日本テレビ系で放送中のドラマ「雲の階段」は、医療不足に悩む過疎の離島で、診療所の事務員として働く相川三郎の物語だ。三郎は医師免許をもっていないのにもかかわらず、所長にすすめられ、その助手として医療行為を行っていた。

ある日、所長が不在のとき、三郎は、急患で運び込まれてきた女子大生・亜希子の手術を行う。放っておけば死に至るという状況で、強風のために救援のドクターヘリも島に近づけないという緊急事態だった。手術は無事成功したが、もし三郎が執刀しなければ、亜希子の命は助からなかったといえる。

これはドラマの中の話だが、もし現実に起きたら、どうなるのだろう。このような緊急の状況で、医師免許をもたない者が手術を行った場合も、犯罪になってしまうのだろうか。手術が成功した場合と失敗した場合で、結論は異なるのだろうか。鈴木謙吾弁護士に聞いた。

 

●刑法37条の「緊急避難」にあたるかどうかが問題

「法的な観点から言えば、そもそも正当な免許を持った医師であっても、刑法35条の『正当行為』として、例外的な要件を満たした場合に限って医療行為が許されているにすぎません。したがって、無免許で医療行為を行うとなると、さらに厳しい条件をクリアする必要があると考えるべきでしょう」

つまり、無免許で手術を行えば、ほとんどの場合、犯罪になってしまう。少なくとも、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定める医師法17条に違反することになる。だが、その行為によって人の命が救われたという極限的な場合でも、罪に問われてしまうのだろうか。

鈴木弁護士は「刑法37条の『緊急避難』に該当する可能性が、考えられないわけではありません」と話す。この規定は、自分や他人の生命・身体などに差し迫った危険が及んだときに、それを避けるためにやむを得ず暴力をふるったり、物を壊したりした場合は、罰せられないことがある、ということを定めている。

「刑法37条では、正当な医療行為の場合と同じく、行為の必要性や相当性等を極めて厳格に判断して、要件に該当する場合のみ、例外的に犯罪にはならないとしています。したがって、無免許医による医療行為という抽象的な事実のみから判断すれば、非常に極限的な特殊事情がない限り、緊急避難に該当して犯罪にならないというケースは、極めてまれと言わざるを得ないでしょう」

すなわち、「雲の階段」の三郎のように、無免許医が手術を執刀したときは、極めて例外的な場合を除き、犯罪になってしまうというわけだ。だが、鈴木弁護士は「ただし」といって、次のように述べている。

「弁護士としての意見はともかく、一定の困難な極限状況において、他人のために自らリスクを取って行動している人を、安易に犯罪に該当すると指摘する気にはとてもなれません・・・。特に、手術が成功した場合においても法的責任を問われてしまうとすると、そのような社会で本当に良いのだろうかという疑問すら感じてしまいます」

ドラマ「雲の階段」が提起する究極の問題は、法律の専門家をも悩ませる難しさだといえそうだが、はたして三郎の運命はどのように展開していくのだろうか。

(弁護士ドットコム トピックス編集部)

【取材協力弁護士】
鈴木 謙吾(すずき・けんご)弁護士
鈴木謙吾法律事務所 代表弁護士。慶應義塾大学法科大学院・非常勤教員。東京弁護士会所属
事務所名:鈴木謙吾法律事務所
事務所URL:http://www.kengosuzuki.com