もし、着ぐるみを被って犬になりきった男が、毎日家の前に居たら。入院中の母親に心臓移植が必要になり、家族や恋人から"あなたの心臓"を提供するように言われたら。身体を触れば触るほどに皮膚がとれていき、最終的に塵となってしまうのならば。

 奇抜な発想とウィットに富んだ作風で知られるのが、「ショートショートの神様」ことSF作家の星新一さんの作品ですが、現代のアメリカにショートショートの新たな
担い手が登場していることをご存知でしょうか。短編集『空中スキップ』などの作品で知られるジュディ・バドニッツさんです。

 バドニッツさんは、名門ハーバード大学とニューヨーク大学を卒業した才媛。日本では、岸本佐知子さんの翻訳により『空中スキップ』『イースターエッグに降る雪』などの作品が発表されています。『21世紀の世界文学30冊を読む』(都甲幸治)でも取り上げられている知る人ぞ知る作家です。

 一見、荒唐無稽にも見える彼女の作品には、現代社会において無視できないテーマが織り込まれています。環境汚染からテロリズム、社会における弱者排除の構図、身近な出産・育児の問題。それらの問題を声高に叫び、価値観を厚かましく押し付けてくるのでなく、自らの尺度に落としこみ、考えるための"余韻"を与えてくれます。

 「現代のおとぎ話」と読んでも過言ではない不思議な魅力を持ったバドニッツ作品は、まさにアメリカ版の星新一「ショートショート」のよう。星新一ファンであればあるこそ、彼女のブラックな毒にくすりと笑ってしまうはずです。



『空中スキップ』
 著者:ジュディ・バドニッツ
 出版社:マガジンハウス
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