好みや考え方が違う人と、うまくやっていくのって大変ですよね。意見が合わなくて、どこまでいっても平行線。職場や身内など、逃れられない人間関係なら、分かり合えない相手でも、どうにか折り合いをつけて、付き合っていかなければならない。でも、もしも、周囲の人々が自分と全く同じ好みや考え方だったら!?

 今回、紹介する映画は、同じ顔で同じ考えの“俺”がどんどん増殖する、あり得ない展開の、かなり変わったサスペンスフルなコメディーです。


「俺俺」
 家電量販店で働く28歳の永野均(亀梨和也)は、平凡な毎日をなんとなく過ごしています。職場の上司のタジマ(加瀬亮)からは嫌みばかり言われるし、実家に帰れば母親(キムラ緑子)から小言ばかり聞かされ、人と関わることを面倒に感じている均。



 ある日、均はハンバーガーショップで隣に座った男の携帯電話が自分のトレーに載っていることに気づきますが、そのまま持ち帰り、なりゆきからその電話でオレオレ詐欺を働いてしまいます。すると、それをきっかけに、奇妙な出来事が次々と起こり始めます。

 均と同じ顔をした“別の俺”が、均の前に現れたのです。冷静沈着なサラリーマン・大樹と、茶髪の大学生でお調子者のナオ。彼らは、好みや考え方が均と同じで、3人は何でも分かり合えることに心地よさを覚え、俺同士が集まる場所を“俺山”と名付けて、楽しく過ごします。

 その後、さらに“俺”は増え続けますが、ある日を境に俺同士の幸せな関係にひびが入ります。均の前で別の俺が殺され、俺同士の“削除”が始まったのです。やがて、均自身もターゲットとして追われるようになり……。

 本作は、第5回大江健三郎賞を受賞した星野智幸さんの同名小説が原作。映像化不可能と称された奇想天外で不条理な物語ですが、「時効警察」の三木聡監督と、33人の“俺”を見事なまでに演じ分けたKAT-TUNの亀梨和也さんとのコラボレーションによって、独創性豊かな映画が誕生しました。

 均が勤める家電量販店に来店し、彼に謎の仕事を依頼するミステリアスな女性・サヤカを演じた内田有紀さんと、三木監督に、映画「俺俺」について、いろいろ語っていただきました。




内田有紀
1975年11月16日、東京都生まれ。1992年にドラマ「その時、ハートは盗まれた」で女優デビュー。1994年に「TENCAを取ろう! 〜内田の野望〜」で歌手デビュー。2000年に北区つかこうへい劇団に入団し、「銀ちゃんが逝く〜蒲田行進曲完結編」などに出演。主な出演作に、映画「監督・ばんざい!」「クワイエットルームにようこそ」「禅 ZEN」「ばかもの」「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」、ドラマ「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」「最後から二番目の恋」「サキ」「火怨・北の英雄 アテルイ伝」「ダブルス 二人の刑事」などがある。


三木 聡
1961年8月9日、神奈川県生まれ。1980年代から「タモリ倶楽部」「ダウンタウンのごっつええ感じ」「トリビアの泉」などのTV番組に放送作家として関わり、2000年までシティボーイズのライブの作・演出を手掛ける。2000年に「シティボーイズライブ短編映画『まぬけの殻』」を発表。2005年に「イン・ザ・プール」で長編映画監督デビュー。主な監督作に、映画「亀は意外と速く泳ぐ」「ダメジン」「図鑑に載ってない虫」「転々」「インスタント沼」、ドラマ「時効警察」「帰ってきた時効警察」「週刊真木よう子『チー子とカモメ』」「熱海の捜査官」などがある。

——内田さんは三木監督の作品に出演されるのは初めてですが、一緒にお仕事をされていかがでしたか?

内田 「三木さんを前にして言いづらいんですけど(笑)、ビジュアルから抱くイメージとはかなり違っていたんですね。こんなに丁寧で、思いやりのある方だったなんて。まず人間性にびっくりしたんです。すごくちゃんとしてる方なんだなと(笑)」

三木 「見た目がね、ちゃんとしてないからね(笑)」

内田 「見た目がラフだから(笑)。『おまえ、ちょっとその辺で寝てろ』みたいな感じに言われるのかと思って」

三木 「そんなこと言う人、いないでしょ(笑)」


内田 「ちょっと怖い人かと思ってたんですよ。勝手なイメージを持っちゃったんですね(笑)。ところが、とても丁寧な方でした。その日、その現場で、役者が出している空気を見過ごさないと言うか、全て見透かされているようで、気が抜けないんです。常にアンテナが立っているので、こちらも全開でいかないと、何かを落としそうで。落としたくないって、役者は必死に頑張る。そうさせる術を何か持っているのかも」

三木 「余計に胡散臭い感じがしますね(笑)」

内田 「その術に乗っかって演じることが、すごく楽しかったですね」

——内田さんが演じた謎の女性サヤカという役は、原作には登場しないキャラクターですよね。監督はサヤカにどんな思い入れを持って、キャラクターを創造されたのですか?

三木 「1950年代くらいのフィルムノワールに出てくるような、ファム・ファタールをイメージしました。主人公を混沌とした世界に引きずり込む悪女。それの不条理版みたいなのがサヤカですね。『俺俺』はフィルムノワールではないですが、サスペンスの部分があるので、ファム・ファタールが必要だと思いました。美しい女性が主人公を惑わす。だけど、その惑わし方がヘンテコなことになってるんですが(笑)」

——内田さんは、サヤカをどのような人物ととらえて演じられましたか?

内田 「台本を読んだときは、あえて考えないようにしました。三木さんに会ってお話したら、何かヒントになる言葉があるのではないかと。でも、三木さんの最初の言葉は『謎の女性役です。すみません』で、謝られちゃった(笑)。それで、頭で考えたり、役を決めつけたりしない方がいいんだ、なるようになろうと思って、楽しんで演じることにしました」

三木 「主人公の均に対して、サヤカがどのような距離感を持っているのか、彼女の位置関係が非常に重要だったのですが、内田さんの距離の取り方がとても面白かったです。微妙な間合いというものは教えられることじゃないので、役者の根底にないと。内田さんには、それがあったんです」

——33役を演じた亀梨さんの印象は?


三木 「亀梨さんには、原作の不条理を表現するために、役を構築していく役者の演劇的な『演じ分け』という方法論を使わずにやってもらうことを期待しました。微妙にズレた感じで分身を作ってもらいたくて。彼は見事にやってくれましたよ。新しいリアリティーを一緒に作り上げることができたと思います」

内田 「私は以前、ドラマ『神の雫』で亀梨さんと共演したことがあって、今回、再共演になったのですが、この役は亀梨さんじゃなければ、できなかったんじゃないかと思いました。監督が彼を信頼して、任せたことが伝わってきましたね」

——亀梨さん以外の共演者の印象は?

内田 「私は、ふせえりさん(均の同僚の南役)と以前から共演したかったので、今回ご一緒できて、すごくうれしかったです。とてもかわいらしい方なのに、ものすごくパワフルな演技をされるので、共演して楽しかったですね。加瀬さんも面白かった! 三木さんの『インスタント沼』にも出演されていますが、三木さんをはじめ、いろいろな監督に好かれる俳優さんだと思いました。加瀬さんは、監督の方々がいじりたくなる何かを持ってる方ですよね(笑)」

三木 「なるほど、そうかもね(笑)」

——では最後に、映画「俺俺」の見どころや魅力を教えてください。

三木 「基本的にビルドゥングスロマン、成長譚ですが、小説にはすでに着地点が完成しているけれど、映画化する上で、別の着地点を探さなければならなかった。Aという人物が他者のところに行って、戻ってきたときに何らかの成長を遂げている。本作では、この他者が他人ではなく自分なんですね。その場合の着地点を描くにあたって、同じ風景が違って見えるということを意識しました。映画の冒頭に出てきた風景が、ラストにも出てきます。見る人にも、そこを意識してもらえたらと思います」

内田 「これまでの三木さんの作品とは違って、最後に答えを少し与えてくれる映画になっていると思います。答えが分からない作品も大好きなんですが、『俺俺』には『今回は少しあげるよ』みたいなチラ見せがあります(笑)。スーッと解けて、なるほどなと思える。そこが、この映画の魅力ですね」


「『俺俺』記者会見&公開直前イベントレポート」

 インタビューの後に、記者会見と公開直前イベントが開催され、内田有紀さん、三木聡監督と一緒に、主演の亀梨和也さんや加瀬亮さんが登壇しました。



 記者会見では、「俺俺」のPRのために亀梨さんが公開日まで挑戦中の“33のミッション”(公式サイトをご覧ください)について、亀梨さんが経過や苦労話を語りました。「『33尾の金魚をすくう』ミッションでは、1つのポイが破けるまでに66尾もすくえたんですよ! これから祭りで主役になれそう(笑)」と笑顔でコメントしたり、「『33分で33貫のお寿司を食べる』のはきついと思う」と眉をひそめたり。

 また、イタリアで開催されたウディネ・ファーイースト映画祭で、「俺俺」が観客賞(MY MOVIES AWARD)を受賞したことについて、三木監督と共に映画祭に出席した亀梨さんは「『俺俺』を見ているとき、観客の反応がとても良くて、その場に一緒にいられたことは、すごく貴重な経験になりました。会場に入る前は、お客さんが入っているのか気になって、かなりビビッてましたけど(笑)」と、お話していました。


 イベントではサプライズゲストとしてKAT-TUNが登場し、「俺俺」の主題歌「FACE to Face」を初披露。その際、亀梨さんが一旦退場しようとすると、加瀬さんがタジマ風の少し強めの口調で「すぐに戻って来いよ!」と声を掛けましたが、亀梨さんは「加瀬さんは、そんなキャラじゃないじゃないですか(笑)」と答えて、観客を沸かせました。さらに、“アイドル”KAT-TUNの亀梨さんの姿を見た加瀬さんは「俺が知ってる亀梨君じゃない。近づきにくい……」と、ちょっとむくれた表情をして、会場中が笑いに包まれ、とても盛り上がったイベントとなりました!