アニメとは思えない、実写のような劇中のワンシーン。スクリーンで見るとさらに素晴らしい/[c]Makoto Shinkai/CoMix Wave Films

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5月31日より公開中の新海誠監督の新作アニメーション『言の葉の庭』。全国23館、料金は1000円均一ながら、公開初日からの3日間で興収3000万円という大ヒットを記録し、グッズも各地で売切が続出するなど、現在進行形で話題を呼んでいる。新海作品と言えば、『秒速5センチメートル』(07)に代表されるように、思わずため息をついてしまうような美しい風景描写が大きな魅力の一つだった。今回は、そんな背景のクオリティに一段と磨きがかかっており、一見の価値ありな作品に仕上がっている。

【写真を見る】タイルに落ちる雨粒の驚くべき描写。タイルや土に落ちた時など、全てが異なった描かれ方だ

靴職人を目指す15歳の少年が、雨の日に年上の女性と庭園で出会うことから始まる物語を描いた本作。まず冒頭、庭園の池と新緑が映し出されると、あまりに写実的なその風景に、これはアニメなのか?と疑問を抱いてしまうことだろう。そして、劇中では登場人物たちの心の揺れを、様々な雨で表現しているのだが、これが思わず息を呑んでしまうほどのすごさ。地雨や夕立、天気雨に豪雨、それから水たまりの波紋やタイルに落ちた飛沫まで、「雨ってこんなに表情豊かだったのか」というほど、激しく、優しく降る雨を丁寧に描き分けている。まるで、スクリーンから匂いたってくるような感覚に浸れるのだ。

そして、ファンにはお馴染みとも言える、光の描写やカメラワークももちろん秀逸だ。鳥のようにダイナミックに空を舞う視点から、駅の改札だったり、電車の扉窓に付着した雨粒だったり、そんな何気ない日常を切り取ったワンカットに目を奪われ、はっとさせられる。それはまるで普段の生活で見落としているものに気付かされるようで、観賞後は普段の風景も変わって見えてしまうだろう。

こういった写実的な技法に対して、アニメの背景をリアルにすることに意味があるのか?実写でやれば良いではないか?といった意見もあるかもしれない。だが、実際にあるものを映す実写と違って、アニメーションとして全てを描き出すということは、記憶の中にしか存在しない、ありえないはずの美しい風景を描くことなのではないか。つまり、この風景は単純にリアルに再現された背景ではなく、それ自体が登場人物と等しく意味をもって存在しているのだ。

ちなみに少年と女性が出会う庭園は新宿にある庭園がモデルになっているが、公開からまだ一週間足らずで、既に聖地巡礼に訪れる人が続出。Blu-ray、DVDを劇場で先行発売していることもあってか、構図を再現した写真を撮影し、ネット上で公開するファンも出ているほどだ。それだけ、新海監督の描く風景に引き寄せられてしまうということだろう。

既に例年よりも随分と早い梅雨入り宣言だ出され、これからちょうど『言の葉の庭』で描かれたようなシーズンを迎える。いつまでも降り止まぬ雨に、つい憂鬱になってしまいがちな気分も、本作を見れば一変するかもしれない。是非、梅雨が明ける前に、美麗な映像文学をスクリーンで堪能し、雨に濡れた庭園を散歩してみてはいかがだろうか。【トライワークス】