『プロ野球「ヒーロー」の栄光と挫折』(手束仁著/イースト・プレス)
人生の中で誰もが経験する栄枯盛衰や人生の浮き沈み、それらを「ヒーロー」の看板を背負わされた男たちの逸話や伝説を引きながら感受していく。

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「慢心、環境の違い…スーパーヒーローと消えたヒーロー、どこで差が着いたのか?」
こんな帯文が記されているのが、今回紹介する野球本 『プロ野球「ヒーロー」の栄光と挫折』。
ネット上ではおなじみの「何かと何かを比較する」際のテンプレであるが、元ネタは元巨人の上原浩治と中日の川上憲伸を比較するニュース記事。プロ野球選手の「栄光」と「挫折」をまとめた本書にこそ最適な帯文といえるだろう。

本書に登場する53人の(現役&元)プロ野球選手のうち、45人はドラフト1位(または自由獲得枠)。アマチュア時代から注目を浴び続けた期待のルーキーたちが、その後にどんな人生を歩むことになったのかを振り返ることで、プロ野球の華やかさ、一瞬のまぶしさ、そして現実の厳しさを痛感することができる一冊である。

前評判通りの活躍を見せ、プロ野球界でも一時代を築く真の意味での「ヒーロー」がいる一方、そんな一握りの成功者とは比較にならない数の「元ヒーロー」たちが毎年ユニフォームを脱いでいく。ドラフトの瞬間こそが栄光のときだった、なんて例もゴロゴロ。中には一度も一軍の試合に出ることがないままユニフォームを脱いでいく者もいる。
なぜ、彼らは輝くことができなかったのか。はたまた成功することができたのか。時代背景とともに一人一人の人生を走馬灯のように追いかけることで、「ヒーロー」の看板を背負わされた男たちの逸話や伝説を引きながら感受していく。

甲子園のスターとして一斉を風靡した太田幸司、荒木大輔、定岡正二、斎藤佑樹……彼らの栄光の瞬間とは、プロ入り前だったのか、それともプロ入り後にもあったのか。

ヤクルトのドラフト1位として、そして長嶋茂雄の息子としてスポットライトを浴び続けた長嶋一茂。96年に引退後、タレント・コメンテーターに転身。堂々として受け答えをそつなくこなす今こそ、彼にとっての輝ける瞬間なのか。

他にも、愛甲猛、清原和博、桑田真澄、松坂大輔ら、甲子園の覇者たちの真の栄光の瞬間はいつだったのか?
江川卓、元木大介、小池秀朗、木田勇など、ドラフト1位指名を拒否した男たちの輝やききれなかった歴史。
そして栄光の時を経て、犯罪者となってしまった者……
53人の人生を次々と見返していくことで、プロ野球を語る上で欠かせない「ドラフト」という制度の物語性、そして残酷さを改めて実感することができる。

だが、読み終わって気付くのは、ドラフトの残酷さだけではなく、次から次と新しいヒーローを探し出し、古いヒーローを消費していくメディア側の残酷さだ。
本書の中にはこんな記述がある。
《スポーツメディアは実に冷たいのだ。持ち上げるだけ持ち上げておいてストンと陥れることなど当たり前の世界である。しかし、それを受け止めていくのもまたプロ野球の世界である。それでもヒーローとしての輝きを失わないでいようという意識がその選手を支えていくこともあるだろう》

最も、これをメディア批判で終わらせるのも無責任だ。そのメディアの先には、ドラフトで品評される選手たちに注視する我々ファンの姿も透けて見えてくる。

先週6月8日、全国の先陣を切って夏の高校野球神奈川県大会の組み合わせ抽選会が行われた。注目はなんと言っても今年のドラフト1位最右翼・桐光学園の松井裕樹投手だ。新たなヒーローが生まれ、その年のドラフトが盛り上がり、そしてプロで活躍するその姿に憧れてまた新たなスター選手が生まれる……という無限ループ。
そこにあるのは、プロ野球の明るい未来なのか、消費しつくされてやせ細っていく悲しい未来なのか。
そんなことを考えたくもなる一冊である。
(オグマナオト)