(PIXTA=写真)

「上司が評価してくれない」「やりがいが見出せない」「気持ちが安らがない」……。2500年前の教えをもとに気鋭の僧侶が古くて新しい悩みに答える。

■「他者の利益」と「自分の損」は無関係

●同期の中で、自分だけ出世が遅れているのが納得いかない。
●育児で時短勤務の同僚を見ると、不公平だと思ってしまう。
●やる気のなさを隠しもしない同僚がいて、一緒に働くのが嫌になる。

出世した同期や時短勤務の同僚に対する苛立ちは、「嫉妬心」から起こるもの。嫉妬という感情は誰もが身に覚えのあるものでしょうが、仏教的に見た「嫉妬」の定義とは「他者の快感ないし快適さに対する怒り」です。

そもそも自己愛が強いナルシシストである人間は、他人が自分よりも注目されていたり、自分よりも少しでもいい思いをしていたりするのが気に入りません。他人が利益を挙げているのを見るとくやしくなり、自分がその利益を挙げられるはずだったのにと思ってしまう。つまり「他者の利益」は「自分の損」というわけですが、よくよく考えてみますと、本来この2つに関係性はありません。

そこに関係性を見出してしまうのが私たちの心の働きです。人間は欲深く、ともかく何でも自分が一番得をしたいと思っています。自分の取り分を大きくするには、“他人の取り分を少なくすればいい”と考えてしまうのです。

ちなみに嫉妬は通常、同期や同僚など自分と置き換えて考えることができる対象に向けられるものですが、嫉妬心が強い人はあらゆるものに対して嫉妬してしまいます。たとえば、部下と雑談をしていて、自分が話している最中に部下が携帯に出たことに苛立つのは、自分が電話の相手よりも低く見られたと感じるからで、これはまだ理解できます。

ところが、部下が自分の話の最中に空を見上げていることに腹を立てるのは、「この私より空のほうが大事なのか」という怒りで、つまり空に対する嫉妬です。このように嫉妬は途方もなく膨らみ、暴走してしまう可能性があります。

また嫉妬心は、つい他人のあら探しをしてしまうものです。やる気のなさを隠そうとしない同僚は、たしかに職場の空気を悪くするかもしれません。けれども一方で、「こんな人がいるから、自分の意欲が削がれるのだ」という言い訳にも利用できます。自分がうまくいかないことを人のせいにすることで、自分のプライドが保てるのです。

「他人の良くないところはよく見えるけれど、自分自身の良くないところは見えにくい」と、ブッダは述べています。人間は、自分の問題点を隠すために他人の問題点を指摘したがる生き物です。そこで、他人のことが気になるのは自分が自分自身の問題点から目を逸らせたいからではないだろうかと、わが身を振り返ってみることをお勧めします。

嫉妬を野放しにしているのは、自分の生きる喜びを減らしてしまうものだと知ることも大切です。嫉妬心が強いと、周囲の人が成功するたびに嫌な気持ちになり、自分自身が苦しむことになります。また、嫉妬が高じて成功した人の悪口を言いたくなり、その結果、周囲から敬遠されることにもなってしまうのです。

嫉妬でムカムカしている本人とは違い、周囲は冷静で、成功者の悪口を言っている人に対しては「自分がうまくいっていないことの腹いせに、他人を貶めようとする人」という評価を下します。嫉妬から悪口を言うことは、結局自分で自分を貶めることになるのです。

このように、他人に嫉妬することは自分を不幸にするだけのこと。それを自覚すれば、嫉妬を感じそうになったときに別のアプローチが生まれてきます。たとえば、自分より早く出世した同期に思い切って上等なプレゼントをあげてみるのもいいでしょう。

それにより、「自分は嫉妬という感情を乗り越えることができた」という自己克服感が生まれます。

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ブッダの言葉

他人の良くないところは
とてもよく見えるし、
調子にのって指摘したくもなる。
見えにくいのは、
君自身の良くないところ。
他人の問題点を指摘することで、
「ちゃんと指摘できる
立派な自分には問題がない」と
錯覚するがゆえに、
自分自身の問題点が
隠されてしまう。それはまるで、
ギャンブルでサイコロを振って、
自分に不利な目が出たら
イカサマして隠してしまう
ギャンブラーのよう。

(法句経252)*『超訳 ブッダの言葉』125

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※記事中「ブッダの言葉」は、すべて小池龍之介編訳『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー刊)による。

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月読寺住職・正現寺住職 小池龍之介
1978年生まれ。東京大学教養学部卒。2003年、ウェブサイト「家出空間」を開設。現在は「正現寺」と「月読寺」(東京・世田谷)を往復しながら、自身の修行と一般向けに瞑想指導を続けている。『考えない練習』など著書多数。

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(月読寺住職・正現寺住職 小池龍之介 構成=岩原和子 撮影=向井 渉 写真=PIXTA)