一般社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)

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一般社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)

こばやし・かずや●演奏部統括推進課係長。東洋大学法学部経営法学科卒業。1996年4月入社。社会貢献を実感できる仕事を視野に、業種や職種は絞らず約100社に資料を請求し、約50社を訪問。学生時代に音楽サークルに所属していたこと、事業の社会貢献性からJASRACを第1志望に、社風に好感を持った電機メーカーとの2社に絞った。決め手となったのは、面接に来ていた学生と接し「彼らが同期だったらいいな」と思えたこと。

法律ありきではなく、著作権者にとって使用料が新たな創作の糧となることを説いて契約

音楽著作権とは、著作権者(作詞者・作曲者など)が利用を認めたり、禁止したりできる権利のこと。著作権法が認めた私的使用のための複製等、一部の場合を除き、著作物を利用する際には著作権者の許諾を得なければならない。日本音楽著作権協会(JASRAC)は、著作権者から著作権管理の委任を受け、音楽ユーザーの方々に簡便な手続きで利用を許諾、使用料を徴収し、著作権者に分配している。

 

入社18年目となる小林さんは、約9年間、各地の支部で演奏権(※)管理に携わってきた。全国の主要都市16カ所にある支部の業務は、音楽をライブ演奏、カラオケ、BGM等で利用している音楽ユーザーの方々と契約を締結する演奏権管理が中心。カラオケ店や飲食店、レンタルCD店やライブハウス、コンサート主催者などの音楽ユーザーの方々を一軒一軒回って、許諾手続きを求める地道な仕事だ。

 

(※)著作物を演奏したい音楽ユーザーに利用を認めたり、禁止したりできる権利。著作権に含まれる権利の一つ。

 

「大半の方たちにとって著作権手続きはあまり身近なものではありません。ですから、手続きや使用料のお支払いが必要なことを知らない方がいらっしゃいます。実は、私自身もその一人でした。大学のサークルでジャズライブ活動をしていたところ、ある日JASRACから案内文書が届いたんです。最初はよくわかりませんでしたが、いろいろと調べていくうちに『使用料を支払うことが、音楽文化への貢献になる』ということがわかりました」

 

なぜ使用料の支払いが必要なのかをなかなか理解してもらえないだけでなく、理解していても支払ってもらえないこともあり、1度の訪問ではなかなか契約に至らない。何度も足を運んで説明を重ね、ときには契約までに1年以上かかることもある。

「大切なのは、音楽著作権のシステムをきちんと説明し、理解を得ること。『法律ですから支払ってください』ではうまくいきません。この使用料によって著作権者が創作活動に専念でき、また素晴らしい音楽が生み出され、その曲を楽しみにお客さまが来店するというサイクルを理解してもらうことが重要なのです」

 

この仕事の第一歩は、情報収集。新しく開店した店やこれから行われるライブ情報などを、いかに事前に入手し、迅速に手続き案内できるかがポイントとなる。

「手続きが遅れて開店から半年後になってしまった場合、すでに利用していた期間については、その期間も含めてお支払いいただくことになりますが、それではお店側も『支払えない』となる。ですから、開店時に契約が整うよう、雑誌やインターネットはもちろん、現地に出向くなり、さまざまな形で新規店の情報収集に当たっています」

 

契約までの道のりは厳しく、訪問先では「何ですか、それは?」と疑われたり、「帰ってくれ」と怒鳴られたりすることも少なくない。

「正直、二度と行きたくないと思うこともあります。それでも感情的にならずに、粘り強く案内を続けます。何度も通ううちに『また来たのか』とお茶が出るようになり、最後には『負けたよ』と契約に応じてくれたこともあります(笑)」

 

北陸支部時代の入社2年目、小林さんはカラオケ設備のある居酒屋の店主に感謝されたことがある。

「私が説明に行ったことで音楽著作権のことを初めて知り、ご自身でかなり調べたようです。次にうかがった際に『本来なら、作詞家や作曲家に毎回自分で許可を取らなくてはいけないんだね。その手続きを一括代行してくれるなんて、助かるよ』と感謝され、すごくうれしかったですね!」

 

デスクで支部からの問い合わせに対応。規程の解釈や判断に関するアドバイスなど、問い合わせ内容はさまざまだ。

 

■ 「自分たちが頑張ることで、作家が創作活動に打ち込める」という思いが自分のモチベーション

小林さんの仕事のモチベーションは、“音楽が好き”という純粋な思いに支えられている。

「道を歩いていてもテレビをつけても、常に音楽が流れている。それぐらい、音楽は生活と切り離せない存在です。みんなに愛される音楽を創作する活動を多くの作家が続けていけるのは、音楽に対価を支払う著作権という仕組みがあるから。そして、そのシステムを支えているのがJASRACなのです。ですから、辛い思いをしても『自分たちが頑張ることで、作家が創作活動に打ち込めるんだ』と考えると、乗り越えることができます」

 

6年目、埼玉県の大宮支部に異動してより大きな市場を担当することになった小林さんは、電話案内の強化や独自の案内ツールを制作・送付するなど、業務の効率化を実践した。

「交渉の難易度もかなり上がりました。広域にわたる大市場を担当することとなり、いくら案内を重ねても軽くあしらわれてしまうことも増え、苦戦しましたね」

 

大宮支部では、音楽ユーザーの方々と同じ目線に立って説明することに加えて、長期間にわたり許諾手続きをしないで著作権侵害を継続している音楽ユーザーの方に対しては督促状を送付するなど、法律に則った説得術も身につけた。そして、懸案となっていた複数の音楽ユーザーの方と、3年もの月日をかけて契約を実現させた。

「法律は万人に公平であるべき。きちんと手続きしている音楽ユーザーの方々に『あの店は手続きしないで利益を得ている。不公平だ』と思わせてはいけないのです。 “手続きしていない方がおかしい”という土壌をつくることが重要なのだと気づきました」

 

2005年に異動となった内国資料部では、作家など著作権者からの作品届を受け付け、情報をデータベース化して管理する業務に従事。そのデータに基づいて音楽ユーザーから使用料をお支払いいただき、著作権者へ分配されるのだ。この業務に就いたことで、小林さんは、それまでの支部での仕事が確かに音楽文化を支えているのだとリアルにとらえることができた。

「窓口で作家の方に感謝されたり、『新曲ができた』とうれしそうに語る姿を見たりしたことで『支部でやってきたことが、こうしてつながっているのか』と実感できました。仕事の点と点が線に結びついたのです」

 

現在は本部(東京都渋谷区)の演奏部に異動となり、支部が行う業務の企画と統括業務に当たっている小林さん。長年の支部経験で培った現場感覚と内国資料部時代の権利関係の知識を基に、これからの著作権管理の在り方を提案していきたいと考えている。

「音楽業界の重要な位置にいるこの仕事に、やりがいを感じています。権利者と音楽ユーザーの方々の間に私たちが介在することで、一曲一曲権利関係が異なる多くの楽曲の権利処理がすみやかに行われるわけですから。究極の目標は、JASRACが督促する必要のない世の中にすること。『音楽を使うから、許諾を得なくちゃ!』という意識を世間に浸透させることですね」

 

支部ではなく、本部の演奏部で契約している音楽ユーザーもあり、必要に応じてこうした音楽ユーザーを訪問することも小林さんの仕事だ。

 

小林さんのキャリアステップ

STEP1 1996年 北陸支部にて演奏権管理のイロハを学ぶ(入社1年目)

同期入社は36名。そのほとんどが最初は支部に配属され、演奏権管理の現場を経験する。職員数5名の北陸支部(石川県金沢市)で最初に担当したのは、比較的市場規模の小さい福井県。当初は、著作権の説明や使用料の交渉もたどたどしく、交渉相手に追い返されてへこむこともあったが、経験を重ねるにつれてスキルアップ。3年目には後輩も入り、北陸では最大規模となる金沢市を担当することに。支部の最重要地域を任され、大きなやりがいを覚えた。

STEP2 2001年 市場規模の大きい大宮支部で演奏権管理に従事(入社6年目)

職員数約20名の大宮支部(埼玉県さいたま市)に異動。業務は北陸支部と同様だが、市場規模の大きい大宮支部では、北陸時代の7倍の件数を担当することに。大量の件数に対応するために独自の案内ツールを作成・郵送したり、電話での督促を強化するなど、業務の効率化に努めて契約率をアップ。懸案となっていた複数の音楽ユーザーの方に対し、約3年間かけて契約に成功。「著作権手続きは当たり前のこと」と認識させる土壌づくりが大切だということを学んだ。2004年に係長に昇進。

STEP3 2005年 内国資料部にて作品届の受付窓口業務を経験(入社10年目)

本部の内国資料部に異動。作家からの作品届を受理し、その情報をデータベース化して管理する業務に従事。作家と直接話をする機会も増え、これまで支部という現場で行ってきた業務が作家の新たな創作活動につながり、貢献になっていることを実感する。2009年、職員数6名の鹿児島支部(現在は、九州支部に統合)に転勤し、ふたたび演奏権管理に携わる。内国資料部で作家と接したことで、著作権を預かる責任の重さをより強く意識して業務に臨むようになった。

STEP4 2013年 演奏部統括推進課で支部の統括やサポート業務を担当(入社18年目)

4年間の九州勤務を経て、4月に本部に異動。演奏部統括推進課にて、全国の支部の統括やサポート業務を中心に、著作権の啓蒙活動の一環として音楽ユーザーに協力を求める折衝業務などに従事。現在は、1年後のリリースを目指して、支部が訪問業務を行う際に使用している携帯型情報端末機の次期開発も担当し、より効果的な演奏権管理の実現に向けて取り組んでいる。

 


■ ある日のスケジュール

9:30 出社。前日届いたメールやFAXを処理し、一日のスケジュールを確認。
10:00 9名で課内ミーティング。進捗状況を報告し、関連部署の取り組みについて情報を共有。その後、デスクにて支部からの問い合わせに対応し、問題解決をアシスト。
12:00 同僚とランチに出て情報交換。妻手作りの弁当を持参することもある。
13:00 システム開発業者が来会。携帯型情報端末機の情報セキュリティ確保について打ち合わせ。
15:00 1カ月後に開催される支部長会議の資料について、部内ミーティング。全国の支部長から寄せられた議題を精査。
16:00 外出。通信カラオケ事業者を訪問し、新規事業について説明を受け、権利処理の相談に対応。
18:00 訪問先での折衝内容について上司に報告。検討事項についての資料を作成し、19時ごろ退社。

プライベート

趣味はカフェ巡り。インテリアや器が醸し出す独特の空間で、本を読みながらお茶するのが至福の時間。「人里離れた山間部にあるような“隠れ家カフェ”を探しに行くのも好きですね」。

 

カフェやインテリアショップで見た家具をヒントに、家具を作るのが楽しみ。写真は自作のCDラック。「しょっちゅうホームセンターで端材を買ってくるので、妻に叱られています(笑)」。

 

 

九州転勤を機に、夫婦ではまっている温泉巡り。「写真は湯布院。温泉の後、ドクターフィッシュに足の角質を掃除してもらいました(笑)。次は東京近郊の湯河原周辺に行きたいですね」。

 

取材・文/笠井貞子 撮影/刑部友康