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日本の現代美術シーンはいまどうなっているの? アートライター宮村周子さんが分かりやすくナビゲート。日本の現代美術家のさらなる進化をお見逃しなく。



ほんの十数年前までは、コンテンポラリ・アートというと少々敷居が高く、どこか難解そうなイメージがつきまとっていたものだが、ここ最近、そんなマイナーなアートもぐっと身近な存在に変わってきた。音楽やファッションと肩を並べるポップ・カルチャー! とまではいかないものの、見る人に未知の刺激を注入するアートの面白さは格別なもの。この秋は「横浜トリエンナーレ2008」のような大型展なども多いので、普段とは違うアート探索を楽しむ絶好のチャンスだ。

さて、一概に現代アートと言っても、そのシーンは多様そのもの。たとえば絵画やドローイングといった平面が目立ったり、映像に力を入れるアーティストが増えたりと流行りの傾向は見られるものの、かつてのように大きなムーブメントで特定のスタイル一色になることはまずない。むしろ、先達の編み出した表現方法を器用にサンプリングし、作品のコンセプトやその時その場によって自在に使い分けるのは、自然なこと。観客の好みが多様であるのと同様に、アーティストの表現もじつにバラエティに富んでいるのだ。

1.秋の大型展のひとつ、「横浜トリエンナーレ2008」(開催中〜11月30日まで)にも十数組の日本発アーティストが参加している
2.「横浜トリエンナーレ2008」より、ガラスの破片の中に舞う、舞踊家・勅使川原三郎『時間の破片―Fragments of Time』2008 photo/Mineo Sakata
3.「横浜トリエンナーレ2008」より、庭園に霧を発生させた中谷芙二子『雨月物語—懸崖の滝  Fogfalls #47670』2008 photo/Nacasa & Partners Inc




ところで、明治以降、西洋から強い影響を受けた日本のアートに、現在のような日本の伝統や日常性と自然にリンクする気運が生まれたのは、奈良美智や村上隆といった大立役者の偉業によるところが大きい。ちょっとひねた子供の絵で知られる奈良美智は、近代西洋の絶対的価値観でなく、人が本来もつ感情や感覚の力がリアルだと気づかせてくれたし、村上隆は、アニメやマンガ、伝統美術といった日本の大衆文化を、誇りをもってアートの主題にした功労者だ。

そんな二人を筆頭に、注目すべきアーティストは枚挙に暇がない。社会のタブーを露わにする確信犯・会田誠をはじめ、古今の時空を自在に操る超絶細密画の山口晃、壮大な童話世界を描く鴻池朋子らの人気は鰻登りだ。女の子のSF的空想世界を展開するタカノ綾、妖精のような少女を描く村瀬恭子、プリミティヴな人の姿を描く加藤泉の絵はどれも力強い。そして、フェティッシュで官能的な小谷元彦の彫刻、刺繍を使った伊藤存の幻想的な絵、日本画の手法で不可思議なキャラクターを表す町田久美の絵等々、表現はじつに多様だ。風刺のきいた手描きアニメが人気の束芋、日常に重なる幻想風景を描くさわひらき、コミカルなビデオ・アートをつくる泉太郎、現代的発想でインパクトの強いヴィジュアルを提示する宇川直宏、と、映像表現の幅もどんどん広がっている。そして、近藤恵介、岩永忠すけといった若手もめきめき頭角を表している。なかでもChim↑Pom(チンポム)は、前衛でポップな、何をしでかすかわからない新型アートユニットだ。

1.奈良美智 + graf 『Moonlight Serenade -月夜曲』2006 展示風景  金沢21世紀美術館 photo/Masako Nagano
2.奈良美智 photo/Mie Morimoto
3.(左上)Flower Ball (Kindergarten Days), 2002 (左下)Kaikai Kiki News, 2002 (中央前)Flower Matango (b), 2001-2006 (中央後)Kawaii - vacances, 2002 c2001-2006 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
4.村上隆 photo/GION




美術館に展覧会を見に行くのもいいけれど、同時代のアートに接するには、ギャラリー巡りがおすすめだ。入り慣れない人も多いかもしれないが、ウィンドウ・ショッピングの気分で展示だけを見るのもOKだし、なによりギャラリーは、アートの耳より話が聞ける絶好の情報拠点。もちろん気に入った作品を自分で購入するのは、至極の楽しみだ。若手の作品ならば、洋服や家具と大差ない手頃な価格のものがあり、生活空間を彩れるばかりか、未来の巨匠を支えるアート・パトロンの醍醐味を味わうことができる。

東京だけでも見るべきギャラリーは多い。清澄白河にある大きな倉庫ビル内には、小山登美夫ギャラリーやタカ・イシイギャラリーなど有力画廊が並ぶし、新宿や麻布十番、白金、馬喰町界隈など、東京各所に活気あるギャラリー街が形成され始めている。若手のギャラリスト達も元気だし、Webサイトやペーパーをチェックし、今や世界に名だたる日本のアートのフロンティアを目撃してもらいたい。

1.小山登美夫ギャラリー 桑久保徹展 展示風景 2008年
2.2008年1月にアグネスホテルで開催されたアートフェア「ART@AGNES」より、小西紀行(アラタニウラノ)の展示。2009年も1月10日・11日に開催予定


また、作品を買うには、セカンダリー・マーケットといわれる市場も忘れてはならない。シンワアートオークションなどオークションハウスはいくつかある。売るもよし、買うもよし、審美眼を試す機会は揃っている。ほかにも、Web上で作品の売買ができる「@GALLERY TAGBOAT」のようなサイトも有効だろうし、若手の発掘なら、村上隆が主宰するアートの祭典「GEISAI」に足を運ぶのも最適だ。「Art@Agnes」や「アートフェア東京」など、一度に複数の画廊を見られるアートフェアも花盛り。アンテナを働かせて、価値観をゆさぶられるほどのアートとの運命の出会いを、たくさん引き寄せてほしい。