NTT西日本社長 大竹伸一氏

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■変化を恐れず、ダイナミックであれ

仕事のやり方が過去10年とは大きく変わってきている。たとえば当社の主力商品であるインターネット接続サービスの「フレッツ光」は、発売後10年ほどで契約数700万件の大台に達したが、そのぶん新規契約の伸びは落ちている。市場が飽和に近づいているからだ。

単純化していうと、これまではブロードバンドの普及に向けてひたすら走り続けていればよかった。しかし、それも一段落したいま、私たちの仕事は700万の顧客基盤に対して「どのようなサービスをお届けするか」にシフトしている。たとえばクラウドサービスや、家電と通信との融合(「家まるごとデジタル化」)、環境エネルギービジネスといったものだ。

今後はこのような新しい領域へ切り込んでいかないと、NTT西日本といえども十分な利益を確保することができない。必然的に仕事のやり方も変わってくるだろう。われわれはいま、転換点に立っているのだ。

その中で必要とされるのは、どのような人材だろうか。3つの資質を挙げたいと思う。

ダイナミックな人材であること、チャレンジ精神が旺盛であること、ミッションを大事にすることだ。

いまのような転換期にあっては、従来の発想にとらわれるのではなく、自由にどんどんクリエーティブな考えを発揮してもらいたい。それができる人を、私は「ダイナミックな人材」と呼んでいる。

平穏な時代であれば、従来の商品・サービスの改良や改善を進めることが優先され、そつなくそれに取り組める人が有用な人材だった。しかし、改良・改善では済まないのがいまである。変化を恐れず、ダイナミックに発想し行動してもらいたい。

かつてなら、ここで必要とされたのは「エキスパート」人材であった。10年前の変革期にはアナログからデジタルへ、銅線から光ファイバーへと、技術基盤が大きく変化した。その新しい技術に通暁したエキスパートである。

ところが今回の変革では、先端の技術は必要であっても、さらにその上に新しいサービスが乗ってはじめて形になる。「エキスパートである」というだけでは、仕事を十分に牽引できないおそれがあるのだ。したがって、ダイナミックであることが大事になる。

一方、いつの時代にも変わらず必要であるのがチャレンジ精神だ。自分の中に1つの疑問がきざしたら、1種類の解釈、1種類の解答によって素直に納得するのではなく、さらに重ねて、4度でも5度でも「なぜなんだ?」「なぜなんだ?」と問い続けることが大事である。私はその姿勢をこそチャレンジ精神と呼びたい。

言葉を換えれば、世の中のあらゆる事象に興味を持つということだ。1つの工程を手がけていても、最近は川上や川下の工程すべてに関わるような仕事が増えている。すると、与えられたパーツだけを突き詰めていくのではなく、全体に目配りした仕事ぶりが必要になる。逆に全体を見ることができなければ、それ以上の成長は望めないといえるだろう。

3つ目は「ミッション」だ。いま日本の企業は当然のように公共心のもとで事業活動を進めているが、そんな中でも、インフラ企業であるNTTグループの社員は、とりわけ強く公共的な使命(ミッション)を意識しながら行動しなければならない。このことを大切にしなければいけないと思っている。

われわれのミッションとは、人と人とのコミュニケーションを媒介するということだ。ひらたくいえば、人と人とを「つなぐ」こと。2011年は、東日本大震災や西日本を襲った大型台風など、心構えの真価を問われる事態が連発した年だった。

■「自分たちが通信を守る」ミッションを再確認

とりわけ東日本大震災では、携帯や固定電話が不通になるとか、広い範囲で連絡が途絶するといった異常な事態が発生した。われわれはすぐさま、西日本各地から東北地方へ延べ2000人におよぶ応援部隊を編成して送り出した。うれしいことに、この部隊には入社2、3年の若手や新人たちも多数志願してくれた。

それだけではない。西日本各地の現場では、大地震の一報が入った時点で停電時に使う移動電源車や、パラボラアンテナつきのポータブル衛星機器のスタンバイを始めていた。

地震発生は金曜日の午後3時近く。通常なら3時間もしたら終業時刻となり、帰宅してしまうところである。だが、移動電源車やポータブル衛星機器を扱うベテラン担当者は、阪神・淡路大震災を大きく上回る被害状況をテレビ報道などで確かめて、いつでも出動できるようにガソリンの給油や機器の整備を始めていた。

結果的に正式な出動命令を下したのは当日の夜になってからだが、現場はその間、じりじりしながら待っていたという。そのとき彼らの心にあったのは「自分たちが通信を守る」という強い自負である。

大きかったのは17年前の阪神・淡路大震災の経験だ。被災地は補給路が断たれているので、さまざまな必要物資を持参しなければならない。彼らは手に入る数日分の食料や防寒具を積み込んで、陸路やときには海路を使いながら東北の被災地へ向かったのである。

西日本はもともと、東に比べて台風による水害などが発生しやすい土地柄だ。そのため、災害時の対応にはいくらか長けているところがあるが、阪神・淡路大震災のときに助けてもらった恩を返したいという動機も小さくはなかった。そういったことを先輩から後輩へと受け継ぐ中で、ミッションを大事にするという資質が花開いたのだ。

先ほど、社員に対してまず「ダイナミックであれ」と呼びかけた。狭い分野に閉じこもるような、単なるエキスパートでは通用しないということを言い添えた。

では、エキスパート型の人材は不要になるのだろうか。もちろん、そんなことはない。私が言いたいのは「世の中の動きにあわせて、ダイナミックな人材になってほしい」ということだ。

ありがたいことに、私たちの社員は多くが高い能力を持っている。ベースがしっかりしていれば、変わることはできるのだ。とりわけ、何事にも興味を示す人なら必ず開発できると思っている。たいていの組織人は、きっかけがあれば花開くのだ。

そうした考えから、私たちは新人だけではなく中堅層や管理職層などを対象に、きめ細かな年代別の研修制度を取り入れている。とくに重視しているのが、モチベーションの下がりがちなベテラン層の啓発だ。定年までの10年、15年を気概十分に働いてもらう。トップランナーたちを鍛えることは必要だが、こうした底上げも大事であると感じている。

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NTT西日本社長 大竹伸一
1948年、愛知県生まれ。県立旭丘高校、京都大学工学部卒。71年日本電信電話公社(現NTT)入社。2000年NTT第2部門長、02年NTT−ME東京社長。04年NTT西日本常務、07年副社長戦略プロジェクト推進本部長などを経て、08年社長就任。

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(面澤淳市=構成 熊谷武二=撮影)