人の体やタンスなど、重いものを動かす技術を介護専門家に聞いてみた

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「もしも両親が」などと考えるとき、介護技術の基本くらい知っておくべきなのかと思ったりします。愛情だけではどうにもならない介護。医療福祉コンサルタントの井上ルミ子さんに「自由を失った重たい身体を介護する技術」を尋ねてみました。基本となる技術、”ボディメカニクス”なるものは、身体だけでなく重たい家具を動かす技にも通じるところがあるとか。そんな、介護だけでなく日常にも使える技術を伝授していただきました。

――井上さんは保健師、助産師、看護師、社会福祉士、介護支援専門員などたくさんの資格をお持ちですが、主なお仕事は?

「介護事業所の運営に関するコンサルティングの仕事です。介護スタッフの採用、教育、配置からリーダーの指導の在り方まで、施設ごとにコンサルの内容はいろいろ。現場で発生する課題を現場のスタッフと一緒に振り返り、一緒に解決の方法を考えていく、そんな毎日ですね」

――介護福祉士の方の指導もなさるわけですね?

「指導というか、介護に携わる方たちが、自分たちの仕事にやりがいや誇りを持てるようになってほしい、そんな気持ちで接しています。人と接し、心が触れ合うことから得られる喜び、通じ合うときの感動。そんな介護の仕事の魅力をもっともっと感じ取れる環境が作れたらうれしいですね」

――介護福祉士は女性が多いですが、よく重たい要介護者の方の介助ができますよね?

「大柄な要介護者の場合は極力男性が担当するようにしますが、女性の介護福祉士も”ボディメカニクス”という身体介護の基本技術を習得して負担を軽くしています。

力まかせの介護は腰痛の原因になりますし、介護者にも不快感や苦痛、痛みを与えがちです。ボディメカニクスの理解と習得によって、最小の労力で疲労の少ない介護ができるようにしているんですよ」

ボディメカニクスとは力学的な原理を応用した介護技術のこと。以下、井上さんに教えてもらったボディメカニクスの6つのポイントを紹介します。

まず第1に、「支持基底面」を広くし重心を低くすること。支持基底面とは、簡単に言えば両足の開き幅で、足を開き、膝を曲げ、腰を落とす姿勢が介助の基本姿勢だそうです。第2に要介護者にできる限り接近すること。第3は身体を無理にねじらないこと。第4は梃子の原理を応用すること。持ち上げるというより、シーソーのように支点を作ることで負担は随分軽くなるそうです。例えば寝たきりの人を起こす場合は、その人のお尻を支点にすると少ない力で介助が可能になるのだとか。

第5は膝の屈伸を利用すること。足を伸ばした前傾姿勢では腰に負担が集中するので、上体(腰)だけでなく膝の屈伸を利用して要介護者の身体を動かすことが求められます。そして第6が、要介護者の手足など身体をできるだけ小さくまとめて、力の分散を避けることだそうです。

「ボディメカニクスの考え方は、テーブルなどの重たい家具を移動させたりする場合にも使うことができます。手を伸ばしたまま、足を伸ばしたまま家具を移動させようとすると重く感じますが、テーブルに近づき腕を縮め、重心を低くして膝の屈伸を利用することで、随分軽く感じることができるはずです」

いつか直面するかもしれない介護に備える意味でも、介護士の技術であるボディメカニクスを応用してみてはいかがでしょうか。

Profile

井上ルミ子(いのうえるみこ)

Care styles consultingを開業し、医療・福祉コンサルタントとして日本全国の介護事業所の運営サポートに携わる。保健師、助産師、看護師、社会福祉士、介護支援専門員、社会福祉施設長資格修了、福祉住環境コーディネーター2級、産業カウンセラーなど資格多数。