした点だろう。景気がよくなると考える人が増えた。その結果として、株価も上がった。単なる思い込みだと言う人もいるが、必ずしもそうとは言えない。

人間の脳は、もともと、楽観的に出来ている。楽観的なくらいがちょうどよく、そのような状態で初めて脳が十全に機能するのである。

「あなたはあとどれくらい生きると思いますか?」と質問すると、多くの人が、平均余命よりも長い年月を答える。もし本当にみんなが長生きしたら平均寿命自体が変わってしまうはずだから、客観的に見ればおかしい。

「宝くじに当たる確率はどれくらいだと思いますか?」

「将来、楽しいことと辛いことは、どちらが先に起こると思いますか?」

さまざまな質問に対して、人々は実際よりも楽観的に答える傾向がある。脳は、ずうずうしくできているのだ。

このような脳内の「楽観回路」は、生きるうえで意味があるからこそ進化してきた。脳は、楽観的なくらいでちょうどいいのである。

なぜ、楽観回路が助けになるのだろうか。生きることは、不確実性に満ちている。どうなるかわからない際に、悲観的では、行動することができない。あまりにも不安や恐怖が強い場合には、「フリージング」と呼ばれる、脳の働きが停止してしまう状態さえある。

生きるうえでは不確実性が避けられないから、悲観しているばかりでは、リスクをとることができない。思わぬ発見や、偶然の幸運(セレンディピティ)に出合うこともできない。だからこそ、脳は楽観的になる必要がある。

成功するために大切なのは、「根拠のない自信」と、「それを裏付ける努力」。自信を持つのに、根拠などいらない。できると最初からわかっているのならば、あえてチャレンジする意味もない。

すべてのイノベーションの出発は、「できる」という「根拠のない自信」を持つ点にあるのだ。

できるかどうかわからないことに挑戦してこそ、創業者利益も得られる。できるとわかっていることをやっても、それほどの収穫を得られない。これは、経済の鉄則だ。

感情や気分を生み出す脳の古い部位は、理性を司る脳の新しい部位よりも、むしろ先をいく。まずは感情が生まれて、それを理性が整理し、追随するのだ。

「前例がないから」と新しいことに挑戦しないのは、結局は、理屈ではなくやりたくないからだし、成功するかどうかわからなくても前進するのは、とにかくそうしたいからである。

分析が先に立ってはいけない。まずは、感情のインフラがなくてはならない。だからこそ、脳は楽観的であるのがいい。もちろん、実際にリスクをとるときには、いろいろ工夫したり、考えなければならないのだけれども。

自分の人生の成長戦略を考えよう。根拠のない自信を持って、それを裏付ける努力を尽くそう。楽観的に行動してこそ、人生は面白くなる。

(茂木 健一郎 写真=AP/アフロ)