奇しくも日経平均株価が前日比1143円安の1万4483円となった大暴落となった5月23日、全日本トラック協会と都道府県トラック協会が出したこんな意見広告が新聞紙上に踊った。「もう運べません 燃料高騰でトラックが止まる!」。

 両協会によれば、トラックの燃料に使われる軽油価格がリーマンショク後の2009年3月と比べて約40円上昇し、運送業界全体で年間約6800億円ものコスト増になっていると悲鳴を上げる。

 円相場は1ドル100円を突破し、およそ4年ぶりの円安水準で推移している。自動車業界をはじめ、多くの輸出企業は利益増に沸いているが、その一方で原材料の多くを輸入に頼る企業にとっては喜んでばかりもいられない。

 円安が1円進むと年間30億円の営業利益が増えるという輸出企業の東芝ですら、1ドル=90円を超える円安になると、輸入部品の調達コストがかさみ、利益は半減してしまうとのこと。

 まだ東芝ぐらいの企業規模があれば、急激な為替変動も乗り越えられよう。それよりも深刻なのは、全企業数の99%以上を占める中小企業だ。折しも5月23日に帝国データバンクが発表した「輸入企業の実態調査」によると、零細企業の4割が赤字に喘いでいるとの衝撃的な結果が出た。

 同調査を担当した帝国データバンク東京支社情報部の内藤修氏が解説する。

「調査した4月時点はまだ円安の影響をもろに受ける前だったのに、年商1億円未満の赤字比率が高まっています。このまま急速な円安が進めば、体力のない中小の輸入企業は原燃料価格の高騰を製品価格にも転嫁できず、より一層の収益悪化が懸念されます」

 すでに輸入企業を取り巻く不安材料は表面化している。内藤氏が続ける。

「岡山県にある老舗板紙メーカーの山陽板紙工業が、5月15日に負債50億7500万円を抱えて民事再生法の適用を申請しました。従来から燃料費の高騰などで採算は悪化していたのですが、ここ最近の円安が追い打ちをかけました。こうした“円安倒産”は今後も相次ぐ可能性があります」

 では、どんな業種に輸入取り引きが多く、円安デメリットをもたらしてしまうのか。同調査では電気機械、アパレル、食品関連の卸売業が目立ち、中でも「婦人・子供服卸、小売り」や「生鮮魚介類」などの赤字比率が高かったという。

 いまのところ円安を追い風に業績回復を遂げている自動車メーカーも、いつまでも安穏とはしていられないはず。経済ジャーナリストの永井隆氏が話す。

「自動車は2〜3万点にも及ぶ部品から成っており、それらは日本のみならず世界各国から調達して組み立てるルートがすでに出来上がっています。また、鉄鉱石価格や工場を動かすための燃料価格などが上昇すれば業績に響くでしょう。何よりもガソリン価格が上がると、われわれユーザーの家計を直撃します」

 国民生活への影響は、食品の相次ぐ値上げ発表でじわじわと消費者を苦しめている。食用油、マヨネーズ、小麦粉、食パン、シーチキン、マーガリン、ソーセージ……。このままでは消費者の購買意欲も削がれてしまいかねない。

「そのうちトイレットペーパーやおむつなど国民の生活必需品を扱っているようなメーカーも痛手を被って値上げに踏み切るかもしれませんし、原材料のほぼすべてを輸入に頼って国内生産しているビールメーカーなども価格を維持するのが難しくなってくるかもしれません」(前出・永井氏)

 円安による企業の好業績が働く人の給料に還元されないうちに、原材料高が物価高を招いて庶民を苦しめる。こんな悪循環で誰もが実感する景気回復が本当に果たせるのだろうか。