サイゼリヤ/10〜13元程度で提供されるパスタ。ここまで安くしなければ価格で勝負はできない。

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今や日本の輸出相手国シェアの約2割を占める中国。政治的には緊張関係が続くが、この国での成功が利益に直結するのも事実だ。

■中国でバカ売れ製品の共通点とは

かつて「世界の工場」と呼ばれた中国は、いまや「世界のマーケット」へと華麗な変身を遂げた。そして、これは日本人の多くが正確に認識していないことだと思うが、日本は中国の旺盛なバイイングパワーの恩恵を、世界で最も多く享受している国のひとつである。

JETRO(ジェトロ)が発表している「日本の貿易相手国TOP50」(2011年)を見ると、輸出相手国のベスト5は以下の通り。

1位 中国
2位 アメリカ
3位 韓国
4位 台湾
5位 香港

日本の輸出総額に占める中国のシェアは19.7%であり(2位のアメリカは15.3%)、いまや日本にとって中国は最大の「お客様」なのだ。

しかし、このお客様に商品を買っていただくのはなかなか難しいことである。なぜなら、中国は安くモノを作ることにかけては世界一の国だからだ。値段で勝負しようとしても勝ち目は薄い。

その一方で、中国人が「日本製」に対する強い憧れを持っているのも事実だ。日本人を嫌う中国人も多いが、同時に日本製の品質と安全性の高さに絶大な信頼を寄せる中国人もまた多いのである。

品質、安全性の高さを強くアピールしつつ、どのような価格設定をしていくのが有効なのだろうか。中国でバカ売れしている日本製には、このふたつのポイントをうまく押さえたものが多い。以下、中国における売れ筋日本製品をご紹介しながら、その秘密を探っていこう。

■中国人も驚く安さ:半値以下にしなければ値段で勝負できない

「値段で勝負しても勝ち目はない」と言った先から矛盾する例を出してしまって恐縮だが、イタリアンレストランチェーンのサイゼリヤ(薩莉亜)は、中国人も驚く安さで成功を収めている会社だ。

サイゼリヤは現在、上海に40店舗以上を展開する人気店(北京、広州にも進出)だが、中国進出当初は値段の高さが祟ってほとんど客が入らなかった。そこでサイゼリヤは値段を下げる作戦に出るわけだが、その下げ方が半端ではなかった。一気に半値以下にしてしまったのである。

筆者が3年前に上海のサイゼリヤで食べたパスタは、たしか9元であった。中国の庶民が昼に食べる弁当が10〜12元ぐらいだから、それなりに綺麗なお店でパスタを食べて9元は、中国庶民の感覚から見てもかなり安いと言っていい。

1元は、使い勝手から感覚的に言うなら50円ぐらいの価値があるから(上海のタクシーの初乗りが12元)、9元は日本ならば450円ぐらいの感覚。日本国内のサイゼリヤのパスタは400円前後だから、要するに中国のサイゼリヤは、中国人にとっても日本国内のサイゼリヤと同じ程度に安いということも言えるのだ。

中国に進出してくる日本の外食産業の多くは、「日本の値段の3割安ぐらいなら中国でも通用するのではないか」と考えて出店してくるが、その程度の安さではよほど特色がない限り生き残れないだろう。

サイゼリヤの勝因は、中国の庶民に安いと感じてもらえるレベルまでドラスティックに値段を下げたことにある。大胆な値下げ以降、サイゼリヤの店頭から行列が消えたことはない。

■味にこだわらない:多店舗展開と多様なメニュー

中国人にとって、熊本発の味千ラーメン(味千拉面)はきわめてポピュラーな存在である。ポピュラーとは、どこにでもあるという意味。実際、味千ラーメンは主要な空港や駅ビルなど、人が集まる場所に必ずと言っていいほど入店しており、11年の店舗数は、実に662店舗。中国本土の29省118都市に展開する、一大外食産業である。

では、味千ラーメンがうまいかと問われると、さすがの中国人も、

「うーん、味はどうかな」

と首を傾げるのが普通。豊富な資金力と政治力(創業者の重光孝治氏は台湾出身の客家(ハッカ))によって好立地を獲得しているからこそ、味にこだわらない、そこそこの味でも成功を収めているというのが実態であろう。

裏返して言えば、味千ラーメンの成功の秘訣は味へのこだわりを捨てたことにある。多店舗展開を目指すとき、最大の障害となるのが味へのこだわりだ。どの店でも同じ味を出そうと思ったら、広大な中国に600以上もの店舗を出すなぞ不可能な話。多少味が崩れても仕方ないと割り切ったからこそ、味千ラーメンは多店舗展開に成功したとも言えるのだ。

さらに、中国の味千ラーメンには日本のラーメン店と決定的に違う点がある。メニューがむちゃくちゃに豊富なのである。カツ丼、うな重、カツカレーから焼き鳥、コロッケ、果てはチョコレートシェイクといったデザート類まで揃えている。中国のレストランは、日本のファミレス並みにメニューが豊富でないと流行らないのが常識。味千ラーメンは味どころか、ラーメン店であることにすらこだわらないと言ったら言い過ぎだろうか。

「こだわりの味」をひっ下げて中国進出を果たした一風堂と、味千ラーメンは好対照をなす。一風堂が今後どんな展開を見せるか、興味深いところだ。

■カメレオン商法:飲食店のメニューに「出前一丁」

香港・華南地域において「出前一丁」は有名ブランドである。

香港には茶餐庁(朝食専門のファストフード店)という業態があり、軽い麺類やお粥を提供してくれるが、こうした店では当然のごとく出前一丁がメニュー名の一部になっている。茶餐庁には即席麺にハムエッグを載せたメニューがあり、普通の即席麺を使っている場合は「ハムエッグインスタントラーメン」と表示される。一方、出前一丁を使っている場合は、「ハムエッグ出前一丁」と固有名詞入りで表示され、価格も通常のものより高い。つまり、中国における出前一丁は「高級ブランド即席麺」なのである。

なぜ、出前一丁がブランド化に成功したかといえば、まず進出の時期が早かったことがあげられる。日清食品は1980年代の初めに香港向けの輸出を開始し、85年に香港に生産拠点をつくっている。また、中国ではものすごい数の味のバリエーションがあることも、ブランド化に大きく貢献している。

現在、日本国内で販売されている出前一丁は、最もポピュラーなしょうゆ味とごまとんこつ、とんこつ醤油、それに担々麺ごまラー油の4種類だけ。ところが中国には、カレー味、海鮮味、牛肉味の出前一丁があり、スーパーマーケットに行けば常時10種類程度の出前一丁が並んでいるのが普通なのである。

つまり、日本国内で流通しているものをそのまま売るのではなく、日本製という高級イメージを維持しつつ、形を変えて完全に現地の嗜好とニーズに染まっていくカメレオン商法だ。味千ラーメンと同様、出前一丁かくあるべしというこだわりを捨て去ったことが、最大の勝因であろう。

香港では、即席麺のシェアの50%を出前一丁が占めるが、中国本土への浸透率はまだまだ低い。中国は世界最大のインスタントラーメン消費国であり、1年間の消費量は425億食。全世界の消費量の半分を占める。出前一丁が華南に続いて華北地域も席巻することになるか、今後の展開に要注目である。

■中国製への不信感:爆発するから触らないほうがいい!

中国人の中国製への不信感には、すさまじいものがある。その一例が「山賽機」。山賽機とは中国政府非公認の模造携帯電話のことを指し、値段が安いために一時期大流行した。筆者も知り合いの中国人から1台もらい受けたのだが、それを中国人の部下に見せると、

「爆発するから触らないほうがいい!」

という反応であった。

中国は模造品が横行する社会だが、その危うさを一番よく知っているのは当の中国人なのである。まして、赤ちゃんの口に入るものとなれば中国製に対する猜疑心はいやが上にも高まる。わが子に中国製の粉ミルクだけは与えたくないというお母さんが、中国には大勢存在するのである。

そこで俄然脚光を浴びるのが、日本製の粉ミルクだ。中でも明治ブランドに対する中国人の信頼には、揺るぎないものがあった。中国に駐在している日本人ビジネスマンが日本に一時帰国する際、中国人スタッフから頼まれるお土産の定番といえば「明治の粉ミルク」だったのである。

しかし、福島第一原発の事故がこの明治神話に水を差すことになってしまった。事故の影響で明治の粉ミルクから微量のセシウムが検出されたことは中国でも大きく報道され、さすがの中国人もこれにはたじろいだ。しかし、驚くなかれ筆者の周囲では、

「たとえ微量のセシウムが混入していても、中国製の粉ミルクを飲ませるよりはまだマシ」

という声が多かったのである。

明治が中国国内に粉ミルクの工場を建設し、日本の技術で品質管理をしてくれればベストだという意見は確かにあるが、一方では、いくら日本の技術でも、中国国内で生産されたものよりは、日本国内で作られたものが欲しい、という中国人も多い。

セシウムか中国製か。原発事故は、日本の粉ミルクに絶大な信頼を寄せてくれていた中国のお母さんたちに、究極の選択を迫ることになってしまったのである。

■値段の高さでアピール:中国製の2倍近い値段で飛ぶように売れる

粉ミルクと並んで日本製の安全性に対する信頼が高いのが、牛乳だ。

中国では08年に、乳業メーカーが牛乳や粉ミルクに有毒のメラミンを混入させていたことが発覚する事件があった。数十万人の乳幼児が被害に遭ったとされ、なんと、関係者のうち数名は処刑されてしまった。このメラミン事件以降、国産の牛乳に対するアレルギーが高まり、値段が高いにもかかわらず外国メーカーの牛乳に人気が集まっているのだ。

日本国内ではほとんど知られていないことだが、アサヒビールは中国では有名な「乳業会社」である。山東省に農場を所有して乳牛を飼育し、その糞を堆肥にして化学肥料に頼らない野菜を作るという循環農業を実践している。

メラミン事件は、このアサヒの農場で作られる「唯品」という牛乳に圧倒的な信頼感を持たせることになった。

「唯品」の小売価格は、1リットルパックが23〜25元(日本円で300円程度)。中国製の牛乳が11〜16元ぐらいだから、安い中国製と比べれば2倍近い値段である。それでも「唯品」が飛ぶように売れるのだから、中国人の「食の安全」への希求は日本人の想像をはるかに超えるものだと言っていいだろう。

アサヒの「唯品」の場合、安全性の高さが売りだけに、価格はむしろ高いほうがいいという見方も成り立つ。中国製並みに安ければ、同等の危険性を孕んでいると思われかねない。つまり値段の高さでアピールしているのだ。食の安全が担保されていない中国では、安ければ売れるとは限らないのである。

■デマで買い占め:健康のためのお金を惜しまない

以前、毛髪を用いた健康診断システムで中国に進出したいという企業から相談を受けたことがある。

本物の中国人の毛髪を使った診断結果を見せてもらったのだが、非常に興味深いものがあった。所得の低い層ほど毛髪の中に水銀などの有害物質が多く、所得が高くなるにつれて少なくなっていく。そして、いわゆる富裕層になると、平均的な日本人よりも有害物質の量は少なくなるのである。つまり、中国人はお金持ちになればなるほど安全な食事を心がけるようになるというわけだ。

医療体制が整備されておらず、「医者にかかると何をされるかわからない」という不安も手伝って(筆者の知り合いの日本人は、盲腸の切除手術を受けたのに傷口を縫合してもらえなかった)、中国人には、健康のためならお金を惜しまずに使う、という意識がとても強い。もちろん、使えるお金があればの話だが……。

中国でヤクルト(益力多)の人気が高いのも、中国人の健康志向の表れと言っていいだろう。ヤクルトは、すでに64年から台湾に進出しており、中国本土では02年から製造販売を開始している。スーパーやコンビニの店頭に並べるだけではなく、日本国内と同じように、ヤクルトレディーが1人ひとりに丁寧に効能を説明しながら地道な販売活動を展開したことが奏功し、ヤクルトはいまや、買い占め騒動が起こるほどの人気商品になっている。

12年の6月にもヤクルトを飲むとガンが治る、美白効果がある、豊胸効果があるといったデマで買い占めが起こった。こうしたことが起こるのも、ヤクルトが健康飲料として確乎としたプレステージを確立しているからであると言えるだろう。

裏返して言えば、信用ならない中国の病院が少なからずあるということである。

(Mizuno Consultancy Holdings社長 水野真澄 構成=山田清機 撮影=Cui Ming、坂本道浩)