図7:数理モデルをマーケティングに活かすための「7つのポイント」

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前回、「ヒット現象の数理モデル」の肝といえる数式を紹介しました。私たちはこの数式に、ブログ書き込み件数のデータや映画の興行データ、宣伝費などのマーケティングデータを入力してシミュレーションを繰り返し、「ヒット現象の数理モデル」を使って映画の需要予測ができるという結論を導き出しました。

そして「ヒット現象の数理モデル」分析によって、どのくらい前からキャンペーンを張れば最も効果的か、あるいは映画なら公開後、商品なら発売後にどのくらい宣伝を続ければよいかも計算できるとわかってきました。数理モデルを使えば、発売直後のブログの反応からキャンペーンの内容を修正することも可能です。これらはすべてデータを使ってシミュレーションした結果であり、もとになるデータが入手できたからこそシミュレーションができたともいえます。

ブログを中心にした「ヒット現象の数理モデル」分析を行うときに必須なのは、日々の変化を表す日時ごとのデータです。

「ヒット現象の数理モデル」は時間依存の数理モデルで、1日ごとの変化の度合いでどんなマーケティング施策がどのような効果を生んだかがわかります。逆にいえば、関連の日次データなしに効果は測定できません。

もしあなたがある商品やサービス、イベントなどのマーケティングを担当していて、「ヒット現象の数理モデル」をマーケティングに活用したいと思うなら、関連の日次データの取得から始めなければなりません。手順としては、まず担当している商品やサービス、イベントに類似した成功例のデータを集めます。

(1)商品なら1日ごとの販売実績や売り上げ、イベントであれば1日ごとの参加人数、(2)日次のマーケティング施策、(3)ブログのエントリー数の日次推移。これら3つについてできるだけ詳細なデータを集めましょう。たとえば販売実績に関しても、男女比や年齢別などでデータを集めれば、より対象を絞った施策を検討できます。

商品やサービスの場合、類似の成功例を他社に求めても「ヒット現象の数理モデル」分析に使えるほど詳細なデータを取得するのは困難でしょう。類似の成功例は社内で探すのが適当です。とはいえ、たとえば公共のイベントなら必ず公の報告書から情報が集められるし、公共のイベントでなくても決算報告書などIR情報として公開された資料から、案外入手できるものです。

実施した施策の費用などに関して公開された情報は少ないでしょうから、データの取得には少し知恵が必要です。私たちが映画でシミュレーションをした際、広告については広告出稿費か、あるいはGRPのどちらかのデータを電通広告統計から取得して、数式に代入しています。

データを集めたら、それを数式に代入して「ヒット現象の数理モデル」を用いたシミュレーション計算ができるようになります。それを実際の販売数や参加者数の推移とフィットするように調整すれば、「宣伝・報道」「直接コミュニケーション」「間接コミュニケーション」などの各パラメータ(係数)を特定することができます。

方程式ではパラメータが決まらないと答えを出せません。私たちが「ヒット現象の数理モデル」でこれまでに多くの映画の分析を積み重ねてきたのは、映画のヒット現象に寄与するパラメータの値を特定するためです。映画にもさまざまなタイプの作品があり、作品によって適正なパラメータ値は変わってくる。1つの映画でパラメータを特定すれば、それを応用して同じようなタイプの映画に利用できます。

パラメータを特定して初めて方程式は使えるものになります。類似の成功例を分析するのは、そのパラメータを探り、暫定的に「ヒット現象の数理モデル」分析の方程式をつくるためです。自分が担当する商品やイベントと比較するための基準をつくるのです。

暫定的な「ヒット現象の数理モデル」分析方程式から、自分が成功させたい商品やイベントの成功イメージをシミュレーションします。目標販売数、目標動員数、目標売上金額といったゴールのイメージを数字で設定して、それとシミュレーションの結果がフィットするようにすべてのパラメータを設定します。

商品の販売が開始されたり、イベントが始まったりしたら、販売数や参加人数、売り上げなどの数値と、シミュレーションした数値を比較します。販売実数(参加人数、売り上げ等)の推移については、全体的には類似の成功例と同じ傾向になると予想されるので、最終的な結果も予測できるのです。シミュレーションどおりにいっていない場合は施策のてこ入れが必要ですから、そのためにも日々の実績は追っていきましょう。

日々の変化を追うことで、販売前のキャンペーンや販売後に打った施策が、販売数や参加人数にどれくらい影響を与えたかを見極めてください。特に何らかの施策を行った際に、ブログ等のソーシャルメディアにどのくらい書き込まれたかは、その後の施策を考えるにあたって最も注意して見ておかなくてはならないポイントです。

ブログの書き込み件数の変化を観測し、その施策が商品の販売数やイベントの参加者に与えた影響を把握して、その結果得られたデータからより有効なマーケティング施策を見極め、そこに絞り込んで実行していくのです。

以上が「ヒット現象の数理モデル」をビジネスに活用するときの大まかな流れです。「ヒット現象の数理モデル」によって得られたシミュレーションをもとに、常に最適な状況をつくり出して商品の販売促進を行ったり、イベントを成功に導く――。そのノウハウは、「ヒット現象の数理モデル」による一般化された数理モデルの係数=パラメータとして組織に残ります。

これはある商品やイベントを成功させるためのガイドラインですが、実は変化に応じて変えていくという施策の打ち方そのものがノウハウとして得られます。それを組織に蓄積することで、次回以降「ヒット現象の数理モデル」を使ってさらに成功の確率を高めることができるのです。

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鳥取大学工学研究科 機械宇宙工学専攻 教授 石井 晃(写真右)
1957年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。理学博士。2008年より科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業研究員。デジタルハリウッド大学ヒットコンテンツ研究室客員研究員。専門は計算物理学手法を用いた表面科学。

ヒットコンテンツ研究所社長 吉田就彦(写真左)
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒。キャニオンレコード(現ポニーキャニオン)に入社し、「だんご3兄弟」等数々のヒットを手がける。デジタルガレージ副社長を経て現職。デジタルハリウッド大学院教授、コンテンツ学会理事等も兼務。

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(石井 晃、吉田就彦 構成=小川 剛 撮影=市来朋久)