欧米では一般化しつつある定額音楽配信が、日本でも根付くのか。ソニーの挑戦が注目される。

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法律の改正は、ビジネスに大きな変化をもたらすきっかけになることが多い。できるビジネスマン必須の「法律改正」講座を読み解いてほしい。

■定額音楽配信:ソニーが1000万曲聴き放題サービスを開始

12年6月20日、違法配信と知りながらインターネット上から映像や音楽をダウンロードした場合、「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」の罰則を科す改正著作権法が成立した。

同法は被害者の告訴がないと起訴できない親告罪で、13年1月1日から施行されるが、一部違反ダウンロード刑罰に関する規定などは、12年10月1日から施行された。

著作権者の許諾を得ないで映像や音楽をネット上にアップロードする行為は09年から禁じられていて、「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」が科せられる。ダウンロードも違法とされてきたが罰金はなかった。

「違法配信かどうか利用者にはわからない場合もありますが、ネット上のダウンロードが無法地帯と化しているのは事実です。罰則をどれだけ厳しく適用するかは別にして、ダウンロードが規制されるとなると、音楽配信ビジネスも変わらざるをえないでしょう」

経済アナリストで獨協大学教授の森永卓郎氏はこう語る。

違法配信のダウンロードが引っ掛かるとなれば、当然正規のダウンロードサイトへのアクセスが増えることが予想される。

森永氏は、12年7月3日から日本市場でも始まったソニーの新しい定額音楽配信サービス「Music Unlimited」に注目しているという。

パソコンやスマートフォン、携帯ゲーム機などさまざまな機器からアカウント1つで、1000万曲以上の楽曲を聞き放題というのが売りだ。

「私としては、洋楽中心で邦楽がまだ少ないのが難点ですが、音楽配信サービスは今後、こうした定額制サービスが主流になるかもしれない。ただし定額制のダウンロードでは、コンテンツが根こそぎ持っていかれる恐れがある。ダウンロードの規制強化もあるので、ストリーミング配信にマーケットがシフトしていく可能性も高いと思います」(森永氏)

映像や音楽データを一度ハードディスクに取り込んでから再生するダウンロード配信に対して、ストリーミング配信はデータをダウンロードしながら同時に再生するやり方だ。データとして保存しないため、ストリーミング配信による視聴は、著作権上の問題が生じにくいとされている。

■イベントコンパニオンが泣く「改正労働者派遣法」
:カウンセラーや癒やしのビジネスの需要が高まる

リーマンショック後の不況下で「派遣切り」が大きな社会問題になったことを受けて、論議が続いてきた労働者派遣法の改正であるが、12年3月に「改正労働者派遣法」が成立して、10月から施行された。

改正された点は、派遣元企業に手数料割合(派遣料金と派遣労働者の賃金の差額、いわゆるマージン)の公開や、雇用の際に派遣労働者1人あたりの派遣料金の明示を義務付けるなど、改正法では派遣労働者の待遇改善につながる規制が強化されている。

一方、事業規制としては30日以内の短期派遣が原則禁止になった。当初は仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ「登録型派遣」や「製造業派遣」の原則禁止が盛り込まれたが、削除された。

「今回の改正法の本音は、企業に『派遣社員を減らして正社員を増やせ』ということです。しかし現実には企業は正社員数を絞る傾向にある。今の時代、正社員を切るのは大変だから、最低限の正社員しか採らない。すると今回の法改正によって、企業にとっては忙しいときに短期的に雇っていた派遣労働者が使えなくなるかもしれないと、残った正社員や非正規社員の仕事の負荷が上がってくる可能性があります」

ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏はこう語る。一方、今回の改正法で保護されるはずの派遣労働者だが、現実は厳しい。30日以内の短期派遣の原則禁止という新規制のため、働き先が制限されて仕事にあぶれる労働者も出てくるだろう。日雇い派遣に当たるイベントコンパニオンの仕事なども規制に該当する。イベントコンパニオン泣かせの「改正労働者派遣法」になりかねない。

「イベントコンパニオンとか、コンサートの警備員とか、日雇い派遣で働いていた労働者は派遣という形態では仕事ができなくなる。すると、直接雇用か、職業紹介という形になってくる。その意味ではハローワークが復権する可能性もある。人材派遣会社も短期派遣では食べられなくなり、紹介料の取れる人材紹介業に軸足を移す動きが出てくると思います」(森永氏)

よし悪しは別にして、派遣労働者は景気変動における雇用の調整弁として機能してきたが、これからはその役割を果たさなくなるかもしれない。今回の改正法は改悪になりかねないと、深野氏は指摘する。

「派遣を使えなくしたからといって、正社員が増えるわけではない。今回の改正法は正社員にも派遣社員にもメリットが少ない。むしろ労働環境が厳しくなって、うつ病などが増えてくる恐れもあります。カウンセラーや癒やしビジネスの需要が高まったり、宗教的なものが流行る素地になるかもしれない。非正規で働けなくなり、年金や健康保険料の未納が増えるでしょう」

■相続大増税:基礎控除額は法定相続人3人で4800万円に

「社会保障と税の一体改革」に消費税の増税とともに盛り込まれた相続大増税。今国会では消費税論議が優先されて先送りされたが、相続大増税の流れは変わらない。早ければ15年1月からの実施が見込まれている。

相続大増税のポイントは3つ。基礎控除の減額、最高税率の引き上げ、死亡保険金の非課税枠の縮小だ。

深野康彦氏はこう解説する。

「たとえば夫婦に子ども2人の4人家族で、父親が亡くなった場合、現在の基礎控除は『5000万円+法定相続人の数×1000万円』ですから、基礎控除額は8000万円だった。それが今度は『3000万円+法定相続人の数×600万円』に数式が変わる。つまり、基礎控除額は4800万円に減額されて、5000万円の遺産相続でも相続税がかかるようになります。さらに最高税率が5%アップして55%になる。生命保険の死亡保険金に関しては、相続人1人当たり500万円の非課税枠があります。これが改正後は生計を一にしている法定相続人しか認められなくなる」

相続税といえば富裕層が払う税金というイメージが強い。実際、課税割合(相続全体の中で相続税を払った割合)は4.2%しかない(09年時点)。

しかし、相続大増税によって課税対象者は確実に増える。そのため、一般サラリーマンにとっても全くの無縁ではなくなるのだ。

「課税される相続人が倍増するという見込みもあります。だから多くの人が、すでに生前贈与などの相続税対策を始めている。今後は節税関連のビジネスが流行ると思います。するとアパートやマンションが増えるかもしれない。貸家建付地(貸家を目的とした宅地)ということになれば、土地の評価額を下げられますから」(深野氏)

ハウスメーカーなどは相続大増税を当て込んだビジネスをすでに展開しているというが、注意も必要だ。

「大体、住宅ローンやアパートローンを組んで建てることになりますが、それで評価額を下げて節税できたとしても、アパート経営が成り立つかどうかは別問題。人口減時代、そのうえ、デフレの状況下で、借金してアパート経営をするのは極めてリスクが高いです」(深野氏)

■消費税率アップ対策:消費税増税がビジネスチャンスに?

消費税増税のための「社会保障と税の一体改革法」が成立し、14年4月1日に8%、翌15年10月1日には、10%に消費税が引き上げられることになった。

13年8月までに衆議院選挙が行われるので、増税の是非を問う機会はまだ残されているが、来るべき大増税時代への備えは必要だ。

「消費税増税をビジネスチャンスと見るなら、まずは高額商品でしょう。税率が一律なら高額商品ほど負担感が強いから駆け込み需要で売れるのです。典型的なのは家、それもマンション。なぜなら土地には消費税はかからないから。“マンションブーム”の予感もあり、最近はモデルルームの見学者が増えています」(深野氏)

住まいが新しくなれば、家具や電化製品も買い替えることが多く、車や耐久消費財などの高額商品も売れる。ただし、忘れてはならないのは、新たな需要が掘り起こされたわけではなく、需要の先食いにすぎないということだ。その先に待っているのは凍てつく冬である。メーカーサイドは、いかに在庫を残さないで撤退するかを考えておく必要がある。

「個人の消費税率アップ対策というなら、金(ゴールド)を買っておくという手もある。増税前に金を買って、増税後に売れば消費税上昇分の鞘が取れる。今、金がグラム4000円前後だから、1キロ400万円で、5%の鞘が取れたら20万円。銀行に預けるより全然いい。問題は金価格の動向ですが、世界的な通貨不安は当面、解消されないし、私はアメリカが利上げすることはないと考えています。金が大きく売られることはないでしょう」(深野氏)

消費税増税後に未曾有のビッグチャンスがやってくるというのは、森永卓郎氏。

「消費税増税だけではなく、13年から復興増税が始まるし、厚生年金保険料が13年10月までに0.354%ずつ、3回上がる。健康保険料も恐らく、0.5%ずつ3回上がる。ざっくり計算すると、年収500万円の標準世帯で年間で30万円弱くらい負担が増える。500万円の収入で30万円も手取りが減れば、今のデフレが激烈なデフレに変わります。そこで最大のビジネスチャンスがやってくる」

かつての昭和恐慌や97年の韓国の通貨危機のような状況が訪れると森永氏は指摘する。

「昭和恐慌のときに、ものすごい勢いで資産規模を拡大したのが三井、三菱。昭和恐慌が財閥をつくったんです。韓国の通貨危機でも外資とお金持ちが一気に資産を増やして、韓国は超格差社会になった。これから日本でも同じようなことが起こり、キャッシュポジションの高い人が1人勝ちすると思います」

小金持ちでも、マンションを買うくらいの資金でビル1棟が買える時代がやってくると、森永氏は予測する。

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経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
森永卓郎
東京大学経済学部卒業後、日本専売公社(現JT)に入社。三和総合研究所などを経て、2006年から現職。

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ファイナンシャルリサーチ代表
深野康彦
東京経済大学卒業後、クレジット会社に勤務し、1996年に独立。ファイナンシャル・プランナーとして活躍中。

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(小川剛=構成 的野弘路=撮影)