「想いよ、届いて……」(コスプレイヤー=E子 撮影=Lucas)

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■神田祭で発見したこと

今年の5月に、秋葉原の近くにある神田明神のお祭り、神田祭が4年ぶりに開催されました。本来は2年ごとに開催されるのですが、前回はちょうど震災直後で中止になったのです。今回、久しぶりの開催に、神田明神の氏子町会の皆さんの気合いは相当なものだったと思います。

江戸三大祭りに数えられる神田祭では、神田、日本橋などの地域に広がる神田明神の氏子町会が有する200基ほどの神輿が次々と神田明神に宮入(みやいり)し、大いに盛り上がります。私たちが秋葉原と呼んでいる外神田地区にも12の氏子町会があり、「十二睦(むつみ)」という連合体を結成しています。この団体が、秋葉原の中央通りを完全封鎖する手続きをして、いつもの歩行者天国ではなく「お祭り広場」として、盛大な神輿パレードを行っているのです。

私も今回初めて、秋葉原のある町会の神輿を担がせて戴きました。立派な神輿を40〜50人で担いだのですが、担ぎ方を知らなかった私の肩は真っ赤に腫れあがり、数日間苦しむことになりました。当日、100名近くの若者が町会の神輿を担ぎに集まりました。普段、秋葉原ではあまり見かけない、筋肉隆々の巨漢な若者も多くいます。実は、あちこちの祭りで神輿を担ぐボランティアをしている人たちだったのです。秋葉原でも神輿の担ぎ手が減り、氏子町会の人たちだけでは担げなくなってきています。秋葉原の住民が減少しているわけではありません。祭りとは縁遠い新たな住民が増えて、氏子としての地元住民はどんどん減少し高齢化しているのが実態です。

私を含め、担ぎ手たちに、町会の人たちは至れり尽くせりの世話をして下さいました。神輿の巡行中には飲み物やフルーツの差し入れがあり、昼食と夕食には豪華な弁当、終了直後には酒も振舞われました。これら目に見えるものだけでも、相当なお金が掛かっているはずです。それらは、氏子町会の地元住民を含む、町会地域にある会社や店舗からの寄付金で賄われています。

町会の神酒所(みきしょ。祭神に神酒などをお供えする場所)の横には、寄付金リストがありました。30万円を寄付した会社名もあれば1000円を寄付した個人名もリストにあります。ところが、そのリストを眺めていて、ある不思議なことに気付きました。

■「うちは祭りに関係ない」じゃもったいない

寄付金リストには、メイドカフェやコスプレ系飲食店の名がまったく見当たらなかったのです。寄付金集めの際に店舗を選んだのかと町会の人に尋ねてみると、町内すべての店舗に訪問し寄付をお願いしたそうです。ところが、メイドカフェやコスプレ系飲食店には「うちはお祭りには、関係ない」とすべて断られたというのです。その中には普段から秋葉原の活性化を謳って積極的に活動している店舗もあったので、意外でした。

秋葉原のように、店舗に訪れるほとんどの客が、地元住民ではなく外からの訪問者である場合、店舗と住民の利害にずれが生じます。たとえば、店舗側は夜遅くまで営業して大きな音も出したいが、住民からしてみれば迷惑に過ぎない。そこで対立も起こり得るのです。メイドカフェやコスプレ系飲食店が、風俗営業店舗のような派手な看板を出し、人目を引きやすい格好で若い女性が客寄せしているのを見ると、メイドカフェやコスプレ文化に馴染みがないぶん、嫌悪感だけを持つ地元のご婦人方が多いようです。そうすると、店舗側も普段から「白い目で見られている」という感情を抱くようになります。

町会の側が祭りの時にすべての店舗に頭を下げて協力を求めるのは、年々高齢化し人口が減り続ける氏子としての地元住民にとって、町内の神輿を守ることに危機感を持っているからです。その時に、店舗の側が「意趣返し」をするのは勝手でしょうが、相手が困っているとき、悩んでいるときに、ほんの少し手を差し伸べるだけで、関係を修復するきっかけとなり得るのです。

ある飲食店では、神輿を担ぐ人たちに振舞い酒を提供していました。すると神輿を先導していた町会の人が店名を連呼し「足を向けて寝るなよ!」と担ぎ手たちに叫んでいました。万が一、この店舗の今後の事業展開が地元住民の利害と相容れない場合でも、このような神田祭が生んだ縁さえあれば、解決に向けた話し合いの場が設けられるはずです。そうすることによって、地域の活性化につなげることができるのです。

今回の神田祭は、秋葉原でビジネスを行う店舗にとって、地元住民に手を差し伸べる4年振りに訪れたチャンスだったと私は感じています。寄付金や振舞い酒でなくてもよい。神輿が町内を回る際に、店前に出て拍手や声援を送ってくれるだけでも、どれだけ嬉しく思い、その店舗に好感を持ったか。神輿を担ぎながら、私は実感していました。次のチャンスは2年後です。自分のためでも相手のためでもなく、秋葉原のためと思って、普段から地元住民との間に確執がある店舗ほど、この機会を活かしてほしいと願っています。

(梅本 克=文(デジタルハリウッド大学客員准教授))