モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社

写真拡大

ビジネスパーソン研究FILE

モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社

とおやま・のりこ●情報技術部。慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修了。2007年4月入社。修士1年の秋から就職活動を開始し、業種・職種を問わず説明会に足を運んだ。10社にエントリーし、情報工学の分野であれば自分の言葉で何がしたいかを語れることに気づき、システム系企業と金融でシステムを扱う職種に絞った。現社への入社の決め手となったのは、最先端技術をフルに活用している点と、世界中の同僚と働くなど広く活躍できそうだったこと。

■ 株式取引の流れをOJTで学び、初仕事で実質的なプロジェクトリーダーを務める

ビジネス・エリア別採用のため、テクノロジーでシステムを担当することは入社時から決まっていた遠山さん。配属先である株式電子取引システムチームでの最初の3カ月間は、OJTで主に株式取引の流れについて学んだ。システムを見れば流れがつかめる部分もあったので、遠山さんは、本を読んで知識を養いつつ、システムを見て理解していくという双方向でビジネスの仕組みを習得した。

「株式取引は、マイクロ秒(100万分の1秒)単位の遅延でも多大な損害が生じてしまうシビアな世界。世界各地のオフィスでそれぞれが正確に作業を行うことによって、システムがきちんと動くということ。私たちが正確に仕事をすることで、ビジネスが成り立っているのだということを実感しました」

 

その後は、ニューヨークでのテクノロジー研修に参加。東京、香港、ニューヨーク、ロンドン、ブダペストから集まった約140名の同期とともに、約2カ月半にわたりシステムに関することを学んだ。その後は3、4人のチームに分かれて実際の案件に取り組みながら、要件定義(※1)からシステムデザイン、実装、プレゼンテーションまで一連の業務を経験した。

(※1)システムやソフトウェアの開発において、実装すべき機能や満たすべき性能などを明確にしていく作業。

「この研修を通して、社内のシステム環境やチームで行う開発作業に慣れることができました。でも、一番の収穫はたくさんの同期と出会えたこと。わからないことがあると他国にいる同期に聞けますし、出張の際には一緒に食事をしています。離れていても、システムを通じてつながっていますから」

 

帰国後、株式電子取引チームに戻った遠山さんは、オン・ボーディングとインテグレーションを担当することになった。オン・ボーディングとは、投資信託会社やアセットマネジメント(資産管理)会社など、外部顧客のシステム設定を行う業務。顧客が利用している外部のシステムと自社のシステムを接続するため、その違いをすり合わせ、慎重にテストを行い稼働させるのだ。

「インテグレーションとは既存のシステムに新たな機能を組み込むことです。印象に強く残るのは、2008年10月、当時の麻生太郎首相が株式の空売り(※2)規制強化を指示したときのこと。空売りする場合は、株式の手当てがあることを明示しなければならず、既存の電子取引システムに急きょそのチェック機能を組み込みました。これがインテグレーションの一例です」

(※2)証券会社等から株式を借りて売却し、その株価が値下がりした時点で買い戻す事で利益を得る投資方法。

 

遠山さんが最初に手がけたプロジェクトは、ダークプールのインテグレーション。ダークプールとは、東京証券取引所などを介さずに、証券会社内で投資家の注文を照合して取引を成立させるシステムのこと。インテグレーション・チームからは、プロジェクトリーダーを務める先輩と遠山さんの2人が参加した。

「アジアでは初めての導入となる注目のシステムでしたし、私自身も実際に社内システムを変更するのは初めてなので、暗中模索の日々でした」

 

当初は補佐の役割だった遠山さんだが、先輩があまりにも多忙だったため、プロジェクトが進むにつれ徐々に自分に情報が集中するように。気づくと、いつの間にか自分がプロジェクトリーダーの役割を担っていた。最初は営業部門からの「いつ始められるの?」という問い合わせの返答に窮していたが、情報を集めてきちんと対応できるようになり、次第に能動的に情報を発信するようになった。こうしてスタートから約半年後、ダークプールのインテグレーションは無事公開となった。

「最初のお客さまが本番のシステムで株式を売買し、証券管理のチームにその情報が流れて取引の一連のフローが完了したのを見たときは、感激しました。オフィスが離れている香港や上海のメンバーとも、社内チャットで『やったね!』と喜びを分かち合いました」

 

このプロジェクトを通じて、「ダークプールでわからないことは遠山に聞け」と言われる存在に成長した。

 

システム用とメール用に2つのモニターを使用。パソコンを操作しながら顧客からの電話に答えるので、仕事中はインカムが手放せない。

FX電子取引システムのアジアチームのヘッドを兼任。産休・育休を経てフルタイムで復職

ダークプールが一段落した08年12月、FX電子取引システムのアジアチームのヘッドを兼務する話が舞い込んだ。アジアでFXのシステムを取り纏めていた担当者が退職し、後任として遠山さんに白羽の矢が立ったのだ。

「『来週からロンドンに行って1週間でシステムを学んで来い』と上司から言われた時には驚きました。FX電子取引システムを担当するチームはロンドンとニューヨークにもありますが、アジアを率いる重要な役割を任せてもらえたことは、やりがいがありワクワクしました」

 

現在、遠山さんは株式とFXの電子取引のシステム担当として、主に要件定義や日程調整を行うプロジェクトマネジメント、外部顧客システムのテスト・設定を行っている。現在は20社以上を担当し、1日で完了するものから長いと1年近くかかるものまで、さまざまな案件を同時進行で動かしている。

 

そんな多忙な日々を送る遠山さんは、11年4月から1年間の産休・育休を終えて職場復帰したワーキングマザーでもある。

「産休前は『情報から取り残されるのでは』、『戻ったとき、自分はどのように貢献できるのだろう』と不安に駆られましたが、実際に戻ってみると以前と変わらない職場の雰囲気の中で、仕事のペースも2週間ぐらいで取り戻すことができました」

 

時短勤務制度もあるが、遠山さんはフルタイムでの勤務を選択し、17時30分には退社して保育園に子どもを迎えに行く。自宅でも職場と同じ環境で仕事ができるITインフラが整っているので、ときには子どもの就寝後に自宅で仕事をすることもある。時差のあるロンドン、ニューヨーク、アジアを結ぶグローバル・ミーティングが週に数回あるので、その電話会議には自宅から参加している。

「周囲にも、仕事と子育てを両立している女性社員はたくさんいます。幸い、私の業務は自宅でもフレキシブルに対応できますし、周囲の理解もあり、子育てとの両立が特に大変だと思ったことはありません」

 

遠山さんが考えるこの仕事の醍醐味は、自分が手がけたシステムでリアルに株式やFXが取引されていること。そして、新しい顧客がこのシステムにつながることで、新たな手数料収入が入ってくるというように、自分の仕事が自社の利益とダイレクトにつながっていることだ。

「安倍政権になってからは株価や為替相場の動きが激しいので、『今日は取引が増えてシステムに負担がかかりそう』など、社会情勢と直結している点にも刺激を受けますね。システム担当に求められるのは、正確さはもちろんですが、迅速に効率良く仕事をすること。私は人とかかわることが好きなので、早くマネジメントレベルに昇格して、会社を動かしていける存在になりたいと思っています」

 

現在のチームは、韓国人1名、日本人3名、インド人2名の6名。デスクを並べているインド人の同僚と画面を見ながらシステムについて英語で意見を交わす。

■ 遠山さんのキャリアステップ

STEP1 2007年 OJTで電子取引システムを学びながら、英語力を強化(入社1年目)

入社前の9月に1カ月間インターンシップに参加し、株式売買状況を確認できるツールをより見やすく作りかえる作業を経験。1カ月間の新入社員研修では、同期50名とビジネスマナーや金融の基礎を学ぶ。5月、配属先の株式電子取引システムチームでは、OJTで各顧客が世界のどの株式市場で取引可能な設定になっているかを調べられるツールをつくりながら、株式取引の流れを習得。メールなどの日常業務はすべて英語で行うため、会社で3カ月間にわたる英語のレッスンを受講した。
STEP2 2007年 ニューヨークに5カ月間滞在。テクノロジー研修とOJTを経験(入社1年目)

8月、ニューヨークでの4カ月間のテクノロジー研修に参加。2カ月半かけて、JavaやC言語などのプログラミング言語、データベースとはどのようなものかといったテクノロジーの基礎に始まり、業務レベルの内容に至るまで、さまざまな技術を学んだ。その後は、1カ月かけて3、4人のチームで実際の案件に取り組み、社内のシステムに慣れるとともに、チームで行う開発作業の要領を学んだ。研修後の1カ月は、ニューヨークの株式電子取引システムチームで実務研修を経験。自身と同じ業務を担当しているニューヨークのスタッフと知り合えたことで、その後のコミュニケーションがより円滑になった。
STEP3 2008年 株式・F Xの電子取引のシステム担当となる(入社2年目)

1月にニューヨークより帰国。株式電子取引システムチームに戻って、オン・ボーディングとインテグレーションを担当する。帰国後すぐに担当したのは、アジアでは初めてのダークプール・インテグレーションのプロジェクト。当初は補佐の役割で参加したはずが、プロジェクトリーダーの先輩が多忙だったため、いつの間にかリーダー役を担うことに。予定通り約半年でシステムを公開し、大きな達成感を味わう。以降は、「ダークプールでわからないことは、遠山に聞け」と言われるまでに。そのプロジェクトが一段落した08年12月、FX電子取引システムのアジアチームのヘッドを兼任。
STEP4 2012年 産休・育休をとった後、同じ業務に復帰(入社6年目)

10年に結婚し、11年に女児を出産。11年4月より1年間の産休・育休をとって復職。現在は、以前と同じ株式・FXの電子取引のシステム担当として、プロジェクトマネジメント、外部顧客システムのテスト・設定を行うほか、打ち合わせのための顧客訪問やネットワークの発注を行う。また、顧客から入るシステム不具合などの問い合わせに対し、担当窓口で処理できない内容についてのサポート業務も行っている。7年目を迎えた現在は、シニアを見習ってマネジメントの視点でチーム全体を見るよう心がけている。

■ ある日のスケジュール

9:00 保育園へ子どもを預けて、出社。その日の業務内容を確認し、外部顧客や営業部門と連絡をとる。
11:00 営業部門とプロジェクトの進捗会議。その後、システムの開発担当者と進捗会議。
12:30 気分転換のため、オフィスを出て恵比寿でランチをとる。
13:30 アカウントを設定し、顧客システムのテストを行う前に社内テストを行う。
16:00 外部顧客と社内システムとの接続テストを行った後、本番環境でテストを行い、問題なく作動することを確認。
17:00 ロンドンと電話会議を行い、顧客の設定がどの程度進んでいるかを報告し、業務を引き継ぐ。
17:30 退社し、子どもを保育園に迎えに行って帰宅。夕食、入浴、寝かしつけを済ませて、21時から約30分間、電話でグローバル・チームミーティングを行う。

■ プライベート

保育園に通っている2歳の娘さんと一緒に。「娘は保育園で同年代の友達と楽しく遊んでいるようですし、私も日中は娘と離れている分、一緒に過ごせる時間をたっぷり楽しんでいます!」。

高校と大学ではオーケストラ部に所属。ファゴットというオーボエの仲間の楽器を演奏している。土・日はオーケストラの練習に参加し、年に2回はアマチュア・オーケストラで演奏している。

長期休暇は海外旅行に行く。写真はシドニーにて。「夫がシドニーで育ったので、里帰りを兼ねて友人たちに結婚の報告に行きました」。

 

取材・文/笠井貞子 撮影/刑部友康