アジアにおける現役の“カリスマ政治家”といえば、誰を思い浮かべますか? 今ならぼくは迷いなく、台湾・馬英九(ば・えいきゅう)総統の名前を挙げます!

今年1月にワシントンで行なわれた就任演説でオバマ大統領を見たときと同じくらいの衝撃、そして魅力を感じさせてくれる指導者が、アジアにも存在するということを初めて知りました。

4月17日に台湾・輔仁(ふじん)大学で開催された「釣魚台列島議題国際シンポジウム」にパネリストとして参加したときのこと。テーマは「東シナ海平和イニシアチブと釣魚台列島(=尖閣諸島)の紛争解決に向けた道のり」。この会場で、基調講演をした台湾・馬英九総統と交流する機会がありました。

馬総統はホスピタリティ豊かで物腰が柔らかい。甘いマスクと強い目力、日々のランニングで維持するスマートなスタイル。スピーチでは原稿の棒読みなどせず、ジェスチャーを交えてリズミカルに聴衆を魅了していました。

馬総統はハーバード大学で博士課程を修了しており、論文の研究テーマはなんと「尖閣諸島問題」。一緒に会議に参加した台湾外交部の役人は「台湾で最も尖閣諸島問題に詳しい学者は馬総統だ」と言い切り、馬総統本人も「この問題に個人的に関わって40年以上になるが……」と感慨深く語っておられました。

卓越した専門性と洗練された英語力、スマートさとカリスマ性を兼ね備えた馬総統は、アジアでは傑出した指導者と申し上げて間違いありません。

彼の立場上、当然のことではあるにせよ、基調講演では「尖閣諸島は中華民国固有の領土だ」と延々と述べるので、日本人であるぼくとしてはあまりいい気分はしませんでした。それでも、「東シナ海を平和の海にする」という地域主義をベースにした提唱、日中台のトライアングルで機能的な話し合いをしていきたいとの主張など、同意できる面もありました。

今回のシンポジウムにおいて、台湾関係者はその1週間前に日本と締結した「日台漁業協定」を前面に押し出したかったらしく、われわれ参加者は漁業の盛んな台湾北東部の宜蘭(ぎらん)県を訪れ、地元の漁師や村長たちと密にコミュニケーションを取る機会を得ました。

地元の人たちは、「釣魚台は宜蘭の漁民にとっては伝統的な漁場なのです」と主張します。印象的だったのは、漁業組合の人たちが日本に対して友好的なこと。この海域では日本と良好な関係を築いていきたいと言っていました。

一方、われわれに同行していた台湾外交部の役人に、漁業組合の人たちが詰め寄り、言い合いになる場面も見受けられました。

「主権なき漁業権など無意味だ」

これが漁業関係者の訴えです。

台湾が世界の多くの国々から“国家”として認証されておらず、主権を主張できる場面が限られているのは事実です。だからこそ漁民は「まず主権を取り返せ、強気でいけ」と外交部に迫る。主権さえあれば、そもそも漁業協定など必要ないのだ、と。しかし外交部としては、これまでの歴史の流れや相手のある話だから、そう簡単に言われても困ってしまう。

日本の普天間問題もしかり、どの時代、どこの国であっても、中央と地方、政府と住民の考え方にはズレがある。台湾も同じなのだと、宜蘭の海に沈みゆく夕日を眺めながら考えていました。

そんなジレンマを抱える状況下において、馬総統は得意分野の尖閣問題で国際社会に「東シナ海平和イニシアチブ」を訴え、日本とは「主権」にタッチしない形で漁業協定を結ぶことに成功した。地域主義と機能性を軸にした“独自外交”。これほど戦略的に立ち回れるアジアの政治家をぼくはほかに知りません。なぜ日本には「専門性」と「カリスマ性」を兼ね備えた指導者が出てこないのか、その理由を逆に教えて!!

今週のひと言


台湾・馬英九総統は、アジアでは


ナンバーワンのカリスマ指導者です

●加藤嘉一(かとう・よしかず)


日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!