ピアス株式会社

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WOMAN'S CAREER

ピアス株式会社

にしやま・ひろの●マーケティング部 部長。東京都出身。40歳。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。文系出身でもモノづくりをけん引できる仕事を志望し、化粧品メーカーや出版社、食品メーカーなどに応募。情報収集した化粧品メーカーの中で唯一、入社後マーケティング業務に携わる機会が保証されていたピアスにひかれ、1995年に入社。ケサランパサラン事業部での営業、マーケティングを経て、イミュ事業部へ。マーケティング部にて主査、副部長を歴任し、現職。家族は夫と長男(1歳)。

■ 製品担当と管理職、それぞれに異なる面白さがある

“塗るつけまつげ”のキャッチコピーで知られる「デジャヴュ ファイバーウィッグ」。2001年の発売当時、マスカラの課題とされていた「まつげが長く伸びる」、「パンダ目にならない」、「お湯で簡単に落とせる」という機能を実現し、5年間で1500万本を、10年間で3500万本を超える数を販売した。現在も売り上げを伸ばし、2013年2月には累計販売数が4000万本を突破。クチコミサイトなどでも高評価を得ている。この製品を発案し、マーケティング担当として開発から販売促進までをけん引したのが西山さんだ。

 

「イミュ」、「カバーマーク」、「ケサランパサラン」などの化粧品ブランドを国内外に展開するピアスグループに入社した西山さんが、マーケティング担当となったのは入社2年目から。以来、先輩に教わりながら口紅やフェイスパウダーなどの開発や新ブランドの企画、セルフ化粧品(※)ブランド「デジャヴュ」のブランドリニューアルなどを手がけ、成功も失敗も経験した。中でも、6年目に取り組んだ「デジャヴュ」のリニューアルの失敗は、西山さんのキャリアの大きな転機となった。

「パッケージデザインを当時の流行に合わせて透明で軽やかなものに変えたのですが、肝心の製品の中身は従来品を焼き直したものが多く、売り上げを大幅に改善するには至らなかったのです。当時の『デジャヴュ』は口紅やアイシャドウなどのメイクアップ製品を取りそろえ、アイテム数も豊富。それらすべてを短期間で改善し、十分な結果を出すには経験も知識も不足していました」
※カウンセリングを行わずに販売される化粧品

 

リニューアルの失敗により、「デジャヴュ」を抱えるイミュ事業部全体が苦しい状況に陥ったという。そこで事業部長から出されたのが、「1つでいいから強い製品を作る。それまでは新製品を出さない」という方針。入社7年目を迎え、マーケティングを体系的に学びたいという思いが生まれていた西山さんは、事業部長の紹介で出会ったマーケティングコンサルタントに師事しながら「強い製品」の開発に着手。考え方や手法を学び、実践して生まれたのが「ファイバーウィッグ」だった。

「“売れている製品をまねするのではなく、独自性があって、かつお客さまが望んでいるのにまだ存在していない製品を作る”“製品説明に期待して買ってくださったお客さまを裏切ってはいけない”。この2点は絶対に実行するんだ!と腹をくくりました。今思うと当たり前のことですが、それまでの自分は納期に追われてお客さまのニーズを根本的に見直すようなことはできていませんでしたし、化粧品だから多少誇張したキャッチコピーでもいいだろうという気持ちがあったように思います」

 

西山さんが目をつけたのは、当時、流行の兆しが見えていたマスカラ。消費者へのインタビューを重ねて既存品に対する不満や理想のまつげについて探った結果、「長さを出し、つけまつげのように1本1本を際立たせたい」が消費者の真のニーズだという結論に行き着いた。そこで、つけまつげのような仕上がりを目指し、生まれたのが、液がフィルム状に変化して繊維を包み込むという従来品とはまったく異なる処方や、「マスカラじゃない。これは塗るつけまつげ」というキャッチコピー。自身のこだわりと、各分野の担当者との良い化学反応によって実現したと西山さんは振り返る。

「最初は処方開発も難航していましたが、『つけまつげが樹脂でできているように、樹脂のようなつるっとしたものでまつげをくるんだらどうだろう』という議論をきっかけに、処方開発の担当者がひらめきを得て、自信を持って製品化できる処方を作ってくれました。キャッチコピーも、特長をそのまま伝えてもコピーと製品のギャップに不満を抱え続けてきたお客さまには信じてもらえない、“塗るつけまつげ”という言葉を前面に出したいと主張する私に、“マスカラじゃない”という言葉を加えることをコピーライターが提案してくれて。“塗るつけまつげ”だけだとどんな製品かピンときませんが、“マスカラじゃない”と書かれていれば、マスカラのような製品だと伝わる。プロの力ってありがたいなと思いました」

 

そしてもう1つ、西山さんがこだわったのが製品パッケージだ。従来の箱型のパッケージではなく、ブリスターパックと呼ばれる、台紙に製品を置いて透明なプラスチックで包装する方法を取り入れた。イメージしたのは、海外のホームセンターなどでフックにかけて陳列してある道具や雑貨だ。

「リアルに効果が表れる製品なのだから、もはや化粧品ではなく“化粧道具”だと考えたんです。それに、弱小企業だった当社が店頭でもらえるスペースはせいぜい1列。小さい箱型パッケージだと目に留めてもらえないと常々思っていたので、製品にPOPの機能を持たせて目につかせる意図もありました」

 

陳列スペースに制限があるにもかかわらず幅をとるパッケージを作ったため、当時の営業部長にさんざんに怒られたが、最初に提案に訪れた有名バラエティストアに気に入られて店舗の中央に専用の什器(じゅうき)を置いてもらえることに。発売前のモニターテストや街頭で試してもらって得た高評価にも手応えを感じた。そして、発売初日から好調な売れ行きを見せ、ヒット商品に。

 

とはいえ、1つの製品だけに頼るビジネスはもろいもの。西山さんは「ファイバーウィッグ」の販促に取り組みながら次の新製品の開発に着手。部内の一グループをまとめる主査として部下の育成にも注力した。そして、13年目にはマーケティング部の副部長に、19年目の2013年春には部長に昇進。マーケティング責任者として「イミュ」傘下のすべてのブランドのマーケティングを指揮している。責任の重さを感じながらも、製品担当とは異なるやりがいを感じる日々だ。

「無から有を生み出す新製品企画とは異なり、人材育成は素材ありき。すでにスタッフ一人ひとりが持っている良さをどう引き出すのかを考えて適材適所に役割を振り分けたり、仕事の任せ方を考えたりすることは面白くもあり難しくもあります。また、マーケティングに感じる面白さの種類も年々増えてきました。製品担当時代はミクロな視点でお客さまの心の中を探っていくことが一番の面白さだと思っていましたが、見えるものが広がり、自分で決められることが増えたことで、今は、マクロな視点でブランドを動かせることにも面白さを感じています」

 

プライベートでは1児の母。短時間勤務をしながら管理職の仕事に取り組んでいる。
「勤務時間が限られている分、集中してやろうという意識が高まり、仕事のやりくりがうまくなった気がします。しかも、スタッフや上司がすごく助けてくれるので、今あるのは感謝の気持ちばかり。スタッフが子どもを持ったときには、私が助けたいと思っています。働くことで息子と過ごす時間は限られますが、息子に悪いと思うのではなく、家族に誇れる仕事をしてイキイキとした顔で家に帰りたい。そして、家族とゆったりと過ごすオフの時間を活力にまた仕事を頑張る。そんな生活をこれからもしていきたいですね」

 

店頭に置く什器を作る際は、キャッチコピーがしっかりと目に入ることや、テスターが手に取りやすいことなどを重視。近づいたり離れたりして見え方をチェックする。

 

部下と打ち合わせ。マーケティング担当は1製品ないし1ブランドを1人で担当し、製品の企画から処方、パッケージデザインなどの担当と連携しての開発、販売促進まで責任を持って取り組む。西山さんは一人ひとりの長所や特徴を見て仕事を任せることを心がけている。

 

■ 西山さんのキャリアステップ

STEP1  入社1年目  ケサランパサラン事業部営業部に配属。バラエティストアへの営業を担当

首都圏の約30店舗を担当し、新製品やプロモーションの提案などを行った。営業を通して学んだのは、消費者だけでなく店舗のニーズにも応えられなければ製品は店舗に並ばず、消費者の手にも届かないことや、隣に並ぶ製品次第で製品の見え方が変わることなど。その一方で、マーケティング部の仕事を目にするにつれ、早くマーケティングに携わりたいとの思いが募るように。そこで、1年目の終わりにマーケティング部の部長に直訴したところ、異動が実現した。

STEP2  入社2年目  マーケティング部に異動。「ケサランパサラン」のメイクアップ製品を担当 

口紅やネイルカラーの新色の開発から始め、その後、フェイスパウダーの新製品などを開発。4年目に新ブランド開発プロジェクトのメンバーとなり、企画したブランドを「イミュ」から発売するべくイミュ事業部に異動したが、事情により企画そのものがお蔵入りに。そのままイミュ事業部で「デジャヴュ」のマーケティングを担当することとなった。6年目にはブランドリニューアルを手がけたが、成功には至らなかった。

STEP3  入社7年目  イミュ事業部マーケティング部第一グループ主査に着任 

着任と同時に“塗るつけまつげ”の開発に着手するとともに、3人(のちに6人に)のスタッフの育成に尽力した。「ファイバーウィッグ」発売後は、同製品の 販促を企画・推進するとともに「ファイバーウィッグ」の人気のもとになっている「パンダにならずお湯でオフ」の機能をそのままに、今度は長さではなくボ リュームを出せる新製品の開発に着手。しかし、試作品に手応えを感じてモニターテストをしても良い結果が出ないことが続いた。一方、西山さんの育成・サ ポートのもと、スタッフがアイライナー「ラスティンファイン」を開発。2007年に発売した。

STEP4 入社13年目  マーケティング部副部長に着任。「イミュ」全体のマーケティングを指揮

製品担当を離れ、「イミュ」全体のマーケティングを指揮する立場に。苦戦していたボリュームフィルムマスカラ「ラッシュノックアウト」のパフォーマンス開発(商品の機能や品質に関する開発)にようやく成功したところで、パッケージ開発や販促企画はスタッフに引き継いだ。そして、着手から7年を経た14年目の2008年、“迫力ボリューム パンダ知らず お湯でオフ”をキャッチコピーに発売。その後、15年目に結婚し、17年目の秋に長男を出産。産休・育休を約8カ月間取得した。18年目の4月に復帰し、短時間勤務をしながら副部長を務めた。

STEP5 入社19年目  マーケティング部部長に着任 

19年目を迎えた2013年4月に部長に。短時間勤務を続けながら部下20人をまとめ、「イミュ」の各ブランドおよび全体の成長を目指している。「『ファイバーウィッグ』の成功を元に、“こんなのなかった、ほしかった”“買って良かった、期待どおり”の2点をクリアしない製品は発売しない方針で開発に取り組んでいます。その分なかなか新製品が出せませんが、出すときは自信を持って出しています」。

 


■ ある一日のスケジュール

 6:00 起床。長男が眠っている間に自分の身支度を整える。7時ごろに長男を起こし、身支度をさせた後朝食を作って、2人で食べる(夫はすでに出勤済み)。食後は長男の歯磨きに奮闘。
 8:15 自宅を出発。自宅近くの保育園に長男を預けて電車で通勤。
 10:00 出社。企画書や稟議書(りんぎしょ。担当者が上司など関係者の決裁や承認を得るために提出する文書)、申請書類などをチェック。午前中は書類を確認する時間に充てている。
 12:00 オフィスの近隣の店でランチ。スタッフと行く日もあれば、一人で素早く済ませたり、ランチミーティングをしたりすることも。
 13:00 「デジャヴュ」の担当者と来期のプロモーション戦略について打ち合わせ。
 15:00 化粧水ブランド「ナチュリエ」の担当者から新製品の企画についてプレゼンを受ける。
 16:00 ふたえメイクブランド「アイプチ」の担当者と新製品の企画について打ち合わせ。
 18:00 退社。保育園に長男を迎えに行く。
 19:30 帰宅後、夫が作ってくれた夕食を家族全員で食べる。育児は主に西山さん、家事は主に夫、と分担している。
 20:30 長男と入浴しながら、その間に洗濯。
 21:00 長男の寝かしつけ。一緒に眠ってしまうことが多いが、目覚められれば、小説や映画のDVD、夫とのおしゃべりなどを楽しむ。

 


■ 西山さんのプライベート

週末はもっぱら長男と過ごす。「今は息子と過ごすのが一番の娯楽。公園に出かけたり、自宅で一緒に絵本を読んだりします。一緒にいる時間が限られている分、濃密に過ごしたいですね」。

 

長男を出産するまでは年1回、1週間ほど旅行に行っていた。「ぶらぶら散歩をして街並みを楽しむのが好き。仕事を忘れてリフレッシュできる時間です」。写真は2010年に新婚旅行で訪れたバリ島にて。

 

家庭菜園が夫婦共通の趣味。長男を妊娠していたころに住んでいた家の庭ではゴーヤやミョウガ、トマトなどを育てていた(写真)。「引っ越してスペースが小さくなりましたが、2013年はゴーヤとミニトマトを育てます!」。

 

 

取材・文/浅田夕香 撮影/刑部友康