セントジュード・クラシック最終日を単独首位で迎ながら「76」を叩き、ボロボロに崩れて7位に甘んじたのは、今季から米ツアーにデビューしたばかりのショーン・ステファニー。彼の崩れ方は、ルーキーにとって最終日最終組を回る緊張とプレッシャーがどれほど多大であるかを物語っているかのようだった。
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 そんなステファニーにとって代わるかのように首位に浮上したのはスコット・ストーリングス。すでに米ツアーで2勝を挙げているストーリングスのアグレッシブな追撃は、71ホール目までは見事だった。が、そうやって見事なゴルフをしていたはずのストーリングスが、最後の最後にボギーを喫し、勝利を逃す結末になった。
 ストーリングスはフィル・ミケルソンと同組で回っていた。17番でミケルソンがバーディーパットをぎりぎりで外し、単独首位のストーリングスとミケルソンの差が2打になったとき、ストーリングスが優勝し、ミケルソンが惜敗するであろうことを多くの人が予想したはず。
 しかし、最後の最後まで何が起こるかわからないのがゴルフの面白さであり、怖さなのだろう。多くの人が想像しなかった展開が、この先に残されていたほんのわずかな時間の中で起こったのだから――。
 パー4の18番。フェアウェイから打ったミケルソンのセカンドショットは高弾道でピンに向かっていき、ピンのほぼ真上からグリーン上へドスンと落ちた。ファーストバウンドは、ピンそば10センチ。残念ながらボールはカップに沈みはせず、ピン50センチで止まった。もしもカップインしていたら、ミラクルイーグルでミケルソンが首位に浮上し、そして優勝?そんな奇跡の物語になっていたのかもしれない。
 グランドスタンドの大観衆は一斉に「ウオッ!」と叫んだ。ミケルソンも観衆の叫びを聞いて「入った?」と思ったのだろう。いきなり頭を抱えたミケルソンのリアクションは、あまりにも彼らしかった。結果的に奇跡は起こらなかったが、18番で突然起こった一連の動きは、首位を走るストーリングスの心を揺さぶった。第2打はグリーンオーバー、第3打のチップはグリーンに届かず、ボギー。わずか10分足らずの間にストーリングスの勝利は夢と化し、ミケルソンは自らの好調、好転、幸運を感じて顔を輝かせた。
 18番の第2打がカップインしたかと思ったあの瞬間、思わず頭を抱えたミケルソンの驚きと興奮。あのリアクションには、いろんな意味合いが含まれていた。もしも直接カップに沈んでいたら、この試合で「優勝できる」。そう思ったことは間違いない。
 だが、それ以上にミケルソンが感じていたのは「今週、好調なら、来週も好調のはず」という想いだ。そして、その想いは「今週勝てれば、来週も勝てる」という想いへ発展していく。あの第2打がカップインするかどうかは、今週のみならず来週の全米オープンにおける彼のゴルフの指針になる。だから彼はあのとき、思わず頭を抱えるほど興奮したのだと思う。これまで何度も全米オープン優勝に王手をかけながら、最後の最後に信じがたい何かが起こり、惜敗してきたミケルソン。だからこそ「奇跡を信じたい」。そんな気分なのだろう。
 優勝を手に入れたのは、ストーリングスでもミケルソンでもなく、ハリス・イングリッシュだった。ツアー2年目、プロ3年目の23歳。初優勝とは思えぬほど冷静なプレーぶりで勝利した。が、その陰にはやっぱり何かしらの巡りあわせの幸運もあったのだと思う。もしもイングリッシュが単独首位で最終日を迎えていたら、もしもミケルソンと同組で回っていたら、もしもミケルソンのあの第2打がカップに沈んでいたら、結果は違っていたかもしれない。
 そうやって予想すらしなかったことが原因やきっかけになり、予想すらしなかった結末を迎えるのがゴルフだ。今週、イングリッシュは優勝し、ストーリングスは惜敗し、ステファニーは大敗し、ミケルソンは今日の奇跡が明日の奇跡につながると信じながらメリオンに向かっていった。
 勝利と敗北の分かれ目は、細い細い、本当に繊細な1本の線。そのファインラインのどちら側に立つかが、勝つか負けるかの差。ゴルフは実力だけでは勝てないと言われる由縁は、そこにある。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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