今から29年前(1984年)、活性炭での濾過が主流だった浄水器市場に、世界で初めて中空糸膜フィルターを採用した『クリンスイ』を発売した、三菱レイヨン・クリンスイ。同社にとって、浄水器市場の成長は常にビジネス拡大の課題と重なっていた。

 クリンスイ事業部の中で小売店営業を担当するのが第一営業部。部長の花房敬之にはある提案があった。

「若い女性を中心に小さな水筒、タンブラーを持ち歩く人が増えてきました。お茶やコーヒーなどのほかに水を入れている人も多い。ならば、タンブラー型の浄水器を開発すれば、これまでのターゲットだった主婦以外の層にも受けるのでないかと考えました」

 タンブラー本体のデザインには透明な樹脂が採用された。中が見えることで、水道水を中の活性炭で攪拌していることを視覚的に訴え、都会的なイメージを演出するためだった。

 方式もスタイルも、従来の『クリンスイ』のそれを捨てる──。花房の決意は固かった。

 その一方で花房自身も『クリンスイ』が同社にとって重要なブランドであることは痛いほどわかっていた。そこで『クリンスイ タンブラー』というネーミングを新たに使用し、従来とは異なるシリーズであることを明確に打ち出したのだ。

 2012年4月。『クリンスイ タンブラー』が発売されると狙い通り都心のOLの間で話題となり、目標の年内10万本の販売はわずか3か月でクリア。今年の4月までに累計30万本を超える売り上げを記録した。

『クリンスイ タンブラー』を使えば、水道水の味の違いは明確か。記者も試しに水道水を『クリンスイ タンブラー』に入れて数十回シェイクして味わってみた。もちろん見た目は無色だから、何ら変化はない。しかし飲んでみると味は確かに微妙に違う。何杯か飲み続けた後、また水道水を飲んでみると、今度は明らかに味の違いを感じた。

 水道水がより飲みやすい味に変わっていたのだ。

■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年6月28日号