『遠くでずっとそばにいる』で主演を務めた倉科カナ

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倉科カナの柔らかいふわっとした部分と、心の内に秘めた芯の強さを、丁寧に切り取った映画『遠くでずっとそばにいる』(6月8日公開)。彼女が演じたのは、交通事故による記憶障害で10年分の記憶を失い、頭の中が17歳に逆戻りしてしまったヒロイン朔美役。過去と向き合うことで自分を見つめ直していく朔美役に、倉科はどうアプローチしていったのか。インタビューして、本作の撮影秘話と、女優としての今について聞いた。

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倉科カナといえば、「朗読劇 私の頭の中の消しゴム」(10)でも記憶を徐々に失っていくヒロインの苦悩を体現した。「あの朗読劇では、記憶がなくなっていく辛さを作っていくのが本当に大変で、日々、泣いてばかりいました。だから今回も、記憶喪失の役はきついだろうと思っていたら、そんなことはなくて。10年分の記憶がすっからかんなので、大丈夫でした」。

17歳に戻った朔美が、自分が想像していた10年後の自分と、他人の口から語られる現在の自分とのギャップに戸惑う場面が何度か描かれる。倉科はこのシーンに共感したそうで、意外な言葉を口にした。「私も若い頃は、もっと素直で、もっと可愛らしい大人の女性になっているかなと思っていましたが、案外そうでもなかったです」。

そのことについて深掘りすると、彼女は過去の葛藤を打ち明けてくれた。「一時期、楽しさを失いかけたことがありました。可愛らしい役ばかりが続いた時ですが、パブリックイメージの自分を受け入れられなくて。ただ、可愛さだけを求められているんじゃないか、今のままの自分では駄目なんじゃないかと悩み、でもどうしたら良いのかわからなくて。自分をどんどん否定していき、演技が楽しくなくなっていきました」。

以前のインタビュー時、自分を成長させてくれた作品として、NHK連続テレビ小説「ウェルかめ」を挙げていたが、その後に迎えた大きな山と言える作品は、人を陥れようとするヤンママを演じたドラマ「名前をなくした女神」だったようだ。「私のことを18歳の頃から知っているプロデューサーさん(浅野澄美)が、『こういう役、やったことないでしょ』と、声をかけてくださったんです。チャレンジする場をいただけて、すごく嬉しくて、やり甲斐がを感じました。演技が楽しくて、もっとやりたいと思ったんです」。

その後、またスランプに陥ったが、そこから考え方を変えていったという。「そういうチャンスをくれる方は少ないから、今度はチャンスを待つという葛藤が始まりました。お仕事は楽しいけど、何だか少しずつミカンが腐っていくみたいな感じになっていって。でも、その後、気持ちを切り替え、今の自分を受け入れつつ、いつ来るかわからない作品のために日々勉強して、自分を磨いていこうと思うようになったんです。腐ってしまったら調理もしてもらえないから、やっぱり鮮度は保っておこうかと(笑)」。

では、今後の目標や女優としてのあり方について尋ねてみると、「わがままになりたいです」と即答する彼女。「この一年を振り返り、俳優さんや監督さんなど、皆さんから言われたのは、『もっとわがままになって良いよ』という言葉でした。私は良い意味でも、悪い意味でも柔軟すぎるんです。だから、もっと自分の意見を言ったりできる、真っ直ぐな強さを持ちたいと思いました。私の性格上、すごい個性がなくて真っ白なんです。それは弱みでもあるけど、いろんな色に染まれるという強みでもあるかもしれない。今後は、柔軟さを活かしつつも、少しわがままになっていけたらと思っています」。

本作の17歳に戻った朔美も、まさに白いコットンのようなヒロインだが、後半に行くにつれ、予想もつかない色に変化していく。メガホンを取ったのは、『天国はまだ遠く』(08)の長澤雅彦監督だが、倉科の持ち味を存分に引き出している。倉科も「長澤監督の画がとても綺麗です。だから、目で見てもすごく楽しい作品ですし、音楽を岩井(俊二)さんが手掛けられていて、耳でも楽しめる作品になっています」とアピール。初夏にぴったりの、みずみずしいラブストーリーに仕上がった本作、是非劇場で倉科カナの変化していく色を見つめてほしい。【取材・文/山崎伸子】