日進月歩なもの、それは世界の科学技術と中国の食品偽装技術。特に食肉の分野では、関係各所のたゆまぬ努力と利益追求によって、想像を絶するほどの偽装技術が花開いている。

今年２月に摘発されたある業者グループは、キツネやネコ、ネズミなど各種の病死動物、廃棄動物の肉（もちろん検疫を受けていない）を格安で購入し、ゼラチン、着色料、硝酸塩などを添加して「羊肉」に偽装。これを上海などの自由市場で販売し、１０００万元（約１億６０００万円）以上を荒稼ぎしていたという。

中国の食品事情に詳しいジャーナリストの戴世��氏が、偽装の実態を明かす。

「ポピュラーなのは、毛皮用として１０００万頭以上養殖されているとされるキツネの肉を利用するケース。キツネの味はネコとイヌの中間くらいですが、養殖キツネは魚のミンチを食べていて肉の臭みが特に強いんです。さらに寄生虫や狂犬病の心配もあるため、四川省など一部地域で伝統食材となっている程度で、普通の中国人は好んで食べない。それで廃棄されるはずの肉を引き取り、加工する業者が多数いるわけです」

ネコとイヌの中間の味といわれても想像するのは難しいが、そんなキツネの肉をどう使うのか？

「キツネ肉やネコ肉は臭みが強いので、牛肉や豚肉に偽装するのは大変ですが、少し熟成が進んでにおいを発し始めた羊肉やヤギ肉に“化ける”のは簡単なようです。中国では貧困層のタンパク源として羊のバラ肉がビニール袋詰めで安売りされているのですが、これは通称“混合肉”と呼ばれていて、羊のほかに何肉が混ざっているかは運次第。コーヒーのブレンドと同じで、配合の上手な店は人気があります（笑）」（戴氏）

しかし、キツネやネコが偽装肉に使われるのに、イヌは使われないのだろうか？　そこにも中国ならではの事情があるようだ。

「狗肉（くにく、イヌ肉のこと）は高級食材だからです。むしろ狗肉を増量させるためにヤギ肉やタヌキ肉、キツネ肉を混ぜるという話はよく聞きますね。高価な肉に安い肉を効率よく混ぜるのが食肉ビジネスの秘訣です」（戴氏）

偽装に使用される肉のなかには、ネズミ肉すら混ざっているという説もある。

「本当です。どの家にもいるネズミは、一番安くて身近な家畜といわれています。捕まえるのは貧しい老人や子供ですが、それを自ら食べることはせず、小遣い稼ぎとして鶏肉店に売る。そこでネズミを約７２度の湯にくぐらせて皮を剥（は）ぎ、さばいて処理し、露店で売られる羊や鶏の串焼き用の肉に混ぜて使用されることが多いんです。ただ……捕まえるときに殺鼠（さっそ）剤を使っているんですよねえ……。時々、露店で買った串焼きを食べた人が中毒になり、入院したり亡くなる事件もあります」

生命さえも脅（おびや）かす、中国の食肉偽装。現地の露店で食べるも旅の醍醐味ではあるが、危険性を考えると中国ではやめておいたほうがいいのかもしれない……。

（取材・文／近兼拓史）