秋の風物詩だった学校の運動会が、春にも行われるようになって久しい。文化祭をはじめとする、秋に集中しがちだった学校行事を分散させるため、あるいは猛暑を避けるため、受験に配慮してなど、地区や学校ごとにその要因は様々のようだが、5〜6月を中心とした「春の運動会」が根付きつつある。そしてもう一つ、いま広がっているのが「大人の運動会」だ。

「運動会を実施する企業は、ここ数年、確実に増えています」

 そう語るのは、企業などの運動会の企画・運営をおこなう「運動会屋」(運営:NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ)の代表、米司隆明さんだ。「運動会屋」は、会場の確保から種目のアレンジ、種目が決まれば綱引きの綱や玉入れの玉など用具を貸し出し、当日は審判から弁当の手配までを行う。そのほか、社員のケガを防ぐために準備運動を啓蒙し、スポーツ保険などの保険を案内するなど、プランに応じて運動会にまつわるすべてを演出・実行する。

 会社の運動会と言えば、かつては日本企業の伝統行事だったが、バブル崩壊後、時代の変化とともに90年代に激減した。なぜ、最近になって、見直されつつあるのか。米司さんはここ数年の流れを、こう分析する。

「まず、4、5年前から、成果主義や職場のIT化の反動が起こり始めました。コミュニケーション不足や社員のうつ病などが社会問題になり、会社の行事が見直されるようになったんです。でも、そんな矢先に、リーマン・ショックが起きた。景気が悪くなると、福利厚生の予算は圧縮されます。でも、行事をゼロにはできない。じゃあ、一泊二日の社員旅行をやめて、一日で終わる運動会にしようという企業が増えました。その後、震災などの影響で、人間関係やつながりがさらに重要視されるようなりました。今年は景気も良くなってきて、大企業さんからの問い合わせも増えていますね」

 とはいえなぜ、他のリクリエーションではなく、運動会なのか。前出の米司さんは運動会の“参加のしやすさ”を挙げる。

「組織の全員で、例えば球技をするのは難しい。野球やサッカーだと、チームの人数が限られますし、できる人とできない人の差が大きいんです。その点、運動会の種目は、小中学校で一度はやったことのあるものですし、多くの人が参加しやすいんですね」

 ちなみに人気種目は、リレーや玉入れ、大縄跳びや綱引きなど、懐かしさを誘う定番のものだという。昨年から運動会を始めたIT企業の30代男性社員はこう語る。「体を動かすことは純粋に自分のためにもなるので、楽しかったです。飲み会で、つまらないなと思いながら上司の話を聞いているより、皆で何かに取り組むことで一体感も出るので、良いイベントだと思います」

 さらに昨今は、企業に限らず、フェイスブックなどのSNSなどを使って参加者を募集する、市民発案型の「大人の運動会」も増えているという。“ゲンキをリレーしよう”を合言葉にした「大人の運動会」(東京・板橋区で開催)には、昨年、約250名が参加したという。運動や出会いの場として、若者を中心に、運動会の人気が高まっているようだ。

 こうした状況について、スポーツ社会学が専門の関西大学・杉本厚夫教授は、スポーツのあり方が変化していると指摘する。

「運動会には団体種目が多いですから、必然的に、“支え合う”ことになります。震災以降、支え合いが様々な局面で求められるようになり、スポーツのあり方も変わってきました。たとえばマラソン大会には、ペアやグループでエントリーする人が増えています。勝負や運動といった側面だけではなく、支え合う実感に、比重が置かれるようになっているんですね。日常生活で支え合うのは照れくさくても、童心に戻るスポーツを通してならやりやすい。企業や市民の運動会が増加している背景には、こうした流れがあると考えられます」

 今年は早くも梅雨入りしてしまったが、今後は季節を問わず、大人の運動会の号砲が鳴り響くようになるかもしれない。