西武ホールディングスをめぐるTOB騒動は、企業のあり方を考える上で大きなトピックとなった。危機管理の専門家であるリスクヘッジ代表取締役の田中辰巳氏の目にはどう映ったか。

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 米投資ファンドのサーベラスによる西武ホールディングス(以下西武)のTOB(株式公開買い付け)は、蓋を開けてみれば『大山鳴動して鼠一匹』というような結果となった。サーベラスは当初4%の買い増しという目標を掲げてTOBを開始したが、途中で目標を12%にまで引き上げた。しかし、結果的には3.1%しか買い増しできなかったからだ。

 この両社の戦いは、一見西武の勝利のように見える。しかし、本当にそうだろうか?

 戦争論のフォン・クラウゼヴッツ(ナポレオンを破ったプロイセンの武将)は、「戦争は目的を定めて最短の軌道を描くべし」という趣旨のことを述べている。従って、勝敗を決めるには、西武とサーベラスの辿り着いた目的地を見てみる必要があるだろう。

 そこで、この戦いによって両社が『失ったもの』と『得たもの』を洗い出してみよう。

■サーベラスが失ったもの
・強いファンドというイメージ
・西武の早期上場によって、投資資金を回収する機会

■サーベラスが得たもの
・傲慢な禿鷹ファンドというイメージを払拭できた

■西武が失ったもの
・また経営危機に陥ったときに、支援してくれるファンドが現れにくくなった
・サーベラスとの契約を一方的に解除したことによって、今後重要な契約を結ぶ相手が得にくくなった。サーベラスからの書簡の中身を漏らしたこともマイナスに働く
・サーベラスが西武の企業統治と内部統制に疑義を唱えたため、疑いの目が向けられ、上場に向けての監視や税務当局の目が厳しくなった
・沿線住民や首長を援軍に仕立てたために借りができたので、赤字路線の廃止や縮小という業績改善策を失った。バス路線も廃止や縮小ができない。また、西武ライオンズがお荷物になっても、売却ができなくなった
・西武の業績に関して、「下方修正」(3/26)をしたかと思えば、「過去最高益」(5/14)を発表するなどの迷走がクローズアップされた。経営陣の読みの甘さを露呈し、情報開示の信用を失った
・サーベラスからの訴訟リスクが高まった
・TOBに反対するため、新聞広告や中吊りなどに多額の経費がかかった
・週刊文春を告訴したために、文芸春秋社との関係が悪化した

■西武が得たもの
・当面、後藤高志社長が続投できる

 このように並べてみると、圧倒的に西武が失ったものが多いことが分かる。結局、危機管理という視点で見れば、西武の敗北と言わざるを得ないのだろう。西武の後藤高志社長には、西武を『将来性のある強い企業にする』という目的を持って、最短の道を行くためにサーベラスを利用するくらいの老獪さを持ってもらいたいものである。