不注意な部下を萎縮させずに叱る −「言い訳、叱る、頼む、断る」テクニック【1】

「会社生活のストレスの原因は人間関係。でもユーモアでつらい人間関係がラクになる。ユーモアの力は偉大です!」

そう言うのは、サントリー社員でありながら、エッセイストとしても活躍する斎藤由香氏だ。

斎藤氏は、歌人の斎藤茂吉を祖父、作家の北杜夫を父、精神科医の斎藤茂太を伯父に持つ。サラリーマンとは無縁の世界で育ったが、サントリーに入社して以来、「社内のユーモアのお陰で、最高に楽しい会社生活を過ごしている」と語る。

「新入社員で広報部に配属されたとき、『部長と課長はどちらがエライんですか?』と真顔で聞き、みんなに絶句されました。しかし、その後、ドッと笑いが起きた。そのときに、『この会社はあたたかいな』と心から救われました」

その後、健康食品事業部に異動になった斎藤氏は、健康食品「マカ」を精力的に宣伝する姿が週刊新潮の編集長の目にとまり、「サントリーで精力剤をPRしているバカ女がいる」(斎藤氏)ということで、連載の依頼がくる。以来10年間にわたり「窓際OL」シリーズを続けている。「食べてばかりの胃袋部長」「役員に怒られてばかりの小ネズミ部長」「女の子大好きのキャバクラ課長」など、ユーモラスなサントリー社員たちの生態を名指しで書き綴る。社内での立場は大丈夫なのだろうか?

実は連載開始前、上司に許諾を相談すると「おもろいからやったらエエやないか。人事部に確認? 原稿チェック? 必要ないよ」との返事。ついには佐治信忠社長が連載を目にするところとなり、秘書とこんな会話が交わされたという。

「こんなアホな社員ばかりいて大丈夫やろか」

「社長、それを書いているのはうちの社員ですよ」

「え、うちの? そうか。ワハハハ!」

後日、秘書から「社長が笑っていたよ」と言われただけで、一切おとがめなし。社長のことも「せっかちで怒りっぽい」などと評しているにもかかわらず、だ。

ただし、氏のエッセーをよく読むと、会社と同僚に対する深い信頼と愛情に裏打ちされていることがわかる。「出世とは無縁」「特技も趣味もなし」だと自分を落とすことも忘れない。だからこそ、精力剤やキャバクラの話が出てきても下品に感じられず、むしろ「こんな会社で働けたらいいなあ」と好感を抱かせるのだ。

組織風土改革を専門とする経営コンサルティング会社、リンクアンドモチベーションの田中康之・モチベーション研究所所長は、こう分析する。

「顧客に向き合う営業活動や、新しい価値を生み出す創造性を重要視する職場では、ユーモアや笑いを通じた明るさやゆとりを大切にする風土があります」

ソニーの設立趣意書には「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」とあり、堀場製作所の社是は「おもしろおかしく」だ。最近では、社名に「面白法人」を掲げるカヤックもある。いずれも自由な発想を重視して成長してきた優良企業だ。

田中氏は職場でのユーモアの大前提となるのは人間関係だと強調する。

「同僚をいじって笑うユーモアなどは、相手との信頼関係がなければ、『いじり』が『いじめ』になってしまうでしょう」

同僚や上司をいじり続けている斎藤氏のユーモアも、日頃から培ってきた人間関係があるからこそ成り立っているのだ。

■不注意な部下を萎縮させずに叱る

叱り方は難しい。一歩間違えると部下を萎縮させてしまう場合もあるからだ。そんなときもユーモアが効果を発揮する。

例えば、出したばかりの指示内容を忘れた不注意な部下を叱る場合はどうするか。田中氏に実例を示してもらった。

「さっき言ったばかりだろう!? もし今後も同じミスをするようなら、僕は24時間体制で君のそばにいなくちゃならない。常に隣に座るよ。夜は添い寝するよ。そんなの嫌だろ? 2度とやるなよ」

最初の「さっき言ったばかりだろう!?」と最後の「2度とやるなよ」が、一番伝えたいシンプルなメッセージだ。でも、これだけでは角が立ちすぎると感じるとき、途中に「もし同じミスをするなら〜」で始まる極端な例え話を入れることで、小さな笑いを取って空気を和らげる。しかも「添い寝したくなるほど、おまえが心配なんだ」という親心も伝えることができる。

「職場におけるユーモアの最大の効用は、場の緊張感を緩和させることです。そのうえで、叱咤や激励など本来の目的を伝えることが大事。お笑い芸人ではないので無目的な笑いを取る必要はありません」

軽い叱責を加えたいときは「あからさまな嫌みを言う」という方法もある。シニカルな性格だと自認する田中氏。行き先ボードをちゃんと消さない部下を発見すると、「○○さんの行き先ボードを上司の僕が消しまーす!」と公言して席を立つ。すると、当該の部下が「あ、すみません!」と飛び出してきて、慌てて消す。職場には笑いが起きる。部下は頭をかきながら反省する。後腐れはない。

「××さんの机まわりを部長の私が片付けまーす!」

「△△さんのご到着を社長の私が首を長くしてお待ちしていました!」

明るく大きな声で言う限り、広く応用できそうなユーモア手法である。

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エッセイスト 斎藤由香
成城大学卒業後、サントリーに入社。健康食品事業部時代にスタートした週刊新潮の連載「窓際OL」シリーズは10年目に突入。特技なし、酒量はウイスキー1本。著書は、祖母で歌人・斎藤茂吉の妻の輝子の生涯を描いた『猛女とよばれた淑女』『窓際OL人事考課でガケっぷち』ほか。
リンクアンドモチベーション モチベーション研究所所長 田中康之
1976年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、野村証券を経て、2001年リンクアンドモチベーション入社。2010年より同社の研究機関であるモチベーション研究所の所長を務める。モチベーションの源泉は「パン+α」。

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(大宮冬洋=文 的野弘路=撮影)