株式会社乗馬クラブクレイン

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株式会社乗馬クラブクレイン

よしかわ・ゆうき●三重事業所 営業部 チーフ。酪農学園大学酪農学部酪農学科卒業。2005年4月入社。ネクタイとスーツで働くスタイルは自分には合わないと感じたこと、大学で学んだ酪農に関連のある動物関係の仕事に就きたいと考え、JA全農(全国農業協同組合連合会)と2社に絞って就活。両社とも最終面接まで進んだが、現社の役員の接し方に親しみやすさを感じ、フラットな組織の方が働きやすいと考え、同社への入社を決意。

■ 既成概念にとらわれない新しい集客手法に次々とチャレンジし、会員獲得に貢献

2005年の入社以来、クレイン三重で営業を担当している吉川さん。動物園に勤務していた父親の影響で子どものころから動物に親しみ、将来は動物関係の仕事に就こうと決めていた。

「とはいっても、乗馬クラブは馬が優先の仕事ではありません。人と人とのかかわりの間に馬が存在しているのです。そこが、動物相手の牧場の仕事などとは違う点。この仕事は、接客業です。僕たち営業の仕事は、乗馬に対する敷居の高さを払拭し、一般の人たちにもっと気軽に乗馬を楽しんでいただくこと。乗馬の楽しさを広く伝えていくことです」

 

吉川さんの仕事は、さまざまな手法で乗馬への興味を喚起し、体験レッスンを通して会員を増やしていくこと。業務には、地元の新聞や会報誌への出稿やスーパーマーケットの店頭などでの集客活動から、体験レッスン者への乗馬指導や会員システムの案内まで多岐にわたる。体験レッスン用の馬の調教やコンディション管理も、営業の仕事だ。中でも重要なのは、乗馬に興味を持ってもらうきっかけづくり。そのために、次々と新しい手法を考えて集客していくことが求められる。入社して最初に吉川さんが経験したのは、スーパーマーケットでの集客活動だった。

「新聞広告や店頭チラシといった“待ちの広告”だけでは、大きな集客が見込めないため、ちょうど新たな集客活動を始めたところでした。それが、スーパーマーケットにポニーを連れて行って店頭でPRするというもの。ポイントは、直に生きた馬に触れていただき、その場で乗馬体験レッスンに申し込んでもらうこと。スーパーの顧客サービスの一貫として大変喜ばれました」

 

スーパーマーケットの担当者と企画を練り、当日はチラシを配って体験希望者を募集。そして、後日来場した体験希望者にレッスンをして乗馬の楽しさを味わってもらい、入会案内を行った。ポニーを連れているという注目度の高さ、津市など人口の多い近郊の街まで集客エリアを広げたこともあって、効果は大きかった。

 

2年目には、企業などの団体を通じてPRしたり、教育委員会を通じて学校が配布する資料に乗馬体験のパンフレットを入れてもらったり、ほかの事業所での成功事例を取り入れるなど、さまざまな集客活動を行った。

「中でも印象に残っているのが、3年目に発案したJAF(日本自動車連盟)の会員誌へのチラシ同封です。JAFは県ごとに支部があり、三重県だけで約22万人の会員に郵送しています。クレイン三重は車の方がアクセスがいいということもあり、この宣伝の反響はかなり良かったですね」

 

上司からは、常に“変えていくこと”を求められてきた。しかし、それなりに成果のあった既存の手法を変えることは、そう簡単ではない。ポニーを連れての集客活動に陰りが見え始めた4年目、吉川さんは馬のぬいぐるみを着てスーパーの店頭に立つという新しい手法を考えた。このアイデアがヒットしたことで、その後は“変えていくこと”が面白くなった。

「変えたことが、すべて吉と出るとは限りません。僕自身、新聞広告の原稿をガラリと変えて出稿したところ、まったく反響がなくてへこんだこともあります。でも、自分たちが『だめだろうな』と思っていては、うまくいくはずがない。当事者がまず変化を楽しみ、『これはいける!』と思うモチベーションが大切なんだとわかりました」

 

新聞広告やスーパーマーケットでの店頭などで集客した体験レッスン参加者を、実際に指導するのも営業の仕事だ。

■ お客さまの話に耳を傾け、ニーズに合わせた乗馬ライフを提案していく

接客の際、吉川さんが心がけているのは、お客さまの話をよく聞き、何を考え、どう感じているのかを把握すること。

「その上で、ニーズに合わせた提案を考えています。お客さまの中には、乗馬体験に参加してみたものの『怖くて無理』とか『動物は苦手』という方もいらっしゃいます。そういう方には『では、ゆっくりやりましょう』と不安を取り除きつつ、『でも、続ければ絶対に走れるようになりますよ』と目標をイメージしてもらいます。馬の上で固まってしまっても『大丈夫、そのうち慣れます』と、相手のペースを見ながら進めていくと、30分のレッスンが終わるころには『本当に慣れた。あなたの言う通りだわ』と言ってもらえる。乗馬体験を通して僕の言葉を信頼してもらえて、乗馬の楽しさを体感できれば、『続けてみようかな』という気持ちが高まるでしょう!? 1年前にも、体験レッスンのときは怖がって馬の上で固まっていた60代の女性がいましたが、今では1人でさっそうと乗っています(笑)」

 

吉川さんがやりがいを感じるのは、初めて乗馬を体験した人が「面白い! 私にもできそう」と目を輝かせてくれること。そして、最初は恐る恐る乗っていた人が会員になり、上達していく姿を目にするときだ。

「自分が店頭で案内してゼロから手がけたことが実を結んでいくようで、すごくうれしいですね」

 

今も忘れられないのは、入社3年目にスーパーマーケットで案内し、体験レッスンをした母子が、4年の月日を経て母子ともに入会してくれたことだ。

「体験してもその場では入会せず、後で申し込むというケースは珍しくありませんが、4年ごしの再会はうれしい驚きでした(笑)。当時は、お子さまがいくつも習い事をしていて経済的に余裕がなかったそうですが、中学校入学を機に乗馬を始める決心をしてくださった。4年たっても覚えていて連絡をくれ、入会してくださるなんて、本当に感動しました」

 

実は、吉川さんの特技は一度会った人の顔を忘れないこと。もちろん、この母子のことも覚えていた。

「自分もそうですが、1度しか会っていない相手に覚えていてもらえるとうれしいでしょう。お客さまの中には体験レッスンから数カ月たってからご連絡くださる方もいますが、『体験レッスンのときはこうでしたね』と話しかけることができれば、入会への気持ちがより高まると思うんです」

 

営業の仕事に就いてから3年間、吉川さんは、体験レッスン参加者と交わした会話や、乗馬中の反応などを書き留めたノートを作成し、顔と一緒に記憶にとどめておく努力を積んできた。入社1年目は新人の中で2位、3年目には全国2位の営業成績に輝いたのは、吉川さんのこうした努力のたまものと言えるだろう。

 

サブチーフの仕事を意識するようになったのは、4年目。「上司の仕事を奪って、どんどんやってみよう」と密かに思いながら仕事をするようになった。こうして、5年目にはサブチーフに昇格。7年目にはチーフに昇格した。責任者として売り上げ数字のプレッシャーは高まったが、入社時には700名強だった三重県の会員数が現在は850名近くになり、全国の事業所の中でも成績は良好だ。

「僕はやっぱり馬に乗るのが好き。だから、今後はクラブ運営を学び所長を目指すつもりです。入社以来、ずっと三重に勤務しているので、次の目標は、もっと大規模な事業所に異動して経験を積むことですね」

 

体験レッスン後は、初めての乗馬の感想などを聞きながら、会員システムの案内を行う。最近は、健康維持やダイエットのために乗馬を始める人が増えているそう。

■   吉川さんのキャリアステップ

STEP1 2004年 学業の合間に内定者研修を行う(入社前)

内々定後の8月から3月まで、学業の合間に内定者研修に参加。大学が北海道にあり、一番近い施設が仙台だったため、毎月1週間まとめて仙台に泊まり込んで研修を行った。騎乗に慣れるとともに、お客さまの気持ちを理解するため、お客さまと一緒に乗馬レッスンに参加したほか、厩舎(きゅうしゃ)の掃除や馬の世話などを経験。食事やカラオケ、スキーなど、会社の人たちと仕事以外での付き合いも重ね、会社の方針や仕事に対する姿勢など、実務以外でも多くを学んだ。
STEP2 2005年 新人約50名中、第2位の営業成績を収める(入社1年目)

三重事業所の営業部に配属となる。山間にある小規模なクレイン三重は、交通アクセスも良いとは言えず「ここで会員を増やすことができるのだろうか」と不安を覚えたが、新聞広告やチラシの配布、スーパーマーケットの店頭などでの集客活動を通じて、乗馬体験レッスンの申込者を獲得。新入社員約50名中、第2位という営業成績を収め、仕事の達成感を味わう。3年目には全国の営業担当者の中で第2位となる。3年目に乗馬指導者資格(全国乗馬倶楽部振興協会認定)を取得。
STEP3 2008年 自ら提案したPR活動で集客に成功。変わることの面白さを実感(入社4年目)

体験レッスン者を増やすため、さまざまな新しい手法を模索する中、4年目に自ら提案した“着ぐるみを着て注目を集め、体験レッスン参加者を募る”PR活動が成功し、大きな集客につながった。それまでは既存のものを変えることに対する苦手意識があったが、この成功体験を機に、変化していく面白さに目覚める。このころからサブチーフの仕事ぶりを意識して行動するようになり、09年、営業部サブチーフに昇格。
STEP4 2011年 営業部チーフに昇格(入社7年目)

サブチーフとして、現場のシフト調整などをほぼ自分で判断できるように。売り上げ会議にも出席するようになり、個人の数字ではなく、部署全体で数字を見ることができるようになり、チーフに昇格。マネジメントでは、メンバーになぜそうするのかという仕事の意味を伝えるよう心がけている。また、異なる意見にもきちんと耳を傾け、腹落ちするまで話し合い、メンバーにきちんと伝えることを意識している。

■ ある日のスケジュール

8:30 出社後、その日のシフト表をチェック。担当馬の治療や運動を兼ねて、騎乗。
9:30 10時の営業開始前に施設内をチェック。駐車場からホール、厩舎までお客さまの動線を歩いて、汚れていないか、危険がないかを確認。馬場に体験レッスン用のラチ(フェンス)をつくる。体験レッスン者を迎え入れる準備をする。
10:30 体験レッスン者をお迎えして、受付。記入していただいたアンケートをもとに話をしながら、道具合わせを行う。マンツーマンで約30分のレッスン後、厩舎案内や会員システムの説明を行う。
12:00 乗馬クラブ内にあるレストランでランチ。
13:00 新聞広告の原稿を作成。その後、翌日のシフトを作成する。
14:30 事業所運営会議に参加。その後、営業活動で外出しているスタッフの状況を確認。月間行動予定表の作成、DMやチラシの準備などを行う。
17:30 イベントで集客した体験レッスン参加予定者への確認電話、Webからの問い合わせ客への連絡などの事務処理を行う。担当馬の体調をチェックした後、19時ごろ退社。

■ プライベート

2012年12月に長男が誕生(写真は生後2カ月)し、子どもと過ごす時間が増えた。休日は火曜と隔週月曜。家族4人でのんびり過ごすことが多い。

2013年2月、4歳になる長女を初めてスキーに連れて行った。吉川さんは長野県出身というだけあって、2歳からスキーに親しんでいて、フリースタイルのスキーでハーフパイプを滑るほどの腕前。

2013年5月、子どもを連れて、会社の同僚と一緒に津の海岸に潮干狩りに行ったときの写真。会社の同僚とはプライベートでも仲が良く、家族ぐるみで定期的にバーベキューなどに出かけている。

 

取材・文/笠井貞子 撮影/福永浩二