気づいていないのは自分だけ? 日本人でも意外と知らない和食のマナー

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洋食のテーブルマナーはよく聞くけれど、和食のマナーはあまり話題にならないですよね。しかし、和食にもマナーはあるはずだし、知らないうちにマナー違反をしている気もします。食べる順番、お箸の使い方、器の持ち上げ方など、日常の和食のマナーはわからないことばかり。ここだけは気をつけたほうがよいポイントを、現代礼法研究所の代表、マナーデザイナーの岩下宣子先生に教えてもらいました。


●まずは、背筋をしっかり伸ばすこと

――和食のマナーで、最も気をつけたほうがよいことは何ですか?

「姿勢のよさです。どんな動作も、背中が丸まった状態では美しく見えません。自分を美しく見せるのも相手のへの敬意ですよね。また、猫背の状態ですと、一つひとつの動作を小手先ですることになり、結果的に食べ物の入っている器やお箸を”ざつ”に扱うことになります」

――すべては姿勢が基本なのですね。お箸の扱い方でコツはありますか?

「お箸を手にとるときは、いきなり食べられるような形で持つのではなく、箸を持つ手で上側から取り上げ、次に逆の手を下から添えて、箸を持つ手をすべらせて食べられるような形に持つというプロセスを踏んでください。置くときはその逆です。もちろん、お箸を置くときは、決して放り出すような置き方はしないでくださいね。

ちなみに、お箸で取り上げたとき、姿勢がしっかりしていれば、お箸と自分の体がしっかりと平行になりますよね。ここもポイントです」

●器の扱い方は、「デートの後、恋人と別れるがごとく……」

――器を丁寧に扱うことも重要なポイントなのですか?

「もちろんです。マナー教室では、あるいはご家庭でも、器やお箸の扱い方など、いろいろなマナーを教えますが、その根っこには、道具を丁寧に扱うという気持ちがあります。食べ物や器など森羅万象への敬意という意味もありますが、もし、あなたがどこかに招かれているのなら、相手の提供してくれた料理や器を大切に扱うのは、おもてなしを受ける側のマナーですよね」

――具体的にはどうすればよいのですか?

「まずは、持ち上げた器をテーブルに置くときを意識するとよいと思います。私はよく『器は、デートの後、恋人と別れるがごとく、丁寧に置いてください』と申しています。テーブルの音が鳴るくらい雑にモノを置くのは論外です。丁寧に置いて、しっかりとテーブルに着地したのを見届けて、それから手を離すとよいでしょう。

器を置ききる前に、次の動作に気持ちが移っているのはダメですよ。最後まで、その器に心を注ぐのです」

――本当に恋人との別れ際みたいです。よく考えたら、洋食では、器を持ち上げないですね。

「器を持ち上げたり、置いたりするときに、両手で扱う、あるいは持っている手に、もう片方の手を添えるような形にするとよいでしょう。より丁寧に扱いやすくなると思います。もちろん、器を引きずるのはNGですよ。その行為は、器とテーブルを粗末に扱っていますので……」

●相手への敬意や感謝の気持ちを表現する

――食べる順番にルールはあるのですか?

「味のあっさりしたものから濃いもの、焼き物など軽いものからずっしりした煮物という順番で食べるのが基本です。また、おかずとおかずの味を混ぜるのはよくないので、おかず、ご飯、おかずという順番で食べるとよいと思います。

細かい順番やルールはいくらでもありますが、すべては”おもてなし”の心から来ています。マナーと言うと、難しくて堅苦しい感じがするかもしれませんが、その場を楽しく気持ちよく過ごすこと、相手への敬意を思いやりを表現するように意識することで、やるべき動作というのは自ずからついてくるものなのです」

マナーは、お互いの出会いを楽しむための技術のひとつなのですね。相手に上手に敬意や感謝の気持ちを伝えられるようになりたいです。岩下先生、どうもありがとうございました。

取材協力:マナーデザイナー 岩下宣子先生
現代礼法研究所 代表 http://www.gendai-reihou.com/
NPOマナー教育サポート協会 理事長 http://www.e-manners.org/
近著の「好感度がアップする美しいマナー―イラストでよくわかる」(幻冬舎文庫、2010年)をはじめ、多数の著書がある。

(文・OFFICE-SANGA 臼村さおり)