前回の記事で、今後、住宅ローン金利は、低下したとしても昨年12月あるいは今年4月並み程度で、むしろ上昇する可能性のほうが高い、と書いた。

 各銀行の住宅ローンの主力商品となっている10年固定型を例にとると、5月のローン金利は1.4%(メガバンクの最優遇金利のケース)で、そこからの低下幅は0.1%あるかないか、という予想だ。その理由は、長期金利の低下余地がそれほど見込めないことによる。

 市場金利の低下を目指した日銀の強力な金融緩和が4月に実施されたばかりで、少なくとも2年程度は継続されることになっている状況において、今後の長期金利があまり下がらないと言われると、違和感を覚える人も多いだろう。しかし、こうした予想は私1人がしているわけではなく、すでに、長期金利の上昇という事態をもって、金融市場がそうした予想をしているのである(※その結果、5月の10年固定型のローン金利は引き上げられた)。

 過去の金融市場を見てみると、日銀が実施した金融政策とは、逆の方向に長期金利が動いたケースは珍しくない。政策金利の引き下げなど金融緩和したにもかかわらず金利が上昇したり、逆に、政策金利を引き上げて金融引き締めをしても金利が低下することがある。

 日銀の意図とは裏腹に、そうした事態が生じてしまうのは、日銀が操作できる政策金利が「翌日物」という1日分の金利であり、長期金利の水準は金融市場に委ねられているせいである。日銀が利下げをして金融緩和をしても、それが5年先、10年後といった将来のインフレにつながると金融市場が判断すれば、長期金利は上昇してしまう。今回、日銀が金融緩和を実施して、1か月足らずで長期金利が上昇してしまったのは、まさに、同じメカニズムが働いたことによるものだ。

 ただし、今回の日銀の異次元の金融緩和は、過去と違う点がある。それは、長期国債を市場で大量に購入することで、長期金利の水準に直接影響を与えることができるのだ。長期国債の購入は毎月実施され、長期金利には低下圧力が継続的にかかることになる。しかし、それでも4月下旬には長期金利は小幅上昇し、5月にかけて横ばいの動きが続いている。金融市場は、金融緩和実施直後の4月5日に付けた0.315%という、長期金利の歴史上の最低利回りを大底として、金利上昇を想定しているといえよう。

■いつから、どのくらい上昇するのか?

 では、金利が上昇に転じるとして、それはいつ頃から? どのくらいの幅で上昇するのか? 1つの目安を出しておきたい。現在の日銀の金融緩和と近い内容の金融緩和をしているのは、米国の中央銀行であるFRBだ。その米国の状況をチェックしてみると、ここ数か月の消費者物価の上昇率は、前年比で1.5〜2.0%となっている。

 その間、10年物の米国債は1.6〜2.0%の水準で推移している。一方、日銀は2年後に消費者物価の上昇率を前年比2%にすることを目標としており、仮に、2%に近い上昇率となるのであれば、米国の事例から考えて、日本の10年債は1.5%を超えてくることが十分に予想される。1.5%というと、現状の水準からは約1%高い。長期金利が1%上昇すれば、住宅ローン金利の10年固定型も1%程度上昇すると考えるのが自然だろう。

 肝心の物価が、日銀の狙いどおり、2%になるかどうかについては、金融市場でも議論百出の状態だ。どちらかというと、国内のエコノミストや金利および為替のアナリストは「困難」と見ている人が多数派で、海外のエコノミストやアナリストは「十分達成可能」と見る人が多数派。ここで個人的な見方を紹介するのは、かなり気が引けるが、私は「十分達成可能」だと思っている。消費税の引き上げが予定されているからだ。

 物価の予想をするエコノミストやアナリスト、当の日銀も、なぜか消費税の影響については言及をしていない(厳密に言えば、日銀は「消費税の引き上げが景気に与える影響は小さい」とは述べている)。しかし、消費税の引き上げは、消費者物価の上昇の大きな要因となるはずだ。

■2年後に2%の物価引き上げは可能な数字

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券が作成したレポートによると、14年4月の5.0%から8.0%への引き上げは2.0%、15年10月の8.0%から10.0%への引き上げは1.3%、それぞれ消費者物価を押し上げると分析している。この押し上げ効果の数字が多少下振れしたとしても、2年後=2015年中の2%達成は十分にあり得るのではないだろうか。

 日銀の2%という目標には、消費税引き上げの影響は「排除」するとも、「含む」とも、言及がなされていない。だが、2%には至らなくとも、1.5%前後になってくれば、20年続いた日本のデフレは終わりつつある、という見方が強まると思われる。この想定を前提とすれば、8.0%に引き上げられる14年4月以降には、長期金利は本格的に上昇に転じる可能性が高い。実際には、一本調子ではないものの、今年の後半から長期金利は少しずつ上がってくるのではないだろうか。

 となれば、住宅ローンは、変動金利型は短期金利に連動するため、1〜2年で急上昇するわけではないが、4〜5年といった期間を考えると、10年固定型に比べて不利になってくると予想される。10年以下の固定型についても、現状、10年固定型とそれほどの金利差があるわけではないため、選ぶメリットは少ない。住宅ローンを新規に借り入れる、あるいは借り換えようと考えている人は、10年以上の固定型を選択するのが賢明だろう。

(文/松岡賢治)

マネーライター、ファイナンシャルプランナー/シンクタンク、証券会社のリサーチ部門(債券)を経て、96年に独立。最新刊に『人生を楽しむマネー術』(共編著)。