「奇跡のリンゴ」中村義洋監督

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“絶対不可能”と言われたりんごの無農薬栽培に挑み続けた農家・木村秋則さんの実話をもとに、阿部サダヲと菅野美穂が夫婦役を演じた家族のドラマ「奇跡のリンゴ」(6月8日公開)。「アヒルと鴨のコインロッカー」「チーム・バチスタの栄光」などを手がけてきた中村義洋監督は、新境地となる家族ドラマにいかにして挑んだのか。

原作は、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」制作班が監修した「奇跡のリンゴ 『絶対不可能』を覆した農家・木村秋則の記録」(石川拓治著/幻冬舎文庫刊)。青森県で生まれ育った秋則(阿部)は、幼なじみでりんご農家の娘・美栄子(菅野)とお見合い結婚し、婿入りする。やがて、農薬によって苦しむ美栄子の姿を目の当たりにした秋則は、不可能と言われる“りんごの無農薬栽培”に挑む。しかし、失敗の連続から一家は極貧の生活を強いられ、周囲からも孤立していってしまう。

脚本を読んで号泣したという中村監督は、すぐにオファーを快諾した。「『号泣したのでぜひ』という返事はすぐにしたんだけど、『何でだろう?』と考えたのは最近。とにかくその時に思ったのは、ずっとやれる題材だな、たぶん飽きないだろうなと。僕は『ショーシャンクの空に』とか、それは無理だろうということに主人公が挑み続ける映画が好き。今回も、ひとりの人間がもてる気持ちの強さ、そこにどれくらいの限界があるんだろうということに一番心を打たれたんですよ」。

現在はどのメディアを見ても、木村さんのはちきれんばかりの笑顔が印象に残る。しかし、想像を絶する苦労を重ねてきた木村さんの半生を映画化するにあたり、いわゆる口当たりの良い“美談”に仕立て上げないことも重要だった。「無農薬に成功した数年後に木村さんがインタビューを受けている映像を見たら、木村さんは『今のリンゴの作り方はどうなんだろう?』という怒りの目をしていた。そこで奥さんへの愛だけじゃなく、絶対に名誉欲もあるはずだと思った。優しさとガンコさをもち合わせた人格、そのブレンドにはすごく注意を要したんです」。

現場での演出もさることながら、阿部と菅野をキャスティングしていく過程の段階から、すでに本作の肝となる“夫婦像”を練り上げていたという中村監督。「彼らはちゃんと役に入ってくれるし、決して盛り過ぎない。僕は盛り過ぎる人、盛ろうとする人は大嫌い(笑)。盛る準備はしてきていいけど、『用意スタート!』では盛らないでほしいんですよ。準備を散々してくれば、本番でそれを抑えても自然と盛られるもの」と持論を述べた。また、「常に現場は“大したことじゃない”ような雰囲気にしておきたいんです。緊迫とか緊張ではなく、集中できる環境。だから役者さんの前でスタッフを怒ったりもしたくない」とこだわりを明かした。

また、りんご農園のリアリティもとことん追求した。花が咲くシーンでは実際の開花を待ち、木が枯れるシーンでは本当の枯れ木にこだわった。「CGは嫌だったんです。積極的に嘘をつくところと、嘘をつくのが嫌なところがある。リンゴは秋に狂い咲きしてしまうことがあって、そうすると翌年の春にはもう花が咲かずに葉も落ち、枯れ木になってしまう。その風景を見た時に地獄絵図みたいでぞっとしたんです。その時、あの怖さを表現するにはCGじゃダメだなと思った。どうしても無理だったら仕方ないけど、そもそも10年以上もうまくいかないで悩んでいる人の話をやるのに、そういうところで作り手が楽をするのは嫌だった。渾身のカットです」と胸を張る。

作家・伊坂幸太郎の人気原作を筆頭に、コンスタントに最前線で映画を撮り続ける中村監督。新たなジャンルへの挑戦となった本作を経て、自身の中で何か変化や発見はあったのだろうか。「今までの僕の作品は8割くらいがミステリーだったけど、実はこういう作品もやれるなと思った。ミステリーって、最後のオチ以外は常に1つのカットの中に2つの意味を探らないといけない。今回みたいなドラマはそれがないから楽で、その分の余裕でシンプルに芝居に集中できる。せっかくだからこういうドラマももっとやっていきたい。スタッフとは冗談で、阿部さんと菅野さんで47都道府県回りたいねって話をした。餌をやらないで養殖マグロを育てる物語とかね(笑)」。

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