宇佐美吉啓(EXILE USA)

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仕事とは?

宇佐美吉啓(EXILE USA)

うさみよしひろ・1977年神奈川県生まれ。94年に結成したダンスチーム「BABY NAIL」でダンスの実力を認められ、96年、ZOOのメンバーだったHIRO(現EXILE リーダー)が結成した「Japanese Soul Brothers(のちにJ Soul Brothersに改名)」に加入。99年、Dreams Come True武道館ライブ「THE MONSTER」のサポートメンバーとして参加。2001年夏、EXILEとしてデビュー。EXILE随一のダンス技術を持つパフォーマーとして定評がある。役者としても活動しており、劇団EXILE『DANCE EARTH〜願い〜』、映画『京都太秦物語』(山田洋次・阿部勉監督)などに出演。また、「ダンスは世界共通言語」をテーマに、「DANCE EARTH」の活動を続け、旅本『DANCE EARTH』、『DANCE EARTH〜BEAT TRIP〜』、『地球で踊ろう!DANCE EARTH〜Change the World〜』、DVD『DANCE EARTH』、絵本『ダンスアース』『ダンスアース2』を発表。13年5月より全国順次公開の映画『DANCE EARTH〜BEAT TRIP』では出演・総合プロデュースを務めている。

先生に渡された就職ガイドには、なりたい職業がひとつもなかった

僕の両親はディスコで出会ったんですよ。家にはいつも音楽がかかっていて、週末になると父が六本木とかで知り合った外国人が鍋パーティーにやってきたりして。で、盛り上がって大人たちが踊り出したりするんですけど、僕はサッカー少年だったので、それがイヤで。「明日は試合なんだから、早く寝かせてくれよ」なんて思っていました。でも、中学時代にテレビでMCハマーやZOOを観てストリートダンスのかっこよさに衝撃を受けて。それからは、しょっちゅう踊っていて、高校時代にはダンスコンテストにも出場。現・EXILEメンバーのMATSUやMAKIDAIともそういう場で出会いました。

 

そのうちに高校ももうすぐ卒業という時期になって、進路はすごく悩みました。まあ、進学はないだろうからと担任の先生から就職ガイドを渡されたんですけど、当時の僕にはピンとくる職業がひとつもなくて。困ったなあと思ったんですけど、自分が本当にやりたいこと、好きなことってなんだろうと心の真ん中の声をひとりで聞き出していったら、やっぱりダンスが大好きでダンスがうまくなりたいという気持ちがあって。じゃあ、将来どうなるかはわからないけれど、自分の心のままに動いてみようと、卒業後にアルバイトで貯めたお金でニューヨークにダンス修業に出かけました。

 

アメリカでの滞在期間は6週間の予定でしたが、途中で資金がつきて帰国したほどの貧乏旅行でした。MATSUやMAKIDAIたちと安いモーテルに泊まり、ダンススクールに行くお金もないので、クラブに通うしかない。端(はた)から見れば、ただ遊んでいるだけに見えたかもしれませんが、ダンス上達のための最速の方法はクラブで踊ることだと僕は思っていたし、実際にそうでした。現地の人たちのビートを肌に感じて、同じリズムを乗りこなすことで吸収できるものってあるんです。

 

日本に戻ってからしばらくは、夜はクラブに通い、ダンス仲間に紹介してもらったスクールで週に何回かダンスを教えるという生活。MATSUやMAKIDAIとダンスチーム「BABY NAIL」を結成してダンスイベントにも出場し、のちにEXILEのリーダーとなるHIROさんとも知り合いました。最初は「いつか成功する」と楽天的に考えていたのですが、高校を出て数年経ってもダンスで飯を食えるようにはならなくて。当時つき合っていた彼女にも愛想を尽かされ、さすがに落ち込みました。そんなときにアルバイトを始めた自然食レストランの空気がすごく心地よかったんですね。スタッフがみんなサーファーで海を愛していて、いい店を作りたいという真剣な思いを持っていて。「いくらダンスが好きでもお金にはならないし、周りにも心配をかけるだけ。共感できる仲間と楽しく仕事をするという生き方もあるかな」と本気で考えたりもしました。

 

だけど、やっぱりダンスはあきらめられませんでした。店で働きはじめて数カ月経ち、アルバイトからそろそろ社員にという雰囲気だったころ、HIROさんのツテで、ドリカム(Dreams Come True)の武道館ライブにバックダンサーとして出演できることになったんです。願ってもない話でしたが、武道館ライブに出るには何度もリハーサルに行かなければならず、店の仲間に迷惑をかけてしまう。たった一回きりの武道館ライブのために、何の不満もない仕事をやめなければいけないという選択を迫られました。それでも大好きなアーティストと同じステージに立ちたいと思ったとき、自分は何よりもダンスが好きだってあらためて感じたんです。

 

店をやめた後も、ダンスを選んだことに自信なんてありませんでした。でも、武道館ライブが始まる直前にみんなで円陣を組んだとき、ドリカムの吉田美和さんがバックダンサーにも同じライブを作り上げるメンバーとして声をかけてくれ、「今日来てくれた人たちをみんなで幸せにしましょう」って言ってくれたときに、感動で鳥肌が立って。そして、実際にお客さんが本当にうれしそうにしている姿を見て、「これが自分たちのステージで、武道館いっぱいの人たちを喜ばせることができたらどんなに幸せだろう。今度は自分がアーティストとしてここに立ちたい!」と思ったんです。それが「踊りで飯を食う!」と腹を決めた瞬間でした。

 

 

■ 組織に属していても、個人としての挑戦をやめないことが大事

EXILEとしてデビューして10年以上が経ちました。たくさんの人たちに知ってもらえるようになって僕自身が変化したのは、責任感のようなものが強くなったことです。お客さんに喜んでもらえるパフォーマンスをするのはもちろん、EXILEには「Love(愛)、Dream (夢)、Happiness(幸福)」というテーマかあるので、そこに反するような行動はしたくないと思っています。

 

EXILEのUSAとしてではなく、「宇佐美吉啓」というひとりの男としての夢も大きくなりました。その夢を実現する場となっているのが、2006年からライフワークとして始めた「DANCE EARTH」というダンスプロジェクトです。雑誌の取材でキューバを訪れ、ダンスで現地の人たちと心を通わすことができたのがきっかけだったんですけど、「ダンスという共通言語で世界中の人とつながりたい」という気持ちが生まれて。13年までに15カ国以上を訪れ、そこで出会った思いを舞台や絵本にしたり、自給自足のヴィレッジ「DANCE EARTH VILLAGE」の運営など、さまざまな表現に変えてきました。

 

最近では旅の記録映像で映画も作りましたが、個人の旅なので、行き先を決めるのはもちろん僕です。マサイ人のジャンプ力はすごいと聞いて「勝負してみたい!」とタンザニアに行ったり、旅先で得た情報をもとに予定外のケニアを訪れて80歳を超えたおじいちゃんダンサーに会ったり…。行き当たりばったりの旅なので、うまくいかないことも多いんですけど、「じゃあ、どうしようかな」と考えるのも楽しかったりして。僕のダンスはフリースタイル(ジャンルを問わない自由な踊り)なのですが、旅や人生も型にはまらず、自分の感性を信じたい。旅に出て、EXILEという看板のないひとりの旅人になったときに、アンテナの感度がより高くなるというのはあるかもしれないですね。

 

皆さんは会社に就職する人たちがほとんどだと思いますが、組織だからできることというのはあります。EXILEも100万人以上を動員するスタジアムツアーをやったりしますが、ステージに立つと、これだけ多くの人の心を動かすことはメンバー14人の力を合わせるからできることだと感じます。一方で、やはりそれはEXILEの活動とは別にメンバー一人ひとりが夢を追い、成長し続けているからこそ、みんなで集まったときにお互いの力を増幅できるんです。だから、組織に所属していても、個人として夢を持ち、挑戦をやめないことは大事なんじゃないかな。

 

最近思うんですけど、仕事って就職ガイドにのっているような職種だけじゃないんですよね。たとえば、「夕陽評論家」という肩書きで仕事をされている油井昌由樹さんという方がいるんですけど、油井さんは別に夕陽評論家を目指していたわけではなくて、夕陽がとても好きだから、写真を撮ったり、解説をしたりするうちに仕事にもつながったんだと思う。最初は周囲に理解されなくても、情熱を絶やさずに好きなことを追求し続けていればやりたいことはできるし、どこまでも行けると僕は信じています。

 

ダンスが好きだというシンプルな理由だけで踊り続けてきましたが、ここ数年は世の中に対して自分が何をできるのかを考えるようになりました。これは、東日本大震災の影響も大きいです。「ダンスでは何もできない」と無力感にさいなまれ、でも、ひとりの男として何かをやりたくて被災地でのボランティアに参加したら、そこにいた人たちに喜んでもらえた。その時に「ああ、そうか」と思ったんです。世の中を一気に変えることはできなくても、目の前の人に喜んでもらうことで、一歩は踏み出せる。それを僕はダンスでやっていきたいし、政治家でもなく、学者でもなく、ダンサーだからこそできることがきっとある。みんなそれぞれの職業で頑張っているから、僕らはエンターテインメント班として社会に貢献していけたらなと思っています。

 


■ INFORMATION

宇佐美氏が2006年から主宰するプロジェクト「DANCE EARTH」の活動を追ったドキュメンタリー映画『DANCE EARTH〜BEAT TRIP〜』が公開中。USA本人が、スペインのイビザ島、タンザニア、ケニア、バリ、ジャマイカ、米シカゴなど各国を旅し、行く先々で出会った人種も世代も異なる人々とダンスを通して交流していく姿をとらえる。

『DANCE EARTH〜BEAT TRIP〜』は13年6月15日(土)〜TOHOシネマズ 名古屋ベイシティ、6月22日(土)〜札幌シネマフロンティア、6月29日(土)〜TOHOシネマズ 天神にて各地一週間限定上映。映画『DANCE EARTH 〜BEAT TRIP〜』公式サイト http://movie.dance-earth.com

 

取材・文/泉彩子 撮影/鈴木慶子