「ボクシング界をもっと盛り上げたい!」と語る井岡一翔。無敗の2階級王者が明かす現状への不満と野望とは?

写真拡大

国内最速での世界王座獲得、日本人初の2団体統一王者、2階級制覇、そして、いまだ無敗。結果でも内容でも周囲を納得させてきた“本物”のボクサー・井岡一翔に、次なる野望を聞いてきた!

■野球やサッカーを見ると、悔しくなる

―5月8日のWBA世界ライトフライ級王座の初防衛戦は、危なげなく9回KO勝ちでした。

井岡 でも、自己採点では50点ですね。持っている力の7割程度しか出せなかったし、それが今の自分の実力ということ。まあ、緊張感あるなかで精いっぱいやった結果ですし、次につながる課題も見えました。理想は、もっとコンビネーション豊かなボクシングをすること。今回はもう少しスリリングな展開を見せて、お客さんに楽しんでもらいたかったです。

―観客の反応は気になります?

井岡 いつも気にしていますね。試合中、リングの上と観客席がまるで別の空間にあるような不思議な感覚に襲われるんです。だから、お客さんの反応を冷静に見ることができる。たまに、会場をもっと盛り上げなきゃって試合に集中できなくなることもありますけど。

―常々、井岡選手は「ボクシング界を盛り上げたい」と言っていますが、世間のボクシングに対する評価をどう感じていますか?

井岡 まだまだ不満です。野球やサッカーの状況を見るとうらやましいし、悔しくもあります。だって、野球やサッカーは連日のようにニュースで取り上げられるし、専門のテレビ番組があったりするじゃないですか。ボクシングにそういった環境はないし、日本には何人か世界チャンピオンがいますけど、扱いはそれほどでもない。

―ステータスが低い、と。

井岡 自分はボクシングの価値を高めたいんですよ。世界チャンピオンって、サッカーならW杯優勝、野球ならWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)優勝に匹敵するものだと思うんです。自分たちだって日本という国を背負って世界最高峰の戦いをしている。日本人のボクサーが世界を相手に頑張っているんだから、みんなで応援しようって言われるような環境をつくりたい。そのためには象徴的な選手が必要だし、自分にはその役割と責任があると思っています。


―井岡選手が日本ボクシング界を引っ張る役割を果たしたい?

井岡 はい。魅力的な試合をして勝ち続ければ、世界チャンピオンに対する憧れが生まれるし、ボクシング人気も上がるはず。(5月の初防衛戦の勝利のご褒美にもらった)ランボルギーニ(約4500万円のムルシエラゴ)に乗るのも、ボクサーに夢を持ってほしいから。あと、わかりやすく注目を浴びるのであれば、記録を残すことも必要でしょうね。

―井岡選手は以前、3階級制覇が目標だと話していましたが、今やそれでもインパクトに欠けるかもしれません。

井岡 だったら、4階級、5階級と行けるところまで行くしかないでしょう。今後、誰もマネできない記録を打ち立てたいです。

―日本ではWBAとWBCに加え、この春から新たにIBFとWBOという団体も認可されました。

井岡 4団体統一もありだと思いますよ。欲深くなんでもやりたい。もちろん、簡単じゃないし、これから壁や試練が待ち受けているだろうから覚悟はしています。でも、誰も見たことのない場所を目指して、いつか伝説になりたい。

■圧倒的な強さなら文句も言われない

―最近は判定だと「消極的」、相手がランク下位だと「ラクな相手を選んだ」と、コアなボクシングファンが世界チャンピオンに求めるハードルが高くなっていると思うのですが、そういった批判はどのようにとらえていますか。

井岡 正直、いい気はしませんよ。ただ、第三者の声は大切だと思うし、批判もひとつの意見だと受け入れていくしかない。「おまえの試合は面白くないねん」って言われたらヘコむけど、次の試合で頑張らなアカンとも思いますからね。中途半端な結果にしないことが大事。圧倒的な強さで突き抜ければ文句は言われないんだから。

―ちなみに、ボクシングの選手以外に憧れる存在はいますか?

井岡 けっこういますよ。矢沢永吉さんやオリンピックに出場するようなほかの競技の選手からは刺激を受けます。なかでも特にすごいなと思うのはイチロー選手ですね。自分は“ブレない”という言葉が好きなんですけど、イチロー選手が一番近い気がします。本当の意味で一流だし、自分を貫き通して今の地位をつくってきたわけですから。


―なるほど。では、井岡選手が伝説になるために、どのようなボクサーを目指しますか?

井岡 井岡の試合なら会場に足を運んでも見たいと思われるようになることです。そのためにはやっぱり面白い試合をしなければいけない。あと、これはよく言うことなんですけど、ディス・イズ・ボクシング、つまり、井岡のボクシングこそがホンマのボクシングやと認められるようにしないといけない。泥くさいというよりも洗練されたボクシングで、スタイリッシュに最後は鮮やかに勝つ。サイレンサーを装着した銃で狙撃するみたいに、何事もなかったように任務を遂行したいんです。

―最近の報道では「東京ドームで試合がしたい」というコメントが出ていました。

井岡 ボクシングファンやボクサーの憧れのひとつにラスベガスに行くっていうのがあるんですけど、それよりも自分は日本のドームでやりたい。その上でラスベガスを目指す。というのも、いきなりラスベガスといっても、一般の人にはその価値やステータスはわからないじゃないですか。その点、ドームでの試合であれば選手としての格づけがわかりやすい。ミュージシャンのコンサートとかでドームに行くと5万人ぐらいの人が盛り上がっている。自分もあんな存在になりたいなって。

―ドームで試合ができるほどボクシングの価値を高め、そこから本場ラスベガスを目指したい、と。

井岡 で、夢みたいな話ですけど、ラスベガスから帰ってくると、空港が出迎えのファンであふれかえっている(笑)。あまり夢って言葉を使うのは好きじゃないけど、これまで夢をたくさん叶えてきました。だから、夢は努力すれば絶対に実現できるんだって、自分は誰よりも信じているんですよ。

(取材・文/石塚 隆 撮影/ヤナガワゴーッ!)

●井岡一翔(いおか・かずと)


1989年3月24日生まれ、大阪府出身。24歳。元世界2階級王者・井岡弘樹氏の甥。大阪・興國高で高校6冠。2011年2月、7戦目で世界王座(WBC世界ミニマム級)を獲得し、国内最速記録を樹立。八重樫東との史上初の日本人同士による2団体統一戦を含む3度の防衛戦後、12年12月に世界2階級制覇を達成。プロ戦績12戦12勝8KO。得意パンチは左フック