近年の国際政治では、日米同盟やNATOの根底に流れる「価値観や政治体制の共有」という前提を無視した、新たな共同体が生まれつつあります。

4月末、日本の安倍晋三首相がロシアを訪問し、首脳会談を行ないました。ロシア側が言及したとされる北方領土の「2等分方式」は、プーチン大統領らしいしたたかな一手。日本としても日ロ関係を前進させるための独立自主の戦略を描き、実行していくべきでしょう。

ロシアといえば、3月末には「BRICS銀行」の設立が発表されました。BRICSは経済発展の著しいブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカという新興5ヵ国の連合体ですが、彼らが途上国支援を目的とした開発銀行を設立するという動きは、先進国が主導する国際通貨基金(IMF)や世界銀行体制への「反発」とも見てとれます。

このニュースを読み解く上で大事なポイントは、「BRICSは“ひとつ”ではない」ということ。BRICS諸国はそもそも価値観や政治体制からしてバラバラですし、中国とインド、中国とロシアなど2ヵ国間の関係も決して良好とはいえない。日米同盟や冷戦時のNATOのように、価値観や国益をともにする国家が形成する共同体とは構造が異なる。人工的につくられた“実務的連合体”といえるでしょう。

BRICSは“ポスト・イズム”の時代を象徴する存在だとぼくは考えます。文化背景や政治体制が違う国家同士でも、実益に即して共同体を形成し、ともに行動する―イズム(主義・主張)を排した、新しい方法論。東西がイデオロギーで対立した冷戦時代には考えられなかったスタイルです。

そのBRICS内部で主導権をロシアと争っているのが中国。ぼくは約8ヵ月間アメリカから中国の台頭を俯瞰(ふかん)してきて、興味深いことに気がつきました。

日本では中国の台頭が叫ばれていますが、ぼくが最近実感しているのは、中国が勢力を広げつつあるのはアジアやアフリカの一部にすぎず、グローバルな影響力は限定的であるという現状。政治的にも経済的にも文化的にも、中国は“地域限定の開国”しかできていない。


考えてもみてください。政治、経済において、中国が主導して形になったグローバルな条約や組織がひとつでもあるでしょうか? 中国という国は第二次大戦後、欧米諸国が主導してつくり上げた既存の規範や秩序に「便乗」することでしか影響力を行使できないアクター。「中国が新しい世界をつくり出す」などという言説は、少なくとも現段階では幻想にすぎないのです。

こうした視点でBRICS銀行を見ると、中国は同じく既存の規範・秩序になんらかの不満を持つほかの新興国を引き連れ、利用することで初めて国際社会で頭角を現しつつある、という事実が浮き彫りになってきます。西側諸国の影響力が相対的に下がり、新興国のインパクトが全体的に伸びている時期に、中国は「アメリカさん、価値観や体制で国家の優劣を判断する時代は過ぎ去ったんだよ」と言い、自国の台頭を正当化しようとしている。

見方を変えれば、中国はひとりではケンカができない。タイマン勝負を得意とするアメリカのようなグローバルパワーは持ち合わせていないのです。

いずれにしても、これからの時代はBRICSのように、政治体制や価値観を超越した枠組みや秩序が重層的に存在していくことになるでしょう。「東西」などの単純な対立軸や表面的な事象だけを見ても、国際情勢の趨勢(すうせい)は判断できない。既存の秩序を死守する側も、それに便乗する側も、それに挑戦する側も、それらのパワーゲームを分析する側も、イマジネーションを働かせて、いま真に何が起きているのかを見極め、先を読む必要がある。

混沌とした時代に、「想像力」なくして最新潮流に乗り遅れない手段があるというなら逆に教えて!!

今週のひとこと


BRICS銀行の設立は、


“ポスト・イズム”の象徴です!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)


日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!