劇場中編アニメ「ハル」の脚本を担当した夫婦コンビ脚本家・木皿泉の妻鹿年季子。第22回向田邦子賞受賞作「すいか」など、コミカルな物語の中、深い人間ドラマを描いた作品で人気を集めている。4月には、初の小説『昨夜のカレー、明日のパン』も発売。

「ハル」
2013年6月8日(土)ロードショー
CAST:細谷佳正 日笠陽子 宮野真守 辻親八 大木民夫
監督:牧原亮太郎 脚本:木皿泉 キャラクター原案:咲坂伊緒

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6月8日(土)から全国ロードショーされる劇場アニメ「ハル」は、近未来の京都を舞台にした、ライトSFテイストのラブストーリー。最愛の恋人ハルを失い、生きる気力を失ってしまったくるみ。ハルそっくりのロボット「ロボハル」は、くるみの笑顔を取り戻すため、奮闘するものの……。
 シナリオを担当したのは、夫婦脚本家の木皿泉。「すいか」「Q10」などのTVドラマで大人気の2人は、どのような思いで、初めてのアニメ脚本に挑んだのか? 妻の妻鹿年季子に話を聞いた。

いきなり毛筆の手紙が届いた

――どういったきっかけで、今作の脚本を書かれることになったのですか?
木皿 前に「Q10」の特集をしてくれた雑誌の編集さんから、「木皿さんを紹介して欲しいと言ってる人がいる」と言われて。紹介されたのがこの人で(WIT STUDIO社長・和田丈嗣プロデューサー)。いきなり毛筆の手紙が届いたんですよ。
――インパクトありますね。
木皿 それで「オリジナルアニメの脚本を」って言うんだけど。そんなこと成立するのかなって思ったのが最初の印象ですね。
――なぜですか?
木皿 アニメの場合のオリジナルって、監督さんがやりたいものを作るんでしょ?
――確かに、監督がメインになって、こういう話を作りたいと企画を進めていくことが多いですね。
木皿 ですよね。だから、(監督ではなく)私たちメインでオリジナルのアニメなんてできないだろうって、半信半疑でした。(和田Pに向かって)ゴメンね、最初はあんまり信じてなかったんだよね(笑)。
和田 (笑顔でうなずく)
木皿 でも、この人は本当に良い人で。何度も何度も東京から(木皿が住む)神戸まで来てくれて。ああ、本当にやるんだなって。それで、関西の人だし、良いかなって。
――決め手は、和田さんが関西人ということでしたか(笑)。

話の骨格は前からあったもの

――正式に執筆が決まった時点で、物語の構想はどの程度あったのですか?
木皿 前からあったアイデアを、和田さんに話したら「良いですね!」って。ただ、それで恋愛ドラマをやろうと言われて、最初はピンと来なかったんですよ。後からよく考えてみたら、できそうだなとは思ったんですけど。
――それは、どんなアイデアだったのですか?
木皿  話の骨格みたいなもので。そこは、今の「ハル」のまんまです。
――ロボットが死んだ人の身代わりをする話ではあった?
木皿 そう。大切な相手に死なれた人が出てくる話です。でも、キャラクターや設定は別の形で。たぶん、私はヒューマンドラマというか、家族のドラマとして考えてたんじゃないかな。だから、すぐには恋愛ドラマと結びつかなかったのかも。
――でも、いつか形にしたいとは思っていたアイデアだったんですね。
木皿 そんな大げさなものでもなくて。よくあるんですよ。ちょっとしたエピソードやセリフ、キャラクターとかを思いついて。旦那(和泉務)さんと2人で、「これすごくない?」「え〜やん。天才ちゃうん?」とか褒めあって、夜中テンションで盛り上がることが(笑)。その中の一つを話したら、面白いって言ってくれた。じゃあ、多少はパッケージを変えてでも、売っちまおうぜ、みたいな(笑)。
――良い客が来た来た、みたいな?
木皿 そうそう。買いたいっていう人がいるんだったらねえ〜。って、なんか、私らすごい悪い感じじゃないですか?(笑)
和田 そんな話になってますね(笑)。
木皿 さっき受けたインタビューは、ものすっごい良い感じだったのに。
和田 ええ、柔らかい雰囲気でしたよ。
――あれ? じゃあ、僕のせいですかね(笑)。

血ヘドを吐くほど大変

――アニメの脚本を書いてみて、実写ドラマや舞台との違いは感じましたか?
木皿 こんなにも、血ヘドを吐くほど大変だとは思わなかったですね(笑)。
――そこまでですか!
木皿 ドラマの場合は、こんな役者さんが出るよとか、ここでロケするよとか言われたら、「ああ、こんな感じになるんだな」とかある程度、読めるじゃないですか。でも、アニメはすごい漠然とした感じで。
――基本、どんな登場人物でも出せるし、舞台をどこにしても良いですよね。
木皿 そうそう。どうやっても自由ですよって言われて、途方に暮れました。それにアニメだから、映像を喚起させるような本にすることが大事という気持ちも、すごく強くて。
――アニメということを、過剰に意識していた?
木皿 そうかも。それで最初に(頭の中で)できたのがぐちゃぐちゃとしたイメージだったんですよね。それを自分なりに、「これはこういうことかな」って言葉にしていくみたいな、変な作り方をしたので。それもあって、すごく大変でした。でも、根本的には最初からずっと変わらないものがあったらしくて。言葉にしていく段階で、「あ、こういう話を書きたかったのね」と見えてきました。

「葵橋良いな」って言っただけで

――ヒロインのくるみが営む雑貨店は、京都の町家(モデルは西陣)にあって。その他にも、鴨川、八坂神社などの名所が登場します。京都を舞台にした狙いは?
木皿 理由ははっきり覚えてないんですけど、たぶん、私が「京都が良いよね」って言いました。でも、その前に今から30年後くらいのSFにすることは決まっていて。私の中では京都とSFは結びつかなかったんです。和田さんは最初から、「京都でSF良いですね!」って言ってたんですけど。
和田 京都でSFは良かったですよ。
木皿 私は、あの町で30年後の設定なんて無理だと思ってました。でも、考えてみたら、京都って昔からずっと変わってないじゃないですか。だから、30年後も変わってないわけで。これはある意味、良かったなって。祇園祭もあったり、古い共同体も残ってるって設定だし。
――人間のようなロボットが存在すること以外は、現在と変わらない。少し不思議な世界観も面白かったです。
木皿 私は行ってないんですけど、牧原(亮太郎)監督たちはシナリオハンティングもしていて。良い場所を選ばれてますよね。
――僕も学生時代、京都に住んでいたので懐かしかったです。観光地だけでなく、住んでる人たちに親しまれてるような場所も出てきますよね。
木皿 そうそう。超有名なところばかりじゃなくて。出町柳や葵橋のあたりは、私から希望しました。
――好きな場所なんですか?
木皿 はい。中原中也の詩で葵橋の話が出てくるんですよ。それが青春の話で。カーブした先に橋のある感じや、橋の上から見る風景もけっこう好き。だから、「葵橋良いな」って言っただけなのに、「じゃあ、葵橋でやります」って言ってくれて。それを、映像でもちゃ〜んとやってるんですよ。
和田 それは、もちろんやりますよ(笑)。
木皿 え〜ドラマだとやってくれないよ。
和田 ホントですか?
木皿 そうだよ〜。
――アニメのスタッフは、優しいなあって感じですか?
木皿 本当に。それとも、この人が優しいのかな? 言ったことは全部やってくれるから、すごいびっくりしました。逆に、うかつなことが言えないくらい。
(丸本大輔)

(後編に続く)