来日したパク・チャヌク監督を直撃!

写真拡大

『オールド・ボーイ』(03)で世界に強烈なインパクトを与えたパク・チャヌク監督。ハリウッド進出第一作となる『イノセント・ガーデン』が5月31日(金)より公開される。独特な美的センスのなかに、人間の暴力性と叙情的な感情を描き出してきた監督が、本作では、ミア・ワシコウスカとニコール・キッドマンをキャストに迎え、思春期の静かな狂気を浮き彫りにしてみせた。そこで来日したパク・チャヌク監督を訪ね、作品に込めた思いを聞いた。

【写真を見る】パク・チャヌク最新作は、官能美のなかに少女の揺らぎを描くミステリー

ピアノの旋律のように、物語は美しく流れる。主人公の少女インディアが18歳になった時、最愛の父が急死。葬儀の日に突如、行方不明だった叔父チャーリーが現れ、次第にインディアはチャーリーに惹かれていくのだ。「実は、私の娘がインディアと同じ18歳なんです」と、穏やかな笑顔を見せた監督。「娘のことを思いながら作った映画でもあります。インディアが反抗的な態度を見せるところは、娘が私に反抗する時の態度を参考にして作っているんですよ」。

謎めいた叔父との関係のなかに、思春期の揺らぎを鮮やかに映し出す。意外なことに、脚本を手がけたのは、ドラマ「プリズン・ブレイク」の俳優ウェントワース・ミラーだ。その才能にも驚くが、ハリウッド進出作になぜこの脚本を選んだのだろうか。「余白の多いシナリオだと思いました。監督が自分の想像力を発揮して色々と満たしていける要素がとても強かった。アプローチの仕方によって、また違う作品ができていたのではないかと思います」。

「インディアの成長物語に焦点を合わせたかった」と振り返るチャヌク監督。ミア・ワシコウスカが、インディアの苛立ち、心情を体現する。監督は「無表情の演技が、観客に色々なことを想像させるということを知っている」とミアを絶賛。「『このシーンは相手の俳優が目立たなければいけないから、私はじっとしていた方が良い』という場合でも、俳優というのは、たいてい動きたがるものなんですよ(笑)。だから、監督の方から、『ここでは動かないで』と言うんですが、それでも何かしてしまう。ところが、良い俳優というのは、『じっとしていて』と言えば、必ずじっとしている。それは自信があるからだと思うんです」。

さらに「ミアは、さらにその上を行っていた」と話す。「こちらから言わなくても、じっとしている必要があると思えば、彼女は動かない。だからこそ、観客の関心を惹けるんだと思います。見ている方は、『あれ、この子は何を考えているんだろう』『彼女の頭のなかには何が入っているんだろう』と、興味を持つことになると思います」。

カメラは、じっくりとなめるようにインディアの横顔をとらえている。「インディアを執拗に追いかけるように撮った」と明かし、様々なこだわりを教えてくれた。「インディアは、いつも何かを覗き込んだり、盗み見たりしている人物。そのために、できるだけ横顔を多用したいと思っていました。ミアに会ったら、正面もさることながら、横顔がことさらに美しくて(笑)。これは良かったなと思いましたね。そして、インディアの服装にもこだわりました。服のボタンはきっちりと上までしめるなど、とても端正な着方をしていますよね。それは、感情表現があまりないということを表したかったから。でも、彼女には思春期なりの不安や内面の混乱がありますから、そういったものをスカートの揺らぎで表現しています」。

チャヌク監督の映画は、五感を刺激するものだ。本作でも、卵をすりつぶす音やメトロノームの音、花に飛び散る鮮血など、耳や目からも、不穏な空気が伝わってくる。「どんなに哲学的なテーマを持って作られたとしても、結局のところ、映画というのは感覚を通して伝えられるものだと思うんです。主人公が『人間とはこのような存在だ!』と声高に叫んだとしても、それだけでは絶対に良い映画にはならない。聴覚や視覚を通して、しっかりと伝えるべき」と思いを明かす。

「私が良い映画だと思うのは、そこからさらに一歩進んだもの」と力強く語る。「においや触感まで拡大して、映画を伝えたい。映画を見ているのに、舌でワインの味を感じられるようにね。たとえば映画のなかで、何かの音が聞こえた時、『この音は何を表しているんだろう?』と観客は自らに問いかけますよね。五感に訴えることによって、色々な問いかけが観客のなかに生まれるはずです。観念的なテーマであっても、体の感覚器官を通して刺激を与える。そしてその刺激から、理性的な思考が生まれる。それこそが、良い映画だと思います」。

「インディアはもともと純粋さを持っていた。でも、悪の種も持っていたんです。チャーリーの出現により、その種に水や日差しを与えてしまうんです」とチャヌク監督。これまでも、因果とも思える家族の血を描いてきたが、本作では、いったいどのような結末を見せるのか。是非とも、監督が描き出した官能に酔いしれ、大いなる刺激を受け取ってもらいたい。【取材・文/成田おり枝】