種まき型営業を組織に定着させるには?

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一度断られたらすぐにあきらめてしまう部下。彼らの自信を取り戻し、ふたたびやる気に火をつけるため、上司がかけるべき言葉とは。

■新規獲得には6〜8倍の労力がかかる

刈り取り型営業の限界に気づき、種まき型営業への転換を図ろうとしている意欲的な営業マネジャーは少なくない。しかし、マネジャーが抱く危機感とはうらはらに、現場では相変わらず目先の案件を追いかける営業が横行して、継続アプローチが徹底されていない組織が目立つ。

すぐにあきらめてしまう部下たちを、「最近の若い社員は粘りが足りない」と切り捨てるのは簡単だ。ただ、いくら精神論を振りかざしても現場は変わらない。

では、種まき型営業を組織に浸透させるために何をやればいいのか。意識してもらいたいポイントは3つある。

1つ目のポイントは、マネジメントのフォローだ。種まき型営業の重要性に気づいて営業改革の花火を打ち上げたものの、その後のフォローがなく、現場が混乱しているケースが後を絶たない。

欧米では、マネジャーが羊飼いにたとえられることが多い。羊は目の前に柵が現れると、引き返したり回り道したりせず、ひたすら柵の前に佇む習性があるそうだ。自分では何も判断できなくなった羊たちを導くために羊飼いが存在するのだが、営業マネジャーも同じ役割を担っていることを自覚すべきだろう。「種まきしよう」「継続的にアプローチせよ」と言いっ放しにしてはいけない。行くべき顧客のもとを継続的に訪問しているか。もし問題があって訪問していないとしたら、その問題をどうやって解決するか。そこまで導いてこそ、部下は柵の向こう側へと進んでくれるのである。

忙しくてそこまでフォローできないという声もあるだろう。とくに近年は自分でも顧客を担当するプレーイングマネジャーが増えている。自分のことで精一杯で、部下の行動まで細かく把握できないというわけだ。しかし、そうした言い訳が許されるなら、マネジャーの存在理由がなくなってしまう。

現実的な解決策としては、少人数のチームに編成し直してみてはどうだろうか。部下の営業活動を的確に把握しようとすれば、目の行き届く人数は自ずと限られる。優秀なマネジャーでも、せいぜい5〜6人が限度。それ以上の部下がいる場合は、5〜6人単位のチームに分けて、それぞれのチームリーダーをフォローするといったやり方が最適だろう。

2つ目のポイントは、成功事例の共有だ。種まき型営業への転換を図って、いち早く成果を出した部下がいたとしよう。このとき部下の体験をナレッジ化(知識化)して横展開できる仕組みがある組織は、継続的アプローチの重要性やその方法論が比較的早く定着していく。逆に、ナレッジが個人の中にとどまっている組織は、新しい価値観や方法論がまわりに伝わりにくく、組織レベルではなかなか改革が進んでいかない。

単に仕組みを用意するだけでもダメだ。たとえば成功事例データベースを社内に作っても、ほとんどの営業担当者は数字などの結果を書くだけになってしまう。それは部下がノウハウを独り占めにしようとしているからではない。成功体験を分析して、自分がうまくいった要因を言語化するのには、営業とは別のスキルや経験が必要になる。他の人が参考にできるような形でナレッジを残さないのは、プロセスを分析してナレッジにしていく術がないからなのだ。

その点をフォローするのも営業マネジャーの大事な役割だ。部下からヒアリングをして要因分析をしたり、ナレッジの共有を目的にした会議や勉強会を開くなどして、現場まかせにしない工夫をしたいところだ。

3つ目のポイントとして注目したいのが評価制度だ。種まき型営業の重要性は、部下も頭では理解している。にもかかわらず顧客との関係性より案件に目が行ってしまうのは、目先の案件を追って売り上げをつくらないと評価されない人事評価制度だからだ。

現在の受注額は大きいが拡販余地がない既存客と、いま受注できる額は少ないが将来は大きな拡販余地を期待できる新規顧客がいるとしよう。種まき型営業を目指すなら、攻略すべきターゲットは新規顧客のほうだ。しかし、受注という結果で給与やボーナスが決まる人事評価制度なら、現場の営業担当者は素直に種まき型営業をしようと考えるだろうか?

おそらく答えはノーだ。粘り強くアプローチしてロイヤルカスタマーになってもらえれば、いずれ自分の収入増につながるが、それはしばらく先の話。営業担当者にとっては、いま年収が減ってしまうことのほうが何倍も現実感がある。そうした目先の不安を解消するために、種をまかずに刈り取りやすい案件から飛びついてしまうのである。

営業担当者のこうした心理を責めることはできない。種まき型営業を浸透させたいなら、むしろ現場の営業担当者たちが目先の不安を感じなくて済むような評価制度に変える必要があるはずだ。

種まき型営業を促す評価制度はいろいろと考えられる。一般的に新規顧客の獲得は既存客からのリピート受注に比べて6〜8倍の労力がかかるといわれている。

だから営業担当者は自分の行きやすい既存客のところばかり訪問するのだが、これを変えるには、新規顧客からの受注額を6〜8倍にして評価してあげればいい。あるいは、賞与のうち6割は既存顧客の予算達成率で、4割はプロセスの進捗で評価するというように、新規顧客を無視できない制度にしてもいい。

目先の案件から顧客との関係性構築に目を向けさせるためには、顧客数による評価や、顧客からの声といった定性的情報による評価を組み込むことも必要になってくるだろう。大切なのは、結果主義の評価体系から、顧客重視でプロセス主義の評価体系に軸足を移すこと。それができてはじめて部下も種まきに精を出せるのだ。

とはいえ、評価制度の改革は営業部門だけでできる話ではない。人事評価制度は組織の根幹にかかわる話であり、会社全体を巻き込んでいかなければ実現できない。営業マネジャーが、経営陣や関係部署に種まき型営業の重要性を説き、評価制度改革の必要性をいかに納得させられるか。現場が安心して種まき型営業に注力できるかどうかは、そこにかかっている。

■あきらめた部下を立ち直らせるには

アプローチをすぐあきらめてしまう部下をモチベートするには、組織的な取り組みだけでなく、上司の個人的な働きかけも重要だ。ただし、こうすれば必ず部下はやる気を出すという万能の方法はない。1人ひとりやる気を感じるポイントが異なるので、それぞれに適した動機づけを考える必要がある。

営業担当者がやる気を感じる主なポイントは、以下の5つだ。

(1)「獲得」

契約を取ることで達成感を得て、やる気に転化させる。刈り取り型営業で力を発揮するタイプなので、種まき型にシフトしつつある現在は目標を見失いがち。

(2)「成長」

成長実感によってやる気を高めていく。「どんどん成長しているな」という声かけが効果的。自分で成長を確認できるように、訪問件数や目標達成率などの各種指標を可視化しておくといい。

(3)「評価」

いわゆる「褒めて伸びる」タイプで、言葉によるインセンティブがもっとも効果的に働く。承認欲求が強いので、厳しい叱咤激励は逆効果になる恐れがある。

(4)「征服」

難題を克服することに喜びを見出すタイプで、みんなが避けたがる顧客ほどチャレンジスピリットを持ってアプローチする。褒めるより叱咤激励のほうがやる気につながる場合が多い。

(5)「責任」

仕事への責任感や組織へのロイヤルティが強く、部下を持ったり数字に責任を持つ立場になると力を発揮する。金銭より、地位やポストによる報酬でモチベートされやすい。

これら5つのポイントは、時代とともに変化している。営業マネジャーやその上司が育った時代は、「獲得」「責任」によってモチベーションのマネジメントが行われてきた。それに慣れているマネジャーは、「成約までもう少しだから頑張れ」「チームリーダーとして相応しい働きをしろ」という叱咤激励で部下もやる気を出すと考えがちだ。

しかし、いま増えてきているのは「評価」でモチベートされるタイプだ。このタイプに、厳しい言葉で火をつけようとするのは逆効果。それよりも「お客様が喜んでいた」「頑張りはみんな認めている」といった一言のほうが継続アプローチの動機づけになる。

また最近は、終身雇用が約束されない時代になって、会社に頼らずとも生きていけるように「成長」を重視する若い社員も増えてきた。1人ひとり、大事にしている価値観は違う。営業マネジャーはそれを見極めて、きめ細かくマネジメントすることを肝に銘じるべきだろう。

それでも部下がアプローチを止めてしまったら、どうすればいいのか。一度あきらめた部下を立ち直らせるには、うまくいかない原因を特定して、改善が可能であることを示すことが大切だ。

物事がうまくいかないとき、その原因は外部要因と内部要因に分けられる。営業活動なら、「市場環境が悪い」「商品力がない」は外部要因。一方、「プレゼン力がない」「スケジュール管理が下手で、顧客訪問の時間がない」は内部要因だ。一般的に部下がアプローチをあきらめるのは、外部要因=自分ではコントロール不可能な要因の影響が大きいと感じているときだ。自分が何をしても結果は変わらないという無力感が、あきらめる意識につながってしまうわけだ。

部下の心にふたたび火をつけるには、「うまくいかない原因は内部要因=自分の意思でコントロールが可能である」ということに気づかせなくてはいけない。もちろん内部要因を意識させるといっても、「おまえが悪い」と突き放すマネジメントでは部下を精神的に追いこむことになる。責任追及に陥らないように、一緒に解決策を考えていく姿勢が必要だ。

部下に成功体験を積ませることも効果的だ。ここでいう成功体験とは、大きな案件を受注することではない。必要なのは、プロセスの成功体験。「アポが取れなかった顧客とようやく会えた」「キーマンが不明だったのにヒアリングを通して判明した」といった小さなプロセスを一歩前に進めた経験を積ませることで、部下に自信をつけさせていく。

成功体験を積ませるには、一定期間、営業に同行したり密にミーティングを重ねるなどして、マネジャーが深くかかわっていくしかないだろう。兼任マネジャーにとっては大きな負担かもしれないが、部下が自信を取り戻すまでの辛抱だ。

なかにはいろいろ手を尽くしても、従来の営業スタイルから脱却できない部下が出てくるだろう。しかし、そこで焦ってはいけない。部下にあきらめない営業を強いるのだから、上司もあきらめないマネジメントで、部下を粘り強くフォローしていきたい。

(カーナープロダクト代表取締役 横田雅俊 構成=村上 敬)