この日の発表会ではマスコミ向けに4分間の特別映像が公開されたのだが、その中で気になったのが関東大震災を描いたシーンだ。1920年代から戦時中までの日本を描いた本作に震災のシーンが登場するのは不思議なことではないが、この時期にあえて震災のシーンを入れることには何か意図やメッセージがあるのだろうか。この質問に、鈴木プロデューサーは「どこかで言わないといけないことなんだけど」と前置きした上で、次のように語った。

鈴木プロデューサー:「この企画が動き始めたのが2010年。やろうと決断したのが同年12月でした。年が明けて2011年から絵コンテを描き始めたのですが、関東大震災の最中にちょうど二人が出会うシーンを描き上げたのが、2011年3月10日だったんです。その後、震災が起きたことで、さすがに宮さんもこのシーンをそのまま出していいのかどうか悩んでいました。しかし、僕はそういうこと(震災)が起きたからといって、手心を加えるのは違うんじゃないかと思うんです。映画は時代の影響を受けるものだし、逆に映画が時代を作ることもある。だからといって、あまりそのことにとらわれすぎるのはおかしいですから」

そうした思いから、震災を描く形で完成した『風立ちぬ』。本編を見た鈴木プロデューサーは、本作を「宮崎駿監督の遺言では」と大胆に予想する。その理由は、本作の裏テーマにあるという。

鈴木プロデューサー:「空や飛行機に憧れた少年が設計士になって、でも作らないといけない飛行機は戦闘機である。それを彼はどんな気持ちで作っていたのか。じゃあ民間機ならよかったのかというと、そういうことでもないだろうと。宮さんはこの映画の裏テーマで、『仕事とは何か』を問いかけているんです。カプローニというイタリア人が出てくるんですが、彼が何度も『力を尽くして生きなさい』と繰り返します。この言葉は旧約聖書から引っ張ってきたもので、元は「すべて人の手にたうることは力を尽くしてこれを成せ」というもの。宮さんはこの言葉に感化されんじゃないかと思います」

戦争という激動の時代を生き抜き、後に伝説となる戦闘機・零戦を生み出した堀越二郎。そして薄幸のヒロイン、里見菜穂子。二人の人生と愛を描いた宮崎駿監督作品『風立ちぬ』は、7月20日より全国公開となる。

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