『誰とでも15分以上会話がとぎれない!話し方66のルール』(野口敏著・すばる舎)が、80万部を超えるヒット作となるなど、「話し方マニュアル」がブームになる一方で、しゃべらない若者も増えている。日本生産性本部が昨年公表した「日本の課長と一般社員 職場のコミュニケーションに関する意識調査」によると、一般社員の78%が「人前で話すことが苦手」と回答した。

 なぜ、最近の若者は会話に苦手意識を持ち、雑談を回避するのか。「人前でしゃべらない大学生が目立つようになった」と指摘するのは、流通科学大学の石井淳蔵学長だ。

「『しゃべらない』のは、これまでの教育システムの副作用があると思います。いまや大学入試はもちろん、就職試験でもSPI(総合適性検査)のような、知識を詰め込んで予め答えのある問題を解くことだけが要求される。そうした訓練ばかりだったので、自ら直面する現実問題に対応できない」

『仕事の9割は世間話』(日本経済新聞出版社)の著者で、人事コンサルティング企業「セレブレイン」の高城幸司社長が続ける。

「彼らに共通しているのは真面目なこと。大学でもサボることなく、きちんと授業を受けています。理由は50社受けても1社も受からないというような就活の大変さを知っているから。早めに単位を取得して、就活戦線に備えるのです。

 そもそも不況で親の仕送りが激減したので、学生は遊ぶお金がなく、サークル活動や飲み会をしなくなった。学校が忙しくてアルバイトもしないので、幅広い世代と触れ合う機会を失っている。“遊びの要素”がないから、会話力が鍛えられないのです」

 また高城氏は、現代っ子ならではの環境も理由に挙げる。

「実際に会って話をしたり、電話でしゃべったりする場合は、“最近どう?”、“毎日暑いね〜”などと会話を温めてから用件に入るのが普通です。ところが、今の若者はメールというツールを中心に意思疎通をするようになったため、知らず知らずのうちにこうした“枕詞”を失ってしまった。用件だけのやり取りに慣れた彼らにとって、雑談や世間話は“無駄”なのです」

 こんな意識だからこそ、世代間ギャップは埋まらない。都内の中堅食品会社の30代社員はこう憤る。

「厄介な仕事がようやく一段落して、同じグループのメンバーたちと、オフィスで他愛もない雑談をしていたんです。“今度お疲れ会やろうか〜”なんてね。近くには新人もいました。

 普通なら“僕が店を予約しましょうか?”とか“僕、焼肉食いたいッス”なんて話してもおかしくないシチュエーションなのに、一向に話に入ってこない。ちょっと腹が立って、“お前、何聞こえないフリしてんの?”と注意したら、“なんでそんな言い方されなきゃいけないんですか!”と、にらみ返されました」

 こうした出来事は、もはや多くの企業で日常茶飯事と化しているという。

「自分の関心や仕事に直結しない話は、たとえ上司や先輩でも聞き流されます。失礼だと怒っても、『なぜ、仕事と関係ない話にまでいちいち返事をしないといけないのか』と問われてしまう。この場合、“目上と世間話をすることも会社でのルールなんだ”と説明するか、“返事もしないと信用を失って仕事ですら声をかけてもらえなくなるんだぞ”と理を説いて初めて受け入れられます」(前出・高城氏)

※週刊ポスト2013年6月28日号