図8:ヒットの「話題共鳴分析」で見えない本音が見えてくる

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ブログの書き込みを定量分析することで、大局的なクチコミの動向や商品の売れ行きを推測できることはすでに説明しました。さらに踏み込んでブログの書き込みをヒットにつなげるには、書き込みの内容を読んで、消費者の動向や隠れた本音を知ることが必要です。つまり定量分析と定性分析を組み合わせることでクチコミの世界は可視化されます。

定性分析の基本はブログに書かれた内容を読み解くことですが、これが難しい。ある映画を観た感想として「ストーリーは感動的だったけど主演俳優の演技はいまひとつだった」とあったら、この映画の評価はブロガーにとってよかったのでしょうか、悪かったのでしょうか。また直接的な感想や意見が少ないのが日本人のブログの特徴で、「微妙」とか「まあまあ」といった曖昧な表現が多い。このようなモヤモヤした言葉から、評価のよし悪しを結論付けなくてはなりません。

そのための方法論の1つがPN(ポジティブ・ネガティブ)判定です。たとえば映画の評判と興行収入の関係が知りたければ、作品ごとにブログを集め、エントリー1つ1つについてP(肯定的感想)かN(否定的感想)かを読んで振り分けます。

商用のブログ分析サービスには機械的にPNを自動判別してくれるものもありますが、機械判別では読み取れないケースが少なくない。よって機械判別だけに頼らず人力での判定も試して両者を比較するのがベストです。私たちは独自の評価用システムを構築し、話題になった多くの映画作品についてPN判定を実施してきました。結果、全体の傾向としてはポジティブ評価の数値が高く、平均73%が好意的な書き込みとわかりました。

好意的な書き込みが多い作品は興行収入も高い傾向が見て取れましたが、興味深いのは爆発的なヒット作品では逆にポジティブの割合が減っていくことです。エンターテインメント業界には「賛否の分かれる作品はヒットする」という経験則がありますが、私たちのPN調査からはこの業界仮説を裏付ける結果が出たわけです。

類似性の高い作品のPN判定を比較して、「なぜこちらのほうが評判がよく、かつ興行収入も高いのか」という考察も重ねてきました。たとえば、それぞれの映画についてブロガーが何を話題にしているのかを探るために、ブログに出てくる名詞句を抽出して、頻度を比較する「頻出語分析」という手法も使っています。

類似作品の比較から、話題の伝播を左右する2つの大きな軸が見えてきました。1つはいかに同じことを語らせるかという「共鳴性」です。観た人が同じ感動や感情を共有できるような強いメッセージが込められた作品は話題が維持されやすいということです。もう1つの軸は「周辺話題性」。作品だけを語るのではなく、その周辺にある「語りたくなる要素」をいかに発生させるかです。

たとえばハウス食品は、忘年会シーズンにツイッターを使って「ウコンの力」のキャンペーンを行いました。「ウコンの力」を食前食後のどちらに飲んでいるか、それをツイッター上で回答してもらうというものです。「二日酔い防止」という1つのテーマについて語らせ、さらに忘年会に関する幅広い話が語られる仕かけをつくりました。噂を持続させた成功例といえます。

これらブログの内容を定性的に分析する手法を、私たちは総称して「話題共鳴分析」といっています。これは消費者の潜在ニーズや、書き込みからは直接見えてこないホンネにスポットを当てて浮かび上がらせるための方法論です。

ここで、この分析に最も適したツールである「キーグラフ」について紹介します。キーグラフとは東京大学の大澤幸生教授が開発したキーワードの自動抽出アルゴリズムのこと。キーグラフを用いると語句と語句のつながりを視覚化し、その全体的な構図から意見の概要や趣旨をあぶり出すことができます。図8は、09年に鳥取県で開催された世界砂像フェスティバルに関するブログのキーグラフです。イベントの盛り上がりについても、映画や商品のヒット現象と同じようにシミュレーションができるのです。

分析にあたっては、イベントに訪れた人のブログを抽出し、そのブログデータをキーグラフで可視化します。

右上に「すごい−感動−楽しい」という島が出現していることから、イベントそのものへの満足度が高いことがわかります。また「夜−ライトアップ−時間」といった昼間とは違った楽しみ方に関する話題もあります。

一方、「駐車−シャトルバス−会場−車」「渋滞−GW−多い」といったイベント会場へのアクセスに関する話題も多く、実際のブログの中では不満要素として書き込まれているものも少なくありません。きっと会場でイベントの改善点についてアンケート調査をすれば「会場まで遠いので近くに駐車場がほしい」という意見が多く出るでしょう。

これをどう読み取るかが問題です。本当に必要なのは駐車場なのでしょうか。このキーグラフから見えてくる最も重要なポイントは「移動経路を話題にしたくなる」というインサイトではないかと思います。たとえば「駐車」というキーワードに関連するブログを見てみると、「駐車場が満車でとても混雑していた」というネガティブな書き込みも確かにありますが、単に「駐車場からフェスティバル会場まで遠いので無料のシャトルバスが出ている」という情報がほとんどです。これは「私はこうやって会場に行った」というネタであり、周辺話題性の1つなのです。

もし次回のフェスティバルで改善するとすれば、それは会場までのアプローチで「さらに話題を喚起させる何か」を考えることのほうが大切だと思います。「無料のシャトルバスが出ているけど、実は日本に3台しかないエコバス」とか「会場までの道のりでこれは必見!」といった話題を生み出せれば、駐車場から会場までの遠さが逆にプラスに作用するはずです。

「話題共鳴分析」によって、個別のブログを眺めているだけでは気づかない共鳴ポイントや話題性を見つけることができます。ブログの中身の定性分析と、全体傾向を数的に把握する「ヒット現象の数理モデル」による定量分析の組み合わせこそが次なるヒットを生み出す原動力になる。それが「大ヒットの方程式」の意味です。

マーケティングには「モノ」ではなく「コト」が大事といわれています。モノさえつくっていれば売れる時代ではなく、モノを使ってどんなことができるのか、その商品やサービスの特徴をアピールする体験談、それを利用する意味や意義などを語る材料が必要です。

その潮流はさまざまな分野の商品、サービスに及びます。消費者の声をいかに吸い上げて施策に活かすか。また話題が広がるネタをいかに捉え、それをクチコミで伝えてくれる人に対してどう働きかけていくのかが、ヒットを生むか否かに関わってきます。だからこそ、今回紹介した「ヒット現象の数理モデル分析」「話題共鳴分析」といった手法が求められるのです。

主にブログのエントリー数をクチコミの代替指標として研究してきましたが、ツイッターなどほかのCGMメディアでも同じ手法で検証可能です。ツイッターやフェイスブックがブレークしたように、今後も新しいクチコミを発信するメディアは主役を交代させながら進化していくでしょう。しかし、「ヒット現象の数理モデル分析」や「話題共鳴分析」という手法自体が古びることはありません。

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ヒットコンテンツ研究所社長 吉田就彦(写真左)
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒。キャニオンレコード(現ポニーキャニオン)に入社し、「だんご3兄弟」等数々のヒットを手がける。デジタルガレージ副社長を経て現職。デジタルハリウッド大学院教授、コンテンツ学会理事等も兼務。

鳥取大学工学研究科 機械宇宙工学専攻 教授 石井 晃(写真右)
1957年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。理学博士。2008年より科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業研究員。デジタルハリウッド大学ヒットコンテンツ研究室客員研究員。専門は計算物理学手法を用いた表面科学。

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(吉田就彦、石井 晃 構成=小川 剛 撮影=市来朋久)