オートリブ株式会社

写真拡大

理系のシゴトバ

オートリブ株式会社

今回の訪問先 【オートリブ エアバッグ開発】 
私たちの生活に欠かせない乗り物の一つ、自動車。非常に身近で便利な自動車ですが、ちょっとした油断や判断のミスにより運転を誤ると、人命を奪う凶器にもなってしまいます。そこで各自動車メーカーでは安全性を高めるべく、サプライヤーと共に安全技術の研究・開発に注力しているのです。スウェーデンに本社を構える自動車安全システムのサプライヤー、オートリブもそんな1社です。同社が日系自動車メーカー向けに日本に拠点を構えたのは1987年のこと。その後、98年には茨城県に事業所を設立し、エアバッグの生産を開始しました。2000年にはハンドル製造の会社、03年にはシートベルト製造会社を吸収合併し、現在ではエアバッグだけではなく、エアバッグを内蔵したステアリング・ホイール(ハンドル)やシートベルト、さらにはECU(Electronic Control Unit) をはじめとする電子制御装置などの開発・製造も手がけています。今回はその中から、オートリブ エアバッグ開発のシゴトバを訪れました。

 

■ 目で確認できないから面白い! エアバッグの開発

オートリブ エアバッグ開発のシゴトバは、筑波事業所(茨城県かすみがうら市)にあります。筑波事業所は工業団地の一角にあるため、周囲にはさまざまな企業の工場や流通拠点が構えられていました。
最寄り駅はJR常磐線「土浦駅」ですが、そこから車で15分ぐらいかかるため、ほとんどの社員は自動車もしくは自転車通勤をしているそうです。
かすみがうら市はその名前からもわかるように、霞ヶ浦(日本で2番目に大きい湖)に面しており、市域の一部が水郷筑波国定公園の一部になっています。そんな自然豊かで風光明媚(ふうこうめいび)な場所の一角で、エアバッグの開発が行われているのです。

 

エアバッグ開発のシゴトバを紹介してくれたのは、技術管理部副部長の大和田武さんとシステム開発室の山田章弘さんです。大和田さんは95年にオートリブ日本法人に入社し、日本拠点でのエアバッグ開発を推進してきました。
「入社当時は一部の車にしかエアバッグがついていない時代で、日本拠点で開発に携わっていたエンジニアは私を含めて3人でした。今はエアバッグ開発の部隊も大所帯となり、CADオペレータや試験・評価に携わっている人も含めると、人員は100人を超えます」(大和田さん)
写真はエアバッグ開発の執務エリアです。
「エアバッグ開発とひと口に言っても、先行開発と量産開発の2種類があります。私が従事しているのは先行開発。お客さま(完成車メーカー)の戦略や困りごと(ニーズ)を先取りしたエアバッグを開発してお客さまに提案し、受注に結びつけるまでを担当します。そして受注に至ると、量産開発の担当者に引き継ぎをし、私自身はまた新たなニーズを満たすエアバッグの設計・開発に着手するのです」(山田さん)

 

写真はオートリブで開発されているエアバッグです(写真中央手前以外は組み立て前)。エアバッグといっても搭載する場所によってさまざまなものがあります。写真中央は運転席用、左は助手席用、右と後方(カーテンエアバッグ)は、側面衝突用のエアバッグです。
「私が担当しているのはフロンタルエアバッグ。運転席と助手席の乗員を保護するためのエアバッグです。男性はもちろん、女性や子どもなどさまざまな体格の人を安全に守れるように、膨らむ挙動や膨らませる位置を考えて設計していくのです。と同時に小型化も図っていかなければなりません。しかも車の安全性はエアバッグだけで成立するものではなく、シートベルトや車両自身の安全性能など、あらゆる安全にかかわる技術や製品が絡んできます。私たちエアバッグ開発者は完成車メーカーや部品メーカーの担当者、さらにはシートベルトなど社内のほかの安全製品の開発者などとも密接にコミュニケーションをとりながら新しい製品開発へとつなげていくのです」(山田さん)
最近では乗員だけではなく歩行者を保護するためのエアバッグの開発も行われており、「エアバッグの開発に終わりはありません」と山田さん。

 

開発の現場では、議論や打ち合わせも頻繁に行われています。
「部署のメンバーとはもちろんですが、インフレータ(ガス発生装置)や試験を担当する部署などと議論することも多いですね」(山田さん)
写真はメンバーで新しいエアバッグの設計について会議をしているところです。
「今は開発の現場を離れていますが、大和田さんは元エアバッグ技術部長。入社したばかりのころは本当によくお世話になっていました。今でも、相談に乗ってもらったりしています」(山田さん)

 

「エアバッグの難しさは、布とガスという柔らかいものを繊細にコントロールするところにあります。布(バッグ)の中でガスがどういうふうに流れ、乗員が持っているエネルギーがどのように吸収されていくのか、直接的に計測することができません。つまり私たちの開発対象は、ハイスピードビデオカメラなどを駆使して可視化し、間接的に確認することができても、直接的に証明することが難しいのです。だから可視化できたデータから想像力を発揮して、理論立てるイマジネーションが求められます。大変ですが、そこが開発の面白さでもあるんです」(大和田さん)
写真のような衝突試験装置を使い、エアバッグ性能の試験・評価を行います。

 

先に紹介した衝突試験装置の全景です。同社の衝突試験装置は部品メーカーでは珍しいピッチングシステム付き。ピッチングシステムとは前面衝突した際に後部が持ち上がる事象を再現できる機能です。これにより、より実際の事象に近い評価実験ができるのです。このような装置を使っての試験は、量産開発時はもちろん、先行開発時でも実施します。開発者も試験に立ち会い、「どういうところに着目して試験を実施するか」など、担当者と打ち合わせをして、試験を実施します。

 

筑波事業所には工場も併設されており、生産も行われています。量産開発の担当者の場合は、量産ラインの立ち上げまで携わるため、生産現場に行くことも多々あるそうです。写真は生産現場で担当者と打ち合わせをしているところです。
量産化に至るまでは、4つの厳しいトールゲートと呼ばれている承認工程が設けられています。それらをパスして初めて製品化となり、完成車メーカーや部品メーカーに納品されていくのです。

 


■ ハタラクヒト 命を救うことで人の人生をつなげていける、そこにやりがいがある

引き続き大和田さん(写真左)と山田さんに「オートリブ エアバッグ開発」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気などについてお話をうかがいました。

 

大和田さんはエンジン部品のメーカーから、山田さんはモノづくり系のエンジニアからの転職組。
「自動車関連で以前とは違うモノづくりに携わりたかったんです。オートリブならエアバッグという当時はまだ珍しい技術を開発できる。面白そうだなと思いました」(大和田さん)
「新卒で最初に派遣されたのがオートリブ。3年間の派遣期間の中で、モノづくりのイロハを教わるなどいろいろお世話になりました。その後、複数社派遣で働き力をつけて08年に正社員での転職を考えたとき、オートリブが頭に浮かびました。当時の恩返しをしたいと思ったんです」(山田さん)

 

現在は開発の現場を離れているとはいうものの、入社以来、長年エアバッグ開発に携わってきた大和田さんに、これまでにいちばんやりがいを感じた瞬間についてたずねました。
「自分のアイデアが具現化でき、お客さまや海外のエンジニアに受け入れてもらえたときが、やりがいを感じる瞬間です」(大和田さん)

 

一方、現在エアバッグの先行開発に携わっている山田さんは、「当初はエアバッグ開発という仕事に面白さややりがいを感じていいのか、と悩んだ時期もありました。エアバッグが開くということは、事故を起こしているからです。でも私たちのつくったもので人を救うことができる。つまり人の人生をつなげていく仕事に携わっている。そこがいちばんのやりがいだと思います」と語ってくれました。

 

「エアバッグ開発は高い専門性が求められる分野。完成車メーカーに技術的な提案をするのは私たち」だと大和田さんは言います。大和田さん、山田さんをはじめ、開発に携わっている多くのエンジニアの出身専攻は機械系や電気電子系。しかし中には化学系の出身者もいるとのこと。
「たとえ機械系や電気電子系の出身者でなくても、やる気さえあれば十分です」(大和田さん)
「私はシステム学科を卒業しているので、物理や機械の知識はあまりありませんでした。そこで高校の物理の教科書を見直したんです。基礎を土台に伸ばしていけば、十分、やっていけると思います」(山田さん)

 

最後にオートリブの社風や文化についてたずねました。
「上司とも垣根なくフランクに話ができる、そんな文化のあるシゴトバです。本当に働きやすいですね」(山田さん)
「若手のうちからやりたいと思ったことがかなりの範囲でできる、エンジニアにとって恵まれた環境だと思います」(大和田さん)

 

■  お客さまも頻繁に訪れる筑波事業所

生産工場の入り口です。メーカーの担当者による見学も頻繁に行われているそうです。入り口に向かって右側のショーケースには、同現場で生産されている製品が飾られていました。

 

食堂です。日替わりランチは400円。人気の食堂ですが、社員数のわりに座席数が少ないのが悩みの種だそう。その短所を補うため、カップ麺の自動販売機の設置や調理パンの販売も行われているとのことです。

 


■ オートリブ株式会社にまつわる3つの数字

エアバッグやシートベルトなど、自動車事故を確実に減らすための衝突安全製品の分野で世界をけん引しているグローバル企業、オートリブ。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!

1. 約30ミリ秒
2.  29カ国
3.  1.73個

 

 

前回(Vol.83 株式会社熊平製作所)の解答はこちら

 

取材・文/中村仁美 撮影/早坂卓也