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現在、世界9カ国で20軒以上のレストランと4軒のホテルを経営するアラン・デュカス氏は、クリエイター・シェフとして異例な存在である。料理監修はもとより、チームを編成する指揮者は、レシピ、レストラン空間デザイン、テーブルアートの細部にまで及び、采配を振っている。「日常を快適にしていくことこそ、シェフの教訓でもある」と語るデュカス氏は、フランスのみならず、世界の料理業界を代表するシェフとして評されている。



「FOOD FRANCE(フランスの食)」、この名は、フランス語の FOU DE FRANCE(フランスに夢中)をもじった言葉遊び。2003年に、フランス各地方の若手シェフに世界が注目することを目的にデュカス氏が創設したイベントである。パリのレストラン、「プラザ・アテネ」で開催された初回から大盛況に終了したことを機に、「料理に国境はない」と確信したデュカス氏は、高レベルの料理文化がある日本に注目し、2006年より開催地を東京に置くこととなった。

2007年から2008年にかけて、6名のシェフが青山のレストラン「ブノワ」へ2ヶ月おきに来日する。

デュカス氏は、優秀な料理人としてのみの仕事に飽き足らず、若手シェフを輩出するための指導にも多大な力を注いでいる。そして、企業家としての手腕も発揮。フランスの魅力あるオーベルジュ500軒を総括するグループ「シャトー&ホテル・ド・フランス」の代表者に就任して7年が経過する。3年ほど前より、日本にも事務所を設け、「シャトー&ホテル・ド・フランス」に加盟するホテルの予約を受ける他、公式サイトや1年に2冊刊行されるガイドブックを通じて、フランスの魅力を伝えている。

 グループ アラン・デュアスのレストラン。モナコにあるミシュラン三ツ星レストラン「ル・ルイ・キャーンズ」



企業家は勘が鋭い。常に、時代を塗り替えていくことを恐れない。睡眠している以外、きっと仕事や新規プロジェクトのことばかりを考えては、そのために人一倍の努力を惜しまないのであろう。

2003年に出版された著作「Dictionnaire amoureux de la cuisine(料理を愛するものの辞書)」では、アルファベット順にデュカス語録がつづられている。そこで、料理哲学について触れている箇所があるので、ご紹介したい。

シェフの料理は、伝統を重んじることと並行に進化していく過程から、シンプルで、真髄を表現しており、感覚的で誰からも理解されるものである。伝統とは、代々継承される食材やレシピのレパートリーであり、進化は、新しいアイディアの模索、異国文化の交じり合いによる改革である。そこには、現代性も登場する。「単に“若々しく”とか“モダン”にしようという画一化した考えではなく、人々の需要と供給の本心を掴むことである」と述べている。「料理は進化するものである」とは、正にそのとおり。

「真のモダンな考えは、現代がクラッシックになりうるから受け止めることができるのであろう」とは、フランス流儀の保守的な思想を積んできて、そこを土台に次世代についても考える余裕ができたデュカス氏ならではの名言だ。しかし、料理は味わうもので、頭脳だけで創造されるものではない。

フランス国土の豊かさを堪能し、吟味しつづけるデュカス氏は、土地の延長上には、地形、人間、風土、季節や歴史が築いた文化があることを強調する。ブレスの地鶏、キャヴァイヨンのメロン、システロンのラム肉……列挙しきれない数々の産地特有の名産物をどのように料理して、オリジナルでユニークな味覚を創出するか。それは、食文化としてのコミュニティーが存在するからこそ、継承されていく行為なのだろう。

フランスのように、数世紀に渡る料理の歴史がある国では、時代の流れに応じて、幾度一つのレシピが解体され、新しいコンポジションが成されたか、その数は計り知れない。デュカス氏は、「このような作業が繰り返されても、レシピを抽象的にすることは不可能だ」と言う。さらに、「シェフという職業に殉ずることは、プロとしてのキャリア以上に情熱や生き方、自分自身を表現することが求められる。それは、時代に感性を揺るがせながら、過去の価値観を確認することでもある」と付け加える。



さらに、“才能”について触れているパートに興味が注がれる。そこには、「持って生まれた能力とも言われるが、労を惜しまず働き、学ぶ意欲を高めていかなければ才能は開花しない。Haute Gastronomie(最高級料理)のレベルでは、毎日が戦場である。毎日更新される味覚を批判され、プレッシャーに立たされるわけだ。評論を受ける立場の職業、生産者やクリエイターたちにも通じることだが、商品、結果、創造の中に一貫した要素として表現されるのが才能であろう」と述べる。

「自らの才能に陶酔するのではなく、他者に目を向けよ。星の数を集めるだけに留まらず、更なる向上が可能であることを証明していかなくてはならない」「成功は、アイディアを研ぎ澄まし、環境に応じた方程式の中に存在させ、全てのディテールに気を配ること。つまりは、存続させることも才能である」と料理業界のみならず、あらゆるプロフェッショナルを励ましてくれる言葉がつまっている。

2007年11月には、ロンドン市内のホテル、ドーチェスターに「Alain Ducasse at the Dorchester(アラン・デュカス アット・ザ・ドーチェスター)」をオープンさせたばかり。エッフェル塔のレストラン「Jules Verne(ジュール・ヴェルヌ)」より9年間の委託を受けたことで、11月現在はリニューアル工事中であるが、年末までにオープンの予定である。

また、500の写真入りレシピを紹介する、「Grand Livre de Cuisine d’Alain Ducasse –Tour du Monde(グラン・リーヴル・ド・キュイジーヌ・アラン・デュカスートゥール・デュ・モンド)」が11月中旬に刊行された。
このような壮大なコンセプトを有するシェフは、まさに時代を設計する“先駆者”である。

report by Kaoru URATA


【日本での販売についての問い合わせ】
グループ・アラン・デュカス
Tel:03-3515-7033


【参考サイト】
グループ・アラン・デュカス(フランス語・英語)
FOOD FRANCE オフィシャルサイト(日本語)