「台湾のメイドカフェFatimaid前にて」(モデル=chocolate 撮影=筆者)

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■台湾の大人はなぜ眉をひそめないか

東日本大震災のあと、台湾に初めて注目し、好印象を持った日本の若者は多いはずです。日本を支援しようとする台湾での動きは、政府だけでなく民間レベルでも驚くほど迅速でした。昨年末の時点で、金額トップの米国に匹敵する29億円もの義援金を集めて日本赤十字社に渡しています。

台湾と秋葉原は実によく似ていると私は常々思っていました。それは、新しいもの、珍しいもの、異質なものにも寛容で、許容性があることです。たとえば、台湾の若者たちがイベントに参加するために日本のアニメキャラのコスプレをして街中を歩いていても、眉をひそめる人はおらず、大人たちは微笑みながら眺めています。

台湾はオランダ、スペイン、清国、日本、そして中華民国と、歴史において様々な異なる文化を持つ人々による支配を受けてきました。しかし、その過程でそれらの新しい文化を吸収し同化していったのです。だからこそ、日本の新しい若者文化にも素直に好意を持ち、震災で困ったときは応援してくれる、台湾の人々の懐の深さを感じられるのです。

私は台湾と日本の若者たちが、秋葉原の趣味文化を通して交流し、より深く理解しあえる機会を作りたいと、2005年から年に数回のペースで台湾を訪問しています。これまで、台湾のコスプレイヤーやアニメクリエイターを日本に招聘したり、台湾でのコスプレイベントやアニソンライブに協力してきました。政治や思想では意見が異なることがあっても、互いの若者が興味を持てる趣味文化を介せば、新しい文化やビジネスを創るために協力し合うこともできると思うからです。海外でその可能性が一番大きなパートナーは、間違いなく台湾でしょう。

■フィギュアの横に仏像

先日も、ある企画の打ち合わせのために、台湾に行ってきました。毎回、台湾の若者たちと交流することが楽しみで、最新の現地情報を教えてもらっています。台湾の若者の多くは日本語を解しているので、中国語ができない私でもまったく不自由を感じたことがありません。彼らは概して日本のアニメや漫画やゲームが大好きなので、日本語だけでなく日本の流行や文化にも大変興味を持っています。そして、彼らにとって秋葉原は、一度は行ってみたい、憧れの「聖地」なのです。

台湾の交通の要である台北駅には5つの地下街があり、1日におよそ50万人の往来があります。その地下街のうちの1つ、台北地下街には「オタク通り」と呼ばれるエリアがあり、日本の雑誌やゲーム、フィギュア、カードゲームなどを扱う店舗が集積しています。まるで、地下の「リトル秋葉原」です。

台北地下街は、もともと家族で楽しめる買い物エリアとして、幅広い世代向けの雑貨や衣類を扱う店舗が集まっていました。その一部で子供用のおもちゃ売り場が集中していたエリアがあり、それらの店舗がテレビゲームを扱うようになると、自然と「秋葉原化」してオタク通りとなりました。アニメのフィギュアが並ぶ店舗の横に、仏具店が仏像を並べている様子は、秋葉原に似た、許容性の結果としての雑多感があります。専門のブローカーを通して輸入し販売されるオタク向け商品は、日本の1.5倍ほどの値がついているのですが、オタク通りには連日若者たちが目当ての商品を求めて集まっています。

その台北地下街の端には、飲食店が集まり、メイドカフェも数店舗あります。2006年に台北地下街で最初に開業したメイドカフェ「Fatimaid」は、今でも営業中です。4年前に店舗は地上に移転しましたが、開店当時から店内に掲げている「従順」、「禮儀(礼節)」、「用心(心配り)」の文字通り、変わらないきめ細やかな給仕を受けられるので、私も台湾に行くたびにお世話になっています。このメイドカフェの店前には、どうやって入手したのか、JR秋葉原駅の駅名標が目立つように設置されています。秋葉原は「心の故郷」だというメイドカフェのオーナーが、敬愛の意を込めて飾っているそうです。

台湾の若者たちがこれほど秋葉原に親近感と憧れを持っているのに、放っておくのはもったいないことです。生まれたときからインターネットを使える環境にある台湾の若者たちにとって、秋葉原の情報を得ることは、造作もないことでしょう。しかし、ネット上の情報だけでは、秋葉原の実態や魅力は十分には伝えきれません。そこで、台湾の人たちに秋葉原を実際に体験してもらえるような機会を設けようと思い、その打ち合わせをするために、今回台湾に訪問したわけです。

毎年、秋に日本最大のゲーム業界の展示会、東京ゲームショウが開催されます。それに参加するため、台湾から200名ほどのゲームファンが来日するのですが、その機に合わせて、台湾人観光客限定のメイドカフェ体験ツアーを秋葉原で行うことになりました。今回の企画を手始めに、秋葉原の趣味文化を通じて、台湾と日本のつながりを発展させていこうと目論んでいます。

(梅本 克=文(デジタルハリウッド大学客員准教授))