スマトラ島沖地震で奇跡的に助かった家族の実話を描く/映画『インポッシブル』【最新シネマ批評】

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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは6月14日公開の映画『インポッシブル』。この映画は、2004年に起こったスマトラ島沖地震に遭遇した家族の実話がベースになっています。津波によりバラバラになった家族が再会し、絆を取り戻す物語はまさに奇跡です。

2004年の12月24日、クリスマス休暇を過ごそうと、タイのプーケットにやってきた英国人一家ヘンリー(ユアン・マクレガー)とマリア(ナオミ・ワッツ)と息子3人は、ビーチが一望できる部屋で幸福な時間を過ごしていました。ところが3日後、ホテルのプールで過ごしていたとき、突風が吹き、鳥が一斉に飛び立ち、ヤシの木がドミノのように倒れ、瞬く間にホテルは津波に飲み込まれてしまったのです。

まず息を飲んだのは津波の映像。一気に押し寄せてすべてを飲み込んでいく津波のシーンは、やはり私たち日本人には否が応にも東北大震災での大津波を彷彿とさせます。海が、家やトラックや船を襲い、その場にあるすべてを根こそぎ壊滅させていく様子が映画で繰り広げられていくのです。そのシーンを見たとき、正直「誰にでも勧められる映画ではないかもしれない」と思いました。非常にリアルすぎて、当時心に受けた衝撃と悲しみが入り交ざり、思わず目を背けたくなりました。

作品では、津波に襲われ、服が破れ、体も傷だらけになったマリアと長男は奇跡的に再会。二人で家族を探し始めます。マリアは足に重傷を負い、その激痛に苦しみながら家族を探すのですが、その姿が痛々しくて……。自分たちも辛いのに人助けまでしようとするマリア。演じるナオミ・ワッツは、痛みに絶叫し、やがて叫ぶ力もつきて衰弱していく様を生々しい演技で見せていきます。

タンクトップから胸がはだけ、歩行困難になり、意識が遠のいていく……。肉体と精神が生死をさまよい、生命の灯がかすかに点灯しているかのような弱々しい表情。命が薄れていくリアルな姿をナオミ・ワッツは体現したのです。彼女は『インポッシブル』の演技で2012年度アカデミー主演女優賞候補になりましたが、納得です! というか受賞してもよかったかもしれません。

映画はマリアと息子、ヘンリーと二人の息子というふたつの視点から震災を描いています。彼らはどうやって再会できたのか……それは映画をぜひ見てください。ちなみにこの映画には賛否あり、旅人は母国に帰れば元の生活に戻れるかもしれないが、現地の人々はこの先も厳しい現実のなか生きなければならない。それが描かれていないという声もあります。スマトラ島沖地震は多くの方が犠牲になり、助かったヘンリー一家は本当に幸運だったとしか言いようがありません。助かった人がこうして声高に真実を語らなければ、そのとき起こったことは伝わらないことも事実です。

J・A・バヨナ監督は、「一番大切なことは、観客に深く影響を与える悲劇的な実話に対し、敬意を表して描くこと」と語ります。この悲劇のなかで、もちろんこの家族だけではなく同じように傷を負った人々がいて、彼らを助けるために奔走した人々もいます。災害後の混乱のなか、必死に生きようとする人々の姿が『インポッシブル』には描かれていると思います。
(映画ライター=斎藤 香)

『インポッシブル』
2013年6月14日公開
監督:J・A・バヨナ
出演:ユアン・マクレガー、ナオミ・ワッツ、トム・ホランド、ジェラルディン・チャップリン、サミュエル・ジョスリン、オークリー・ペンダーガストほか
(C)2012 Telecinco Cinema, S.A.U. and Apaches Entertainment, S.L.


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