セミナーの様子。右が土井先生。パネルはカモミールの花

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明治時代ごろの女性は、生理が一生涯で50回程度しかなかったそうだ。まさかと思うかもしれないが、詳しい説明を聞けば、なるほど、確かにそうかもしれないと思う。

「15・16歳で初潮がきて、18・19歳でお嫁にいって、20歳前に子どもを産み始めて、平均寿命は46歳くらい。粉ミルクがないから、1回出産すると1年半くらい授乳をしている。そのあいだは無月経で、月経が戻ったらすぐにまた次の子を妊娠する。一生涯に7〜8回出産する。妊娠はもっとしていたらしいですね」

そう教えてくれたのは、湘南記念病院かまくら乳がんセンターの土井卓子センター長。もちろん、実際の出産回数や初潮年齢には個人差があるし、平均寿命が低いのは乳幼児の死亡率が高かったせいもあるが、50回というのもありえない数字ではない。

先日、株式会社カミツレ研究所がメディアセミナーを開催。土井先生が乳がん治療の現状を説明してくれたのだが、冒頭の生理の話もその中で出た。

乳がんの現状は、なかなかシビアだ。現在、日本では年間約6万人が罹患しており、日本人女性は生涯で15人に1人が乳がんにかかっている。また、乳がん生涯死亡確率は1.8%で、年間1万3,000人近くが命を落としている。7.9人に1人が乳がんにかかる欧米に比べればまだ少ないが、1999年に厚労省が立てた予想より、増え方は非常に速い。

原因は何か? 大きく2つ考えられる。1つは食生活の変化、そしてもう1つは生活様式の変化。それによって女性自体が変化しているのだ。

まず、脂肪食や高カロリー食が増えたことで、成長が早期化。初潮が早くなり、身長が早く高くなるようになった。さらに、閉経後、肥満になる人が増えた。生活スタイルも変わり、初産は遅く、出産回数が少ない。最近は11歳くらいに初潮がくる人が多く、一生涯の月経数は550回ほどにもなるという。

このほか、長期にわたる不規則な生活も原因になる。実際、キャビンアテンダントやナースのように昼夜逆転の生活を10年以上繰り返すと、乳がんの比率が1.2倍くらいに増えるといわれているそうだ。

それでは、どうすれば乳がんにかからないか? 
「まず、お酒は控えめに。毎日ビールジョッキ2杯以上、または日本酒2合以上、またはワイングラス2杯以上飲む人はそのアルコール量に比例して乳がんが増えます」
ちなみに、それ未満であればまったく関係しないとのこと。

そして、適度な運動。週に3回以上運動すると乳がん比率が3分の1くらい減る。
「つまり、お酒はほどほどに楽しんで、よく運動して、不規則な生活をしないようにして、閉経したら太らないようにすることですね」
また、ホルモン補充療法はやる前に主治医と相談・検診してからやることも大切だという。

一方で、乳がんにかかってしまった場合の治療方法も進化している。ホルモン剤や抗がん剤の種類も増え、効果的な投薬方法もわかってきた。手術も患者さんの負担が少なく、きれいな乳房が残せるようにもなってきている。
「ただ、規定量・規定数の抗がん剤をやれば効くことはわかっていても、それが結構つらいんです。でも中途半端にやったらまったくやらなかったのと同じ結果になってしまう。どうしたらがんばって完遂できるのか、というところですよね」
抗がん剤の副作用や手術後の肌トラブルなどがつらく、心が折れそうになる人も少なくないという。

「患者さんにとっては、具体的ながん治療だけじゃなくて、支えるという側面がないとうまく治療ができないと思っています。心もそうだし、傷もそうだし、体も支えたい」
土井先生の病院では副作用に対してリラックスするよう伝えたり、肌トラブルに対する基本的なスキンケア方法を教えたりはしているものの、忙しい医療現場においては手が回りきらない現実もある。

ところで、今回セミナーを主催したカミツレ研究所では、1982年から国産のジャーマンカモミールを使った薬用入浴剤「華密恋」を販売しているのだが、実はこれを土井先生の病院の乳がん患者さんたちに使ってもらったところ、放射線の皮膚障害が出にくくなったり、ホルモン剤の副作用による更年期症状の改善などが見られたらしい。また、その後、NPO法人女性医療ネットワーク「マンマチアー委員会」やKSHS「乳がん、キチンと手術・ホンネで再建」と協力しておこなった「華密恋」の使用に関するアンケートでも、乳がん治療中の人や治療後の乳がんサバイバーから、「肌の状態がよくなった」「ストレスが軽減した」という声が多数寄せられた。※個人の感想であり効果・効能には個人差があります。

「もちろん、私が華密恋の見本を患者さんにあげているのは、別にこれを売りたいとかいうことでは全然なくて。支えながら治療をうまくやろうというメッセージでもあるんです」
と土井先生。

医療技術が進歩する一方で、実際の治療以外に患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)アップが求められている昨今。入浴剤はその一例であり、ほかにもいろいろなことができるはず。それを探し、実践していくのは、まだまだこれからの課題といえそうだ。
(古屋江美子)