焦ることの危険性、一歩引くことの大切さ、ローズの勝利は様々なことを教えてくれる(Photo by Scott HalleranGetty Images)

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 ジャスティン・ローズの優勝で幕を閉じた今年の全米オープン。アメリカ合衆国のナショナルチャンピオンになることを夢見続けてきたフィル・ミケルソンの願いは、またしても悲願のままとなったが、サンデーアフタヌーンの最後の最後に勝敗を分けたものは、果たして何だったのだろうか。
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 近年の全米オープンは年々コースが伸長され、パワー合戦と化していた。が、今年の舞台、メリオンはコース全長が7000ヤードを切り、開幕前の予想では「飛距離合戦ではなくショットの正確性や小技の上手さを競う戦いになるだろう」と言われていた。
 そして、開幕前のもう一つの予想として「短いホールも多いため、スコアは伸び、リーダーボードにレッドナンバーが並ぶバーディ合戦になる。優勝スコアは2桁アンダーになりうる」という見方もされていた。
 練習日。選手たちは口々に「易しいホールと難しいホールがはっきり分かれている」「フェアウエイとグリーンを捉えさえすれば、バーディが取れる」と指摘した。ラフやハザードを避けさえすれば、それなりのスコアは作れるはず……。目に見えるメリオンは、そういう舞台のはずだった。
 しかし、蓋を開けてみれば、選手たちのスコアは想像以上に伸び悩んだ。開幕前にはストーム、初日は雷雨中断など悪天候に見舞われたが、柔らかくなったグリーンはむしろボールを止め、易しくしてくれるはず。それなのに選手たちのオーバーパーの数は膨れ上がっていった。
 どんなスコアを出せば順位は上がり、どんなスコアを出すと順位は下がるのか?これまでの全米オープンは優勝スコアがイーブンパーになるよう設定されてきたが、下馬評で「2桁アンダー」とまで言われた今年の大会の優勝スコアは一体いくつになるのか?
 目指すべきスコアが見えてこないから、誰もが暗中模索。それは、1つ2つとスコアを落としていったとき、どこまで自分を信じ、諦めず、再びスコアを戻せるかの我慢合戦。飛距離やショットの正確性や小技やパットの巧拙はもちろん求められるけれど、最後の最後は精神戦になっていたのだ。
 最終日を単独首位で迎え、最終組でスタートしたミケルソンが3番、5番で続けざまにダブルボギーを喫したのは、勝利に向かって逸る気持ちを抑えきれなかった何よりの証だ。「ボギーに抑えるべきところをダブルボギーにしてしまったのが致命的だった」。
 一方、ミケルソンから2打差の5位から最終日をスタートしたローズは「リーダーボードは、なんとなく見るだけに留めた。このコースでは自分の気持ちを先走らせないことが大事だと思っていたから」。メジャーという大舞台の大詰めで、そんな一歩引いたスタンスを保ち続けることができたのは、ローズが長年、茨の道を歩んできたからだろう。
 98年の全英オープンに17歳のアマチュアとして出場し、4位になって脚光を浴びたのは良かった。が、すぐさまプロ転向したら21試合連続予選落ち。欧州ツアー初優勝までに4年を要し、米ツアー初優勝までに12年を費やしたローズは、もはや焦ることの無意味さと危険性を痛感していた。
 とはいえ、勝利を重ねるにつけ、年々、自信を高めてきた。「この2〜3年、調子は着実に上がっていた。メリオンはメジャーで勝つベストチャンスだと思って乗り込んだ」。それは一歩引きながら狙いを定め、着実に仕留めた勝利だった。
 そんなローズの長い歩みに比べれば、松山英樹のプロとしての歩みはあまりにも短い。が、最終日に67をマークし、10位に食い込んだ大健闘の陰には「去年のマスターズの最終日に崩れた」悔しさがあり、「メジャーの舞台での雪辱」が彼の原動力となってきた。「これでちょっとは克服したかな」。
 松山のプロとしての歩みは、今のところは前進あるのみのイケイケ状態だ。目指すべきスコアがなかなか見えなかったメリオンでも「オーバーパーを打ちたくない。アンダーパーで回りたい」と前だけを向いて突き進み、それが功を奏した。
 だが、そこにはまだローズやミケルソンが味わった優勝争いの駆け引きやプレッシャーは無かった。松山自身、優勝争いの中だったら同じことが「できたかどうか?微妙です」。
プロの道は長く険しい。悔し涙が喜びをもたらすこともあれば、悔し涙がさらなる悔し涙と化すこともある。アップダウンが激しいメリオンの土を踏みしめながら、松山がプロとして大切な何かを噛み締めて帰っていった……そう思えることは、何よりうれしい。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>

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