「心」という小説を書くことで、 亡くなった息子に近づきたかった 【姜尚中×佐々木圭一】(後編)

写真拡大

前作『母 −オモニ−』から3年ぶりの長編小説『心』を上梓したばかりの姜尚中氏と、『伝え方が9割』が2ヵ月で25万部を突破するベストセラーとなっている佐々木圭一氏。今話題の2人が、「伝えるための言葉や仕掛け」『心』執筆の動機などについて、語りました。(構成・井上健太郎 写真・小原孝博)

想像ができれば、相手も自分もハッピーになれる

姜 『伝え方が9割』を読んで、もうひとつ感じたことがあるんです。これは佐々木さんの人柄なのかもしれませんが、やっぱり人を見る目がやさしい。中には、伝わりさえすればいいから、相手を篭絡(ろうらく)してもいいと考える人もいるでしょう。一言でいうと、だましのテクニック。この本には、そういう露悪的なところがない。もしかしたら、佐々木さんも、けっこう失敗多き青春を送ってきたんじゃないですか?

佐々木 さすがですね、そのとおりです。20歳までの僕の人生は、もう本当に暗黒というか……。

姜 僕も一時期、引っ込み思案になってしまったことがあるから、なんとなくそうじゃないかと思ったんです。我が同輩、という感じで(笑)。僕は、高校時代は野球ばっかりやっていて、甲子園にも出場しました。でも野球ができなくなると、人生が終わったと感じて、急に何もする気が起きなくなってしまった。

 人とコミュニケーションもとれないし、今からすると信じられないですけど、やや吃音にもなって、すごく悩みました。仕方がなく大学に入ったものの、卒業間際までは本当に暗かった。その頃から、ちょっと局面が変わっていきましたけれど。

佐々木 どんなきっかけで変わられたんですか?

姜 ひとつは友人を得たこと、これは大きかったですね。僕の一番親しい友人は、東京生まれの東京育ち。漱石がどこかで、「田舎の人がみんな善良だというのは嘘だ」と言っているんですが、僕も彼と接してみて、東京生まれでノマド的な人間のほうが正直で信頼できる面もあると感じました。

 たしかに、ひとところでやってきた人のほうが、アンビシャス(野心家)であることが多いですよね。もちろん、アンビションがあるのはいいことです。でもそれが、コミュニケーションなんかたんなるツールじゃないかとか、相手を篭絡したりだましてもいい、というように悪い方向に出てしまうこともあると思うんです。

 もちろんこれは全員に言えることではないし、僕の偏見かもしれないけれど、そういう人も意外と多いんじゃないかな、と。(前編の)最初に、佐々木さんのことをノマド的な人なんじゃないかと言ったのには、こんな理由もあったんですよ。

佐々木 『伝え方が9割』も、タイトルだけを見ると「口先だけでうまく人生をやっていける本」みたいに見えてしまうところがあると思います。でも、本の前書きにも書いたとおり、全然そうではないんです。

 僕が言いたかったのは、相手の立場を想像して伝え方を変えることができれば、相手も自分もハッピーになれるということ。もし、この本のタイトルを変えるとしたら、『相手のことを想像する技術』ですね。

続きはこちら(ダイヤモンド・オンラインへの会員登録が必要な場合があります)